HOME l  PROFILE l 海外作家国内作家 l ジャズ l ピアノ音楽 l ポップス他 l 現代音楽 l 美術館映画 l 散歩 l 雑記TWITTER

ミュージカル映画紹介
  
大好きなミュージカル映画を紹介していきたいと思っています。
現時点でのベストは概ね以下のようでしょうか。4番目以降は順不同です。
  • ウエストサイド物語 :この1位は決定
  • 雨に唄えば:この2位も決定
  • サウンド・オブ・ミュージック:この3位も決定
  • シェルブールの雨傘
  • バンド・ワゴン
  • オズの魔法使い(ジュディ・ガーランド主演の方)
  • パリの恋人
  • マイ・フェア・レディ
  • メリー・ポピンズ
  • お熱いのがお好き
  • キャバレー
  • 屋根の上のバイオリン弾き
  • ロッキー・ホラー・ショー
  • ムーラン・ルージュ
  • シカゴ
  • オペラ座の怪人
  • 五線譜のラブレター


以下を紹介しています(クリックでリンクします)。

1.シカゴ/Chicago(米・'02)
(監)ロブ・マーシャル 2002年度アカデミー賞 作品賞他を受賞
(演)
レニー・ゼルウィガー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、リチャード・ギア


 この映画は、トニー賞を受賞したブロードウェイ・ミュージカルの映画化作品で、1987年に亡くなった、舞台での演出・振付をしたボブ・フォッシーに捧げられています。
 「ムーランルージュ」同様、主演の俳優達が歌って、踊っての熱演振りも見どころの一つで、ミュージカルはまず楽しくあって欲しいと思っている僕のような娯楽ミュージカル・ファンには美味しい映画でした。

 1920年代のシカゴ。スターを夢見るロキシーは、夫の留守中に密会していた愛人を射殺し、留置所に送られます。そこで彼女は、浮気中の夫と妹を射殺して公判を待っているキャバレーのスターだったヴェルマと出会い、彼女の弁護士で、辣腕であるが何事も金次第というビリーと契約を結びます。ビリーはロキシーを、悲劇のヒロインとしてマスコミに売り込み、陪審員から無罪の評決を勝ち取る戦略を進めようとします。
 殺人というスキャンダルをスターへの踏み台にしてしまうしたたかなヒロイン達と、彼女らを操ってひと儲けを企む弁護士の虎視眈々の駆け引きが描かれていますが、あくまでエンターテインメントということで、細かいことにはこだわらず、迫力あるダンス・ナンバーあり、歌ありのショーを間近で楽しむ感覚で観られる作品です。マリオネットを模したシーンがとくに印象的でした。
 さすがキャサリン・ゼタ=ジョーンズは、ダンス、歌ともに達者レニー・ゼルウィガーとリチャード・ギアもまあ大したものです。「ブリジット・ジョーンズの日記」では太めだった(役作りのため、体重を増やしたそうな)レニー・ゼルウィガーは、すっきりとした体型で魅せてくれました。その前の「ザ・エージェント」('96・米)でのトム・クルーズとの共演もそうだったけど、彼女は近年稀な癒し系の女優だと思います。


2.オペラ座の怪人/The Phantom of the Opera ('04・英・米)
(監)ジョエル・シュマッカー (製作・脚本・音楽)アンドリュー・ロイド=ウェバー
(演)ジェラルド・バトラー(ファントム)、エミー・ロッサム(クリスティーヌ)、パトリック・ウィルソン(ラウル)

 舞台ミュージカルとして1986年10月に初演されて以来、世界中で8000万人(!)もの観客を動員し、今もなおロングランを続けているという驚異的な作品を、作曲者のアンドリュー・ロイド=ウェバー自らが製作・脚本を担当しています。
 映画の冒頭は1919年の廃墟と化したオペラ座での競売のシーンで、かつて惨劇をもたらしたシャンデリアが吊り上げられると、それまでのくすんだモノクロ画面が一転してカラーとなり、Overtureのテーマが鳴り響く中、劇場が50年前の栄光と絢爛に輝くオペラ座の姿へと戻るというすばらしい演出でミュージカルの幕が開きます。
 天才的作曲家でオペラ座の地下で人目を避け孤独に暮らすファントム、彼に魅入られたコーラスガールのクリスティーヌ、そして彼女の初恋の相手で、この日クリスティーヌの栄光の舞台を観て愛の虜になった若き子爵ラウル、クリスティーヌをめぐる愛の三角関係が官能的・陶酔的な音楽の高まりとともに描かれています。
 舞台版はどうなのかわかりませんが、映画でのファントムはまさに彼が作曲したドン・ファンそのもののようにセクシーです。映画でのハイライトとなった劇中劇で演じられる「ドン・ファン」の舞台シーンで、「The Point Of No Return もう元にはもどれない」を歌い、クリスティーヌがファントムの仮面を剥いだのは、あるがままのファントムを受け入れるという彼女のファントムへの愛の告白であったのだと思います。
 そして、事件後50年経ってラウルが競り落としたファントムの猿のオルゴールをクリスティーヌの墓前に手向けたのは、クリスティーヌが真に愛したのはファントムであって自分ではなかったことを彼自身が知っていたからでしょう。

 音楽は傑作ミュージカルの評判通りのものでした。主役の3人が吹替えなしに歌っていますが、フルオーケストラの助けもあるだろうけど、いずれもすばらしい出来でした。とくにクリスティーヌ役のエミー・ロッサムは、撮影当時17歳で、いかなるキャリアを持った女優なのか知りませんが、少女から女性へ移りゆく繊細な心情を捉えていた演技であり歌唱であったように思います。機会があったら舞台版もぜひ観たいものです。

(原作)オペラ座の怪人(1910)/ガストン・ルルー Gaston Leroux

 ガストン・ルルーと言えば、高校生の時に夢中になって読んだ本格推理小説の古典的傑作「黄色い部屋の秘密」(1907)をまず思い起こします。古い城館での完全密室殺人事件は、意外な犯人像とともにいまだに忘れがたい印象を残しています。今回、「オペラ座の怪人」を読み、ゴシックロマン的な語り口は、まさしく「黄色い部屋の秘密」と相通ずるものだなと懐かしくなりました。
 日本では、アンドリュー・ロイド=ウェバーによるミュージカルの上演により、原作も脚光を浴びるようになったと思われますが、英米ではサイレント映画の時代から何度も映画化されていて、ミュージカル化の以前からポピュラーであった作品のようです。

 パリのオペラ座のスター、カルロッタが病気となり、急遽代役で登場したクリスティーヌは、奇跡ともいえる感動的な歌唱で満場の喝采を浴びます。クリスティーヌの歌声を聴いた幼友達で初恋の相手でもあったラウル子爵は、彼女を楽屋に訪ねると、彼はクリスティーヌが姿なき声に語りかけているのを聞きます。声の持ち主は、オペラ座の地下に住む”オペラ座の幽霊(ファントム)"で、彼はクリスティーヌに"音楽の天使"として、秘密裡に歌を教えていたのでした。
 ファントムは、その醜い顔を隠すためクリスティーヌの前に姿を現すことがなかったが、クリスティーヌを深く愛し、恋敵のラウルにクリスティーヌを奪われることを恐れ、彼女をオペラ座の地下深くに幽閉してしまいます。彼女を救うため、ラウルは危険を冒してオペラ座の地下深く辿ることになります。
 
 オペラ座の華麗な舞台と、その地下に広がるファントムの支配する漆黒の世界、拷問室、地下を流れる川、オペラ座を吹き飛ばすべく仕掛けられた火薬、ファントムを始めとする怪しげな登場人物たち、といったぐあいにゴシック・ロマンの道具立てが満載のストーリーで、現代のセンスでは、いかにも大時代的だなという感じが否めません。こうした荒唐無稽の筋立てが、後年ミュージカルというジャンルと結びつくことによって、開花することになったのは興味深いものがあります。

(参考映画)オペラ座の怪人/The Phantom of the Opera(1925・米)
(監)ルパート・ジュリアン
(演)ロン・チャニー(ファントム)、メアリー・フィルビン(クリスティーヌ)

 サイレント映画の名作として知られている作品です。ガストン・ルルーの原作にかなり忠実に作られていて、見どころは、なんといってもロン・チャニー扮するファントムの造形でしょう。これは原作に描かれたファントム像にかなり近いと思われますが、ミュージカルでの官能的なファントムとは正反対で、ラウルの恋敵になるにはちょっと不気味すぎるようです。

 「そいつはものすごくやせた、骸骨みたいな骨格をしていて、黒い服がだぶだぶだったよ。目はすごく奥に引っ込んでいるから、じっと動かない瞳もよく見分けられないほどだ。要するに、どくろみたいに二つの黒い大きな穴しか見えないんだよ。皮膚は太鼓の皮みたいに骨の上にぴんと張られていて、白いどころか、気味が悪いほど黄ばんでいる。鼻ときたらないも同然で、横からでは見えないほどだ。それに鼻がないってのは、見てぞっとするものだよ。額の上や耳の後ろの3、4本の長い毛は、頭髪の代わりをしていたな」
「オペラ座の怪人」/ガストン・ルルー(創元推理文庫)

 しかしここまで言わなくてもいいんじゃない、とファントムに同情したくなってきます。最後には追ってきた群衆に捕まり、殴り殺されてセーヌ川に投げ込まれてしまうというのも哀れに過ぎるようです。
 仮面舞踏会のシーンだけカラーになるのが、時代を感じさせるとともに、映像的にはとても新鮮でした。 

3.五線譜のラブレター De-Lovely('04・米)
(監)アーウィン・ウィンクラー (演)ケビン・クライン、リンダ・ポーター、ジョナサン・プライス (音)コール・ポーター 
(歌)エルヴィス・コステロ、アラニス・モリセット、シェリル・クロウ、ダイアナ・クラール、ナタリー・コール他(サウンド・トラック盤

 多くのスタンダード・ソングの名作を残した作曲家コール・ポーター(1891−1954)の半生を描いたミュージカル・ドラマです。

Do you love me as I love you?              
Are you my life to be, my dream come true?
 
僕が愛するように、僕を愛してる?
君は僕の運命? かなうはずの夢?
(「In the Still of the Night」/コール・ポーター作詞・作曲)
 
 死を迎えたポーターが、謎の演出家(天使なのかな)に導かれ、劇場の舞台上で演じられる自分の人生の場面を振り返っていきます。
 最初の場面は、1920年代のパリ。ポーターの才能を信じ、最後まで彼を支えた女性、リンダとの運命的な出会いが描かれます。リンダは"パリで最も美しい離婚女性"と言われ、ポーターより8歳年上でした。一方のポーターは同性愛者で、そんな二人が互いに強く惹かれ合い、リンダはポーターの性向を了解した上で、彼と結婚します。
 この映画の真の主人公はリンダなのでしょう。何事にもルーズで、なんでもありで、まさに"Anything Goes"のポーターを優しく、忍耐強く包み込むリンダの愛が感動的でした。生涯に、約870曲もの歌を作ったポーターの音楽家としての成功が、リンダの励ましと献身がなければ、決してありえなかったことがよくわかります。
 愛のドラマであると同時に、超一流のミュージシャンたちの競演により、ポーターの作曲した名曲の数々が披露されるミュージカルとしての魅力も見逃せません。スタンダード・ソングが好きな方には絶対におすすめの映画です。
 とくに印象に残った曲には、以下がありました。

「ソー・イン・ラブ So in Love」:映画では、劇中劇のデュエットで熱く歌い上げられます。今まで気がつかなかったけど、メロディアスで、とてもいい曲。
「ビギン・ザ・ビギン Begin the Beguine」:スローバラード調のアレンジでしたが、女性ロック・シンガーのシェリル・クロウがとてもよかった。
「恋とはなんでしょう What is This Things Called Love」:R&Bシンガーのレマーにより歌われるポーターの代表曲の一つ。  
「ラブ・フォー・セール Love for Sale」:けだるく歌われていたけど、雰囲気が出ていました。
「エヴリタイム・ウィ・セイ・グッドバイ Ev'ry Time We Say Goodbye」:なんといってもナタリー・コールの歌唱が素晴らしかった。
「ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングズ Just One of Those Things」:ジャズ・シンガーという枠を超えた活躍をしているダイアナ・クラールですが、ここではポーターの名曲をあくまでジャジーに歌っています。
「夜の静けさに In the Still of the Night」: ケビン・クライン(ポーター)とアシュレイ・ジャッド(リンダ)による寄り添うが如きデュエットが涙を誘います。

4.オール・ザット・ジャズ/All That Jazz('79・米) 
(監)ボブ・フォッシー 1980年カンヌ映画祭グランプリ受賞作  (演)ロイ・シャイダー、ジェシカ・ラング、アン・ラインキング

 ボブ・フォッシー自身が心臓発作で入院したときに構想したという彼の半自伝的作品で、フェリーニの「8・1/2」を念頭に置いていたとのことです。

 ミュージカルの演出家兼振付師のジョーは、"It's show time, folks!(さあ、ショー・タイムだ!)"を唱えて自らを鼓舞し、長年の不摂生でぼろぼろの身体をタバコと薬とでごまかし、新作ミュージカルの舞台を完成させようとしています。ジェシカ・ラング扮する美しい死神との対話が所々に挿入され、観客は彼の死期が近いことを知りますが、ついに狭心症でダウンするまでのジョーの仕事へののめり込み様、入院中のバカ騒ぎは、自虐癖なのか、あるいは生死を達観しているのか。人生の遊び人ジョーが最後の舞台で、「Bye-bye life, bye-bye happiness, hello loneliness」と歌う場面と、ラストで流れる「ショーほど素敵な商売はない」の対照が絶妙でした。冒頭のオーディションや練習風景、ダイナミックなダンス・ナンバーも見逃せない映画です。

 HOME l  PROFILE l 海外作家国内作家 l ジャズ l ピアノ音楽 l ポップス他 l 現代音楽 l 美術館映画 l 散歩 l 雑記TWITTER