好きな作家紹介 

芦原すなお(1949 -  )

 香川県、観音寺の生まれ。早稲田大学大学院博士課程中退。1990年、「青春デンデケデケデケ」で文藝賞を受賞。翌91年、同作品で直木賞を受賞した。



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 ■作品

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 ■作品リスト
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 1. 東京シック・ブルース(1996)
  集英社文庫

 しかし、いったいどうしてこれほどまでに、人間の精神はねじくれて、複雑で、面倒なものにならなければならないのか。向井は「自意識のタマネギ剥き」と言った。どうしてそういう無意味なことを、人間の精神は行なおうとするのだろうか。それが精神の洗練ということなのか。だとしたら、洗練になんの意味があるのだろう? そういう自意識を、ぼくらはいったいどうすればいいのだろうか? このやっかいな自意識と言うやつを?

 芦原さんは僕にとって、文庫の新刊が出ると、とりあえず買っておくという作家の一人です。「東京シック・ブルース」は、「青春デンデケデケデケ」の続編とも言うべき作品で、地方から、東京の大学の独文科に入学した主人公が、人間関係を通じて成長していく過程を描いた教養小説といっていいと思うけど、60年代から70年代の過渡期のキャンパスの状況が描写されていて、とても懐かしかった(立看、バリケード封鎖、クラス討論、渋谷のクラシック喫茶など、僕が通った70年代初頭もまだ健在でした)。
 大学生活を背景にした教養小説といった面から、'60年代の「三四郎」といった感じがするけど、純真・無色な主人公である"ストレイ・シープ"の容一君が、周囲の人々の生き様に触れて成長していく姿は、作品の中でも言及されているけど、教養小説の傑作であるトーマス・マンの「魔の山」の雰囲気にも通じるところがあるように思えます。ストーリーのシチュエーションからみると「ノルウエイの森」と似ていて、「ノルウェイの森」同様、この作品にも何人かの魅力的な女性が登場し、主人公である容一君にいろいろな面で影響を与えることになるのだけれど、「ノルウェイの森」のワタナベ君ほど世慣れていない容一君は、それぞれの女性に愛されるものの、残念ながら恋愛は成就には至らなかった。まあ、現実はこんなものなんでしょう。
 僕にとって、芦原さんの作品の魅力は、その視点の暖かく、肯定的なところではないかと思っていますが、この作品の読後感も、とてもさわやかな感じがしました。続編を期待しよう。

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 2. ミミズクとオリーブ(1996)
 創元推理文庫

 
『ミミズクとオリーブ』は、ほのぼのミステリーに分類される連作短篇集です。事件自体は殺人事件もあるので全然ほのぼのではないですが、登場する名探偵が、きれいでおしとやかでとびっきり料理の上手な"箱入り奥さん"なんです。
 ぼく(芦原さんを思わせる中年作家)のところへ郷里香川の高校時代の友人で警察官の河田が、ぼくの奥さんの手料理と卓越した推理力をあてにして、様々な事件を持ち込み、奥さんはぼくをワトソン代わりに現場に派遣して情報を収集し、みずからは八王子の山の方にある自宅から出ないで事件を解決してしまうというのが代表パターンの、いわゆる安楽椅子探偵物ですね。奥さんの父親は、ぼくが高校のときの恩師で古典を教えていた怖い先生でしたが、事件の中には、ひとり娘だった奥さんとの結婚の許しを先生からもらういきさつにからんだものなんかもあって、とても楽しい作品です。僕同様、芦原ファンである加納朋子さん(僕はこの人のファンでもあります)が解説を書いています。

 ― 芦原すなお作品の最大の魅力を、敢えてひと言で言い表すなら、それは語り口のうまさ、面白さである。
 ・・・・・・ とは、別段私が初めて思いついたことではなく、すでに散々言い尽くされた厳然たる事実です。単なるユーモアにとどまらない、どこか空とぼけたおかしみ。軽妙かつ、ひょうひょうとした味の中に時折ふと混じる、哀しみや切なさ、苦さ・・・・・・。これほど心地よく、読んでいて楽しくなる文体というものは、そうそうザラにあるものではありません。


 これ以上つけ加えることはありません。この和服の似合うすてきな奥さんのイメージとしては、これはもう、わたせせいぞうのコミック『菜』の若奥さん、菜さんしかいないですね。芦原さんもきっと菜さんをイメージして書いたのではないかな。 (参考:わたせせいぞう公式サイト

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 3. オカメインコに雨坊主(2000) (絵)安井寿磨子
ポプラ文庫 

 ぼくが、この町で暮らすようになって3年になる。ぼくは50近くになる画家で、10年近く前に妻を亡くしてからは一人暮らしだったが、旅行の帰りに列車を間違え、ふと降り立ったこの町に居付いてしまったのだ。以来ずっと、町外れの山の中の集落でよろず屋を営むおばあさんの家の離れを借りて住んでいる。
 おばあさんと二人きりで暮している為だろうか、孫娘の小学校3、4年生のチサノは大人びた口を利く。
 初めて会ったときの会話から。

「勉強がたいへんなんだ?」
「わたしは奉公に出てお嫁さんになるんだから、勉強は上の学校にいく者にさせとけばいいんだよ」
「君も大きくなったら上の学校にいきたくなるかもしれないよ」
「かもしれないことでしんどい思いをするのは、嫁にいってもないのに後家さんになった心配をするようなもんだ」


 町外れの山道に大主岩(だいのいわ)という高さ4メートルほどの岩があって、チサノがおばあさんから聞いた話によると、この岩があったから木が生えて、鳥や獣がやってきて、それから人間がやってきて、道ができて、この町ができたという。
 たしかに、この岩は命の根源ともいうべき霊気を宿しているようで、犬や猫も死期が近づくと大主岩のそばへ行って死んだり、小さい男の子の姿をした雨坊主、それに幽霊も出たりと不思議なことが起こるらしい。
 ぼくがこの町で出会ったのは、おばあさんとチサノ、アイルランド人の英会話の教師で流暢な日本語を話すノートン・ホワイラーさん、かなり歳をくった感じのやせた三毛猫のミーコ、台所の鴨居に吊るしてある鳥かごの「グラフタヌン」(Good afternoon かな?)としゃべるオカメインコ、などだった。
 愛する妻に先立たれてから、心がからっぽになっているようだったぼくは、この町に住み、大主岩や周囲の自然や動物や町の人たちとの交流の中で、生きることへの意欲を取り戻していきます。ある日、山桜の木のある山中の池、風が吹くたびに、あたり一面、白い桜の花弁が粉雪のように舞う「この世と天国の中間」のようなこの場所で、ぼくは亡き妻に出会います。
 
 例によってほんわかと暖かい芦原節がとてもいいです。版画家、安井寿磨子さんの挿画が本文中に8点ほど挿入されていて、内2点は見開きページの扱いになっています。カラーとなっているのが表紙カバーと本文の最初のページだけなのが、本当に残念。安井さんの挿絵から、現実界から遊離して、この世ではない懐かしい世界に半分くらい染み出しているかのようなこの山あいの集落の雰囲気が伝わってきます。

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 4. 青春デンデケデケデケ(1991)
 河出文庫  文藝賞、直木賞受賞作品

 1965年、3月28日の昼下がり、香川県立観音寺高校入学を間近にした15歳の藤原竹良(ちっくん)は昼寝をしていて、ラジオから流れたベンチャーズの「Pipeline パイプライン」の"デンデケデケデケ・・・」のエレキ・ギター・サウンドに電気的啓示(エレクトリック・リベレーション)を受けた。高校に入学したちっくんは、メンバーを集め、夏休みのバイトで金を貯めてギター、ドラムスなどの機材を買い、ついにバンド「ロッキング・ホースメン The Rocking Horsemen」が誕生した。
 リーダーのちっくんはサイド・ギターで、リード・ギターは家が魚屋をやっているクールなギター少年、白井、ベースは寺の住職の息子で、やたら世慣れている富士男、ドラマーは気弱な岡下、それにプレイはしないが、アンプを自作してバンドをサポートするエンジニアのしーさん。ちっくんを始めとするこれらメンバー達が、バンドというひとつの目的のために結束し、ロックに、友情に、淡い恋にと高校の3年間を不器用ながら爽やかに駆け抜けていく姿を描いた青春小説です。
 文句なしに楽しい作品ですが、60年代にヒットしたポップス、ロックナンバーが数多く登場するので、あの頃の海外ポップスに思い入れのある人(僕のような)には、たまらないでしょう。彼らが、3年間の総決算として臨んだ文化祭での最初で最後のコンサートの演奏ナンバーは、以下のようでした。
  1. パイプライン/ベンチャーズ
    デンデケデケデケ・・・! 白井のギターが雷鳴のように轟きわたった。オープニングはこれだ、とぼくは強硬に主張したのだった。そもそもぼくをこの世界に引き込んだ呪いの曲だ。
    (ベンチャーズが演奏していた曲の中では、この曲と"ウォーク・ドント・ラン"、"アパッチ"、"ダイアモンド・ヘッド"、"十番街の殺人"がとくに好きだった)
  2. アイ・フィール・ファイン/ビートルズ
  3. サマー・イン・ザ・シティー/ラビン・スプーンフル
    このコンサートのために特訓した、名曲中の名曲である。
    (僕も大々好きだった曲だ!)
  4. ブラック・イズ・ブラック/ロス・ブラボス
  5. アイ・ゴー・トゥー・ピーセズ/ピーターとゴードン
  6. のっぽのサリー/ビートルズ・バージョン
  7. ヒッピー・ヒッピー・シェイク/スウィンギング・ブルー・ジーンズ
  8. 空の終列車/スプートニクス
    (懐かしい!)
  9. キャラバン/ベンチャーズ
  10. アイル・ビー・バック/ビートルズ
  11. ミスター・タンブリンマン/ボブ・ディラン
  12. エレノア/タートルズ
  13. ハロー・メリー・ルー/リッキー・ネルソン
  14. アクト・ナチュラリー/バック・オーエンズ
  15. ワイプ・アウト/ベンチャーズ
  16. 19回目の神経衰弱/ローリング・ストーンズ
  17. (ラスト曲)"ロック・アラウンド・ザ・クロック"と、"シェイク、ラトル・アンド・ロール"のメドレー/ビル・ヘイリーとコメッツ
  18. (アンコール曲)ジョニー・B・グッド/チャック・ベリー
     この曲にはロックのすべてがある。 ― スピード感、ドライブ感、軽快さ、歯切れよさ、聞く者の体を揺さぶるシンコペーションのうねり、そしてユーモア・・・・。ぼくは一小節、一小節を噛みしめるように味わいながら、ギターを弾き、歌った。
     もう何も見えなかった。青や赤の明滅する光と、うねるような音の流れの中で、ぼくだけが ― いや、ぼくの声だけがとびはねていた。
       
      ・・・・・・・・・・・
      Go, Go, Go, Johnny, Go!
      Go! Johnny B. Goode!


 (映画)青春デンデケデケデケ(1992)
 (監)大林宣彦 (演)林泰文、大森嘉之、浅野忠信、岸部一徳、根岸季衣

 青春とは、重たいものである。あまりに重過ぎて、傍目には滑稽で愚かしくも見える事どもを、ついつい繰り返し仕出かしてしまう。もしぼくらが大人になることに意味があるとするなら、あの不器用だった青春の鬱屈した想いを、遠い時間の向こうに濾過し、少しはより軽やかに、より伝え易く、より上手に自己表現してみせる、そういう機会を、人生の中でもう一度与えられる、その事の至福をこそいうのだろう。
大林宣彦(文庫本解説)


 芦原さんが、映画化するのなら大林監督に撮ってもらいたいと夢想していたところに、当の大林さんも原作に惚れこんで、ぜひ撮りたいという最高の縁で作られただけあって、すばらしい青春映画に仕上がっています。
 キャスティングの妙も、この映画が成功した大きな要因でしょう。原作にほぼ忠実なストーリー展開となっていて、原作同様、寺の住職の息子役の大森嘉之が、ひときわ存在感を発揮しています。白井役で、若き日の浅野忠信が出ているのに注目。岸部一徳が演じた担任の英語の先生のエピソードも心に残りました。
 出演した少年達は撮影隊より先に観音寺市に入って住みつき、どんなアドリブも讃岐弁で言えるようにしたと、原作のあとがきに大林監督が書いていますが、彼らが観音寺の町や風景に自然に溶け込んでいる様は特筆すべき。ただ、讃岐弁は難解だ。知らない人には分らないから(当たり前だ)、小説のほうでは、わかりにくい個所には、「そななへっぱくげなん(へんてこなの)いやじゃ」というように、ちゃんと翻訳が添えられていたのだから、映画でも字幕を付けてもらいたかった。

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 ■ 主要作品リスト  

  • スサノオ自伝(1986)
  • 青春デンデケデケデケ(1991)
  • 山桃寺まえみち(1993)
  • 松ヶ枝町サーガ(1993)
  • たらちね日記(1995)
  • ルフラン(1995)
  • 私家版 青春デンデケデケデケ(1995)
  • 芦原すなおのビートルズ巡礼(1995)
  • 官能記(1996)
  • ミミズクとオリーブ(1996)
  • 東京シック・ブルース(1996)
  • ブルーフォックス・パラドックス(1997)
  • 雨鶏(1997)
  • ドッペル(1997)
  • さんじらこ(1998)
  • 嫁洗い池(1998)
  • 新・夢十夜(1999)
  • 月夜の晩に火事がいて(1999)
  • ハート・オブ・スティール(2000)
  • オカメインコに雨坊主(2000)
  • わるすんぼ(2002):児童向け作品
  • わが身世にふる、じじわかし(2007)  ミミズクとオリーブ 3
  • 海辺の博覧会(2007)
  • カワセミの森で(2007)
  • ユングフラウ(2008)
  • 野に咲け、あざみ(2008)



 
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