1970年代 J−POPs アルバム紹介


そのうちに風呂屋でグレゴリオ聖歌が聞けるかもしれない。税務署の待合室で坂本龍一が聞けるかもしれない。
「ダンス・ダンス・ダンス」/ 村上春樹


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以下のアーティストの1970年代のアルバムを紹介しています(あいうえお順)。( )内の数字は紹介中のアルバム数です。

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 ■荒井由実/松任谷由実(1954生) 
 東京の生まれ。72年にシングル「返事はいらない」でデビュー。アルバム・デビューは73年の「ひこうき雲」。75年にはバンバンに提供した「いちご白書をもう一度」がヒットした。同年、アレンジャ−の松任谷正隆と結婚。"ニューミュージックの女王"と呼ばれた。

○ '70年代 ディスコグフィー
  • 悲しいほどお天気 '79 Dec.
  • OLIVE '79 Jul.
  • 流線型 '80 '78 Nov.
  • 紅雀 '78 Mar.
  • 14番目の月 '76 Nov.
  • コバルト・アワー '75 Jun.
  • ミスリム '74 Oct.
  • ひこうき雲 '73 Nov.

○ アルバム紹介(発表年降順)
  • ミスリム/荒井由実 '74 Oct. 
    @生まれた街で A瞳を閉じて Bやさしさに包まれたなら C海を見ていた午後 D12月の雨 Eあなただけのもの F魔法の鏡 Gたぶんあなたはむかえに来ない H私のフランソワーズ I旅立つ秋
     
     ユーミンの2ndアルバムで、井上陽水の「氷の世界」と並び、70年代J−POPを代表する傑作アルバムです。個人的にもいちばん好きなアルバム。
     ユーミンは、「ひこうき雲」とこのアルバムを "私小説的"と言ったそうだけど、内省的な曲の多い1stアルバム「ひこうき雲」と、サウンドにポップ性が強まり、歌詞のフィクション度も高まった3rdアルバム「コバルト・アワー」(これも傑作)の間にあって、叙情性とポップ性が調和した完成度が極めて高い作品となっています。収録された全曲が名曲であるところも「氷の世界」と同様です。バックの演奏とアレンジは、前作と同じくティンパン・アレイですが、より多彩で緻密なサウンドが聴かれます。アルバム随所で聴かれる効果的なバック・コーラスはシュガー・ベイブ(山下達郎、大貫妙子)。
     
     「生まれた街で」、「瞳を閉じて」、「やさしさに包まれたら」:冒頭の1〜3曲ですが、いずれも爽やかさ、明るさ、気分の高揚感に満ちた曲で、このアルバム全体のイメージを印象づけています。「瞳を閉じて」は、長崎県五島列島の小島に住む女子高生のリクエストに答えて、彼女の通う高校の校歌として贈った曲。「やさしさに包まれたなら」は、後年、宮崎駿のアニメ『魔女の宅急便』('88)の主題歌として使われました。
     「海を見ていた午後」:前3曲から一転して静かで美しいバラード。この歌で有名になった"山手のドルフィン"という横浜方面のレストランは、僕も教えてもらった記憶があります。
     「魔法の鏡」:歌詞が少女趣味的なこの曲が好き、というのはちょっと気恥ずかしいけど、メロディ、アレンジとも抜群の出来だと思う。
     「12月の雨」、「たぶんあなたはむかえに来ない」:これもユーミン独特のメロディ感覚を持った曲。
     「私のフランソワーズ」:ユーミンがシャンソン歌手フランソワーズ・アルディに捧げた歌のオマージュ。"あなたの歌に 私は帰るのよ さみしいときはいつも"と、ダイナミックに盛り上げていく歌唱とブラスを加えたアレンジが素晴らしい。
     「旅立つ秋」:ピアノとアコースティック・ギターだけのバックで歌われる愛の終わりを暗示した静かなこの曲で、このアルバムは閉じられます。短い曲だけど、メロディと詩の美しさは、アルバム中随一だと思います。
      
  • ひこうき雲/荒井由実 '73 Nov. 
    @ひこうき雲 A曇り空 B恋のスーパーパラシューター C空と海の輝きに向けて Dきっと言える Eベルベット・イースター F紙ヒコーキ G雨の街を H返事はいらない Iそのまま Jひこうき雲 
     
      
    大人へのドアがもう開いてしまったけれど
    これでいいのだと思う。
    今日のわたしは、今日のわたしがいちばん好き
    明日のわたしは、明日のわたしが きっといちばん好きになるだろう。
    詩「誕生日」より/荒井由実
       
     天才ユーミンの誕生を告げた彼女が19歳の時のファースト・アルバムです。ユーミンが書きためていた曲を配し、1年以上かけて制作したというこのアルバムでは、ティンパン・アレイ(細野晴臣、松任谷正隆、鈴木茂、林立夫)がアレンジとバックを務め、おまけにバック・コーラスには、山下達郎、吉田美奈子、大貫妙子が参加していて、当時のJ-POPシーンの最先端であった面々が集まって作りあげた、今考えるととんでもなく豪華な作品となっています。内容的にも、次作の「ミスリム」と並び、J-POP史の新しいページを開いた傑作アルバムです。
     このアルバムを通じてユーミンの曲を最初に聴いたときの衝撃、それまで経験したことのなかった新しい感覚のサウンド(松任谷正隆もコード進行の斬新さに驚いたらしい)、生活臭に無縁の歌詞、それに微妙にズレそうな音程にも魅力を感じました。
     このアルバムでは、冒頭に掲げられた詩「誕生日」や、タイトル曲「ひこうき雲」が示している彼女の私的な思いが綴られた歌詞が中心となっていること、さらにラストで再びこの曲の彼女自身によるピアノ弾き語りバージョンが演奏されていることなど、全体としてトータル・アルバム的な作りとなっています。
     「ひこうき雲」:冒頭とラストに置かれたこの曲は、ユーミンの幼友達の死をテーマにした曲です。"空に憧れて 空をかけてゆく あの子の命はひこうき雲"へと盛り上げていく曲構成と歌詞が調和していることも、この曲を名曲としている要素となっているのだと思います。
     「恋のスーパーパラシューター」:アップテンポで、のりのいい曲。この曲や「きっと言える」、「返事はいらない」のメロディ感覚は斬新。
     「空と海の輝きに向けて」:デビュー・シングルのB面曲で、ユーミンが自身の人生の門出を歌った曲で、空と海の空間的な広がりを感じさせ、とくに終盤、彼女自身のハイ・トーンを加えた二重唱による高揚感が素晴らしい。このアルバムでは、タイトル曲を始めとして、詩は"空"、"海"につながるイメージに満ちていて、抜けのよいサウンドと相まって、爽やかさを印象づけているようです。
     「ベルベット・イースター」、「紙ヒコーキ」、「雨の街を」:いずれも大好きな曲。とくに"誰かやさしくわたしの 肩を抱いてくれたら どこまでも遠いところへ 歩いてゆけそう"と歌う叙情感漂う「雨の街を」はアルバム中、いちばん好きな曲。


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 ■石川セリ 
 日活映画「八月の濡れた砂」('71藤田敏八 監督作品)の主題歌でデビュー。モデル経験もある容姿と、けだるい歌声が魅力の都会派シンガー。荒井由実、井上陽水、矢野顕子、南佳孝、来生たかおなどニューミュジック系ソングライターが多くの曲を提供している。'78年に井上陽水と結婚。

○ '70年代 ディスコグフィー
○ アルバム紹介(発表年降順)
  • ネヴァー・レッティング・ゴー/石川セリ '78 Jun. 
    @素顔のままで Aワン・シング・オン・マイ・マインド Bハウ・メニー・ライズ Cあふれ出る涙 D二人だけ Eミッドナイト・プラウル Fデスペラード Gアントニオの歌 H愛は惜しみなく Iネヴァー・レッティング・ゴー 
     
     海外の'70年代AOR(Adult Oriented Rock)・ポップスのカヴァー集の傑作で、セリほどこういう企画にふさわしい歌手は、今に至るまで他にはいないのではないか。彼女の醸し出す都会的なけだるさにぴったりの選曲とアレンジ(瀬尾一三)もすばらしい。中でも、「素顔のままで Just the way you are/Billy Joel」や「二人だけ We're all alone/Boz Scaggs」やイーグルスの「デスペラード Deperado」などのよく知られた名曲、それに「アントニオの歌 Antonio's song ( The rainbow)/Michael Franks」や「How many Lies/Veronique Sanson」などのメロウ・サウンドが耳に心地いいアルバムです。


    ストレンジャー '77
    / ビリー・ジョエル
    「素顔のままで」を収録した
    ジョエルの代表作


    シルク・ディグリーズ '76
    / ボズ・スキャッグス
    「二人だけ」を収録した
    AORの代表的名盤


    ならず者 Desperado '73
    / イーグルス
    超名盤 「Hotel California」は
    '76年のアルバム

  • 気まぐれ/石川セリ '76 Dec. 
    @ムーン・ライト・サーファー Aひとりぼっちの日曜日 B昨日はもう Cミッドナイト・ラブコール Dホワイ Eダンスはうまく踊れない Fすれ違いハイウェイ Gフライト Hるれーぶえらび I気まぐれ 
     
     井上陽水が3曲(E、G、I)、中村治雄(パンタ)が2曲(@、A)、そのほか矢野顕子(B)、南佳孝(C)、芝紀美子(D)、来生たかお(F)、長谷川きよし(H)が1曲づつと、70年代に活躍したそうそうたる面々が曲を提供していて、セリ70年代の代表作と言っていいと思います。
     多人数のソング・ライターの作品によるアルバムだけどアルバムとしての統一感がとれていて(B以外は矢野誠が編曲)、前作よりポップ感が増し、それにセリの持ち味だと思う都会的な気だるい感じが生かされているところが魅力です。
     陽水の曲の中では、「ダンスはうまく踊れない」が、セリのイメージを決定づけた名曲。その後、陽水自身も歌っているし、高樹澪がカヴァーしているけどオリジナルには及ばない。陽水は自作のレコーディングにはギター、ブルース・ハープ、バック・コーラスで参加していて、さすが気合が入っています。
     全曲、優劣つけがたい佳曲揃いだと思うけど、個人的にはアンニュイな雰囲気の「ホワイ Why」がとくに好きで、"JAZZが好きなのに ディランを聴いて 涙が出るのはなぜ" のサビが泣かせる。
     

  • ときどき私は・・・SER/石川セリ '76 Jan
    @イントロダクション〜朝焼けが消える前に A霧の桟橋 Bときどき私は..... C虹のひと部屋 Dなんとなく... Eさよならの季節 Fひとり芝居 Gセクシー Hタバコはやめるわ I優しい関係 Jフワフワ・WOW・WOW K遠い海の記憶
      
     作曲者としてクレジットされているのは、荒井由実が3曲(@、A、F)、1stアルバム「パセリと野の花」の全作品を作曲している樋口康雄(J、K)、瀬尾一三(C、E)と下田逸郎(G、H)がそれぞれ2曲ずつとなっていて、やはり勢いというべきか荒井由実の作品(編曲はいずれも松任谷正隆)が断然光っています。「霧の桟橋」など前奏に続いてユーミンの声が聞こえてくる錯覚を覚えるくらいのユーミン・ブランド・ミュージック。とてもいい曲ですが、ただセリにはちょっと透明感が際立ちすぎるかなという気がしないでもありません。
     「さよならの季節」、「セクシー」などセリ向きのいい曲だと思う。「優しい関係」はモノローグとスキャット中心の曲で、この頃こういうスタイルの曲がはやっていたみたい。でもなかなか雰囲気があっていいです。


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 ■井上陽水(1948生) 
 福岡県出身。'69年にアンドレ・カンドレの名でレコード・デビューするが注目されず、'72年3月に本名の井上陽水に改名し(本名では "陽水"は、"あきみ"と読む)、「人生が二度あれば」で再デビューした。アルバム『氷の世界』は、国内初のミリオン・セラー・アルバムとなった。'75年に、吉田拓郎らとともに、フォーライフ・レコードを設立した。'78年に歌手の石川セリと再婚している。

○ '70年代 ディスコグフィー
  • スニーカー・ダンサー '79 Feb.
  • "WHITE" '78 Jul. 
  • 東京ワシントン・クラブ '76 Dec.
  • 招待状のないショー '76 Mar.
  • 陽水生誕 アンドレ・カンドレから陽水へ '75 Jul.
  • 二色の独楽(こま) '74 Oct.
  • 氷の世界 '73 Dec.
  • 井上陽水ライブ もどり道 '73 Jul.
  • 陽水Uセンチメンタル '72 Dec.
  • 断絶 '72 Jun.

○ アルバム紹介(発表年降順)
  • 氷の世界/井上陽水 '73 Dec. 
    @あかずの踏み切り Aはじまり B帰れない二人 Cチエちゃん D氷の世界 E白い一日 F自己嫌悪 G心もよう H待ちぼうけ I桜三月散歩道 JFun K小春おばさん Lおやすみ
      
     '70年代J-POPを代表するアルバムというだけにとどまらず、国内外の過去のポップス・アルバムの中でも屈指の傑作アルバムだと思います。「U センチメンタル」に充溢していたセンチメンタリズムとロマンティシズムに、さらにサウンドに力強さもブレンドされて、トータル・アルバムとしてバランスよく仕上がっています。星勝のアレンジの素晴らしさも特筆すべき。日本での初のミリオンセラー・アルバムとなりましたが、それも当然と納得できる全曲名曲ぞろいです。今だったら間違いなく 500万枚以上は売れただろう。録音はロンドンと日本のスタジオで行なわれていますが、当時は海外での録音は極めてまれでした。
     
     @からBまで、切れ目なく演奏され雰囲気を盛り上げていて、アルバム導入部として成功しています。陽水が心酔していたビートルズの『アビー・ロード』を意識しているのかもしれません。「あかずの踏み切り」は、「ライブ もどり道」に収録されていた曲ですが、アレンジが大きく変わって、迫力が格段に増しています。「帰れない二人」は忌野清志郎(RCサクセション)との共作のバラード。口ずさみたくなるいい曲です。
     「氷の世界」:シュールな歌詞とサウンドがマッチした傑作。"人を傷つけたいな 誰か傷つけたいな"という攻撃性の表出は、これまでの陽水の内向的な姿勢からの心境の変化を示すものとして、サウンドの斬新さと共に興味深い。バック・コーラスの部分は、ピンク・フロイドの『狂気』の「虚空のスキャット」の影響ではないかな。
     「白い一日」:小椋佳の作詞による共作です。個人的にものすごく好きな曲で、音域もそれほど広くないこともあって、ギターのアルペジオの弾き語りで飽きることなく歌っていました。陽水のセンチメンタルなメロディも秀逸だけれど、小椋さんの歌詞は、1篇の短編小説のよう。まっ白な陶磁器が喚起するイメージと、踏み切りの向うで通り過ぎる汽車を待つ大人になりかけた少女の君の面影が共鳴して.....哀しい。"踏み切り"は、手の届かないあこがれを象徴しているのだろう。
     「心もよう」:誰もが認める大名曲なので、とくにコメントしません。
     「待ちぼうけ」は「帰れない二人」同様、これも忌野清志郎との共作です。これもいい曲です。曲作りの分担はどうだったんだろうか。「桜三月散歩道」の歌詞は長谷邦夫によるもの、バックにストリングスも加えたアレンジも素晴らしい。郷愁を誘う「小春おばさん」に続いてラストの「おやすみ」へと至ります。"もうすべて終ったから みんな、みんな、終ったから"のエンディングで閉じるこの曲は、この時期の陽水らしさ全開の感傷に満ちた大好きな曲です。

  • 陽水Uセンチメンタル/井上陽水 '72 Dec. 
    @冷たい部屋の世界地図 Aあどけない君のしぐさ B東へ西へ Cかんかん照り D白いカーネーション E夜のバス F神無月にかこまれて G夏まつり H紙飛行機 Iたいくつ J能古島の片想い K帰郷(危篤電報を受け取って)
     
     『氷の世界』の陰に隠れている感じだけど、このアルバムも佳曲満載の文句なしの傑作です。『氷の世界』でのタイトル曲や「心もよう」のようなモニュメンタルな曲はないけれど、初期の陽水を特徴づける感傷的なメロディアスな曲が多く、『氷の世界』よりも親密な感じがして、大好きなアルバムです。『氷の世界』同様、星勝の卓越したアレンジが大きく貢献しています。
      
     「冷たい部屋の世界地図」: アルバム最初の曲ということからか、コンサートが始まる前のストリングスの音合わせのようなサウンドから "はるかな はるかな見知らぬ国へ ひとりで行く時は船の旅がいい"で始まるノスタルジックで、海の拡がりと開放感を見事に表現した曲で、陽水の伸びのあるハイ・トーンが気持ちいい。
     「あどけない君のしぐさ」:"せんたくは君で 見守るのは僕" ギターだけのバックで歌うセンチメンタルな優しい曲。
     「東へ西へ」:「氷の世界」へとつながるシュールな歌詞とたたみかけるリズムが印象的。
     「夜のバス」:ここで歌われているバスは現実のバスではなく、恋人に裏切られた絶望感を、闇の中を矢のように走るバスに象徴させています。ストリングスを加えた緊張を孕んだアレンジが素晴らしく、このアルバムの中では「冷たい部屋の世界地図」と共に、とくに好きな曲です。
     「夏まつり」、「紙飛行機」、「たいくつ」、「能古島の片想い」、「帰郷」もそれぞれ感傷的な歌詞を伴い、叙情に満ちたいい曲です。とくに漠然とした未来への不安と憧れとを、広い空を飛ぶ紙飛行機に託した「紙飛行機」と、片想いの切なさをストレートに歌った「能古島の片想い」は名曲だと思う。
     

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