PAPERBACK GUIDE

 Isak Dinesen
(1885 - 1962)

  アイザック・ディネーセン
(カレン・ブリクセン) 
 

 デンマークの貴族階級の生まれ。ブリクセン男爵と結婚し、27歳(1914年)の時に英領東アフリカ(後のケニア)に渡り、コーヒー農園を経営した。1921年離婚。病気と、経営困難の為、1931年に帰国、1934年に最初の「7つのゴシック物語」を発表した。



 
I had a farm in Africa, at the foot of the Ngong Hills.

In the highlands you woke up in the morning and thought : Here I am, where I ought to be.
「Out of Africa」/ Isak Dinesen


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1. Out of Africa/ アフリカの日々(1937)
   難易度

 この作品は、ディネーセンがアフリカに滞在し、コーヒー農園を経営した17年間を振り返り、回想録としてまとめたもので、アフリカの自然と大地、そしてそこで暮らす人々への彼女の熱い思いが読者に伝わってくる記録文学の名作です。そして、この作品を魅力的なものしているのは、なによりもディネーセンの語り口のうまさではないかと思います。ここでは、様々なエピソードが語られていますが、Luluと名づけられたgazelle(ガゼール)についての個所から;
 ある日、彼女が用事のためナイロビに車での往復時、道端でキクユ族の子供が、近くで捕まえた小鹿を売りつけようとしたが、そのまま通り過ぎてしまう。夜ベッドに入ってから、急に小鹿のことが気になり、大騒ぎして探させ、翌朝小鹿を届けさせます。雌のガゼールで"ルル"(スワヒリ語で真珠の意)と名づけ、皆に可愛がられるようになります。

 Lulu by that time was only as big as a cat, with large quiet purple eyes. She had such delicate legs that you feared they would not bear being folded up and unfolded again, as she lay down and rose up. Her ears were smooth as silk and exceedingly expressive. Her nose was as black as a truffle. Her diminutive hoofs gave her all the air of a young Chinese lady of the old school, with laced feet. It was a rare experience to hold such a perfect thing in your hands.

 成長するにつれ、ルルは、家の中で女王のように振舞うようになります。
 On the strength of this great beauty and gracefulness, Lulu obtained for herself a commanding position in the house, and was treated with respect by all.

 気性の荒いところのあるルルだったが、あるとき家を離れたきり戻らなくなります。そして後日牡鹿を伴って、また時が経ってからは小鹿を伴って、家の近くに現れるようになります。
 For a long time Lulu came to the house in the early mornings. Her clear bell announced that the sun was up on the hills, I used to lie in bed, and wait for it. Sometimes she stayed away for a week or two, and we missed her and began to talk of the people who went to shoot in the hills. But then again my houseboys announced: " Lulu is here," as if it had been the married daughter of the house on a visit.
 こういう状態は、ディネーセンが帰国した後も続いていたとのことです。

 映画「愛と哀しみの果て」の中で描かれた冒険家デニスとの関わり合いについて本書の中で触れているのは、ほんの20ページ程度に過ぎませんが、彼女の筆致からデニスへの紛れもない愛情が感じ取れます。映画にもあった彼女がデニスを相手にシェラザードのように自作の物語を語る場面から;

 Denys, who lived much by the ear, preferred hearing a tale told, to reading it; when he came to the farm he would ask: "Have you got a story?" I had been making up many while he had been away. In the evenings he made himself comfortable, spreading cushions like a couch in front of the fire, and with me sitting on the floor, cross-legged like Scheherazade herself, he would listen, clear-eyed, to a long tale, from when it began until ended.

 デニスとの出会いがなかったら、おそらく後年の小説家ディネーセンは生まれ得なかったなかったのではないでしょうか。デニスの複葉機でアフリカの空を飛んだときの詩的な描写から;
 
 You have tremendous views as you get up above the African highlands, surprising combinations and changes of light and colouring, the rainbow on the green sunlit land, the gigantic upright clouds and big wild black storms, all swing round you in a race and a dance. The lashing hard showers of rain whiten the air askance. The language is short of words for the experiences of flying, and will have to invent new words with time.

 彼女が帰国することになってからデニスは、飛行機の墜落事故で死亡し、生前からの彼の意思で丘の上に埋葬されますが、夜明けと落日時には、そこにライオンの姿が見られたとも書いています。



(映画)愛と哀しみの果て/ Out of Africa(1985)
 (監)シドニー・ポラック (演)メリル・ストリープロバート・レッドフォード

 ディネーセンの原作では、わりとさらっと書かれているデニスとのエピソードを中心にした映画で、'86年度のアカデミー賞で、作品・監督・脚本・撮影・作曲・美術・音響の7部門のオスカーを獲得しています。映画はディネーセンの原作だけではなく、彼女およびデニスの伝記にも多くを負っているとのことで、この映画を観ることにより、アフリカに移住してまもなく罹った彼女の病気が夫からうつされた梅毒であることがわかります。夫であるブリクセン男爵に関する記述が原作には全くと言っていいほど無いのは、この辺の事情によるものでしょう(夫とは後年別れる)。
 この映画の魅力は、広大な自然を背景にした大人の恋愛模様であり、二人だけのサファり・ツァーとかデニスの複葉機から眺める自然の景観(滝、海岸、とくにフラミンゴの大群なんかすごい)などは、映像ならではのもの。 デニスは、自由と孤独を愛し、カレン(ディネーセンの本名)への愛は紛れのないものであるけど、彼女からのプロポーズに対しては、「独りでいたいから」と、いったんは断ります。カレンの病気のこともあって、二人の間はきっとプラトニックなものであったんではないかと想像されますが、実際のところはどうだったんでしょうか(映画ではしっかり結ばれていましたが)。しかし、メリル・ストリープは、うまいですね。「アフリカの女王」でのキャサリン・ヘップバーンといい勝負。ロバート・レッドフォードは、このとき47歳か。まだまだハンサムで、いい年をしてやんちゃ坊主みたいな男をうまく演じています。彼がカレンに贈った蓄音機から流れていた曲は、モーツァルトのディベルティメントで、アフリカ高地のすがすがしい大気にマッチしていました。

 Sometimes Denys would arrive unexpectedly at the house, while I was out in the coffee-field or the maize-field, bringing new records with him; he would set the gramophone going, and as I came riding back at sunset, the melody streaming towards me in the clear cool air of the evening would announce his presence to me, as if he had been laughing at me, as he often did.



(映画)アフリカの女王/ The African Queen(1951)
 (監)ジョン・ヒューストン (演)ハンフリー・ボガードキャサリン・ヘップバーン

 ジョン・ヒューストン初のカラー映画。"アフリカの女王"は、ボガードが持っている古い蒸気船の名前で、第1次大戦中のドイツ領東アフリカが舞台。最初に1914年のクレジットが出るけど、この年にディネーセンはアフリカに渡っていて、戦争中には彼女自身も戦線への物資輸送を行なったりしています(映画「愛と哀しみの果て」にもこのシーンがありました)。
 ヘップバーンの兄はイギリス人の宣教師で、彼がドイツ軍の攻撃で村を焼かれた時に受けた心身の痛手がもとで死んだ後、ヘップバーンは、ボガードの船で引き上げることになりますが、彼女の主張で河を遡(さかのぼ)り、湖に停泊しているドイツの砲艦"ルイザ"に体当たりして撃沈しようという事になります。意気込んでいるのはヘップバーンだけで、ボガードは、お転婆の彼女を持て余し、いやいやながら引きずられる格好となっているシチュエーションがとても面白く、酒好きのボガードが酔っ払って寝ている間に、ヘップバーンが船に積んでいるボトルの中身をみんな河に流してしまうのを呆然と見ているボガードがとてもおかしい。しかし、この人の演技は、うまいのか下手なのかよくわかりませんね。ヘップバーンは、ここでは思いきり可愛い女性を演じているけど、様になっているからたいしたものです。ほとんど二人芝居なので、ファンにはこたえられない映画でしょう。




(紹介予定) Seven Gothic Tales/ 七つのゴシック物語(1934)

 翻訳書

 ディネーセンの処女作。

 


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 ○ 作品

  • Seven Gothic Tales/ 七つのゴシック物語(1934)
  • Out of Africa/アフリカの日々(1937)
  • Winter's Tales(1942)
  • Last Tales(1957)
  • Anecdotes of Destiny(1958)
  • Shadows on the Grass(1961)
  • Carnival(1977)
  • Daguerreotypes and Other Essays(1979)
  • Letters from Africa: 1914-1931(1981)





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