HOME l  PROFILE l 海外作家国内作家 l ジャズ l ピアノ音楽 l ポップス他 l 現代音楽 l 美術館映画 l 散歩 l 雑記TWITTER
Eric Dolphy(as, bcl, fl)(1928 - 1964)
エリック・ドルフィー

ロサンゼルスの生まれ。58年にチコ・ハミルトンの楽団で演奏するまでは、数々のビッグ・バンドを渡り歩いた。その後、60年よりチャールス・ミンガスのグループに在籍、また自身のリーダー作のレコーディングを開始した。61年−62年春までは、コルトレーンのグループに参加、64年に再度ミンガスのグループに加わった。糖尿病による心臓発作のため、ベルリンで急死した。


僕らは多かれ少なかれ、みんな宇宙の場末に生きているのかもしれない。エリック・ドルフィーを聴くたびに、そう思わなくもない。
「ポートレイト・イン・ジャズ」/ 村上春樹

君はエリック・ドルフィーが好きなんだって?
「光の帝国」/ 恩田陸

"When you hear music, after it's over, it's gone in the air. You never capture it again. "
「音楽を聴き、終った後、音楽は宙に消えてしまい、二度とそれをつかまえることはできない」
「Last Date」より/ Eric Dolphy



1.Last Date/ラスト・デイト(1964)
Eric Dolphy (as, bcl, fl), Misja Mengelberg(p), Jacques Schols(b), Han Bennink(ds) 
1964年6月2日 オランダ、ヒルベルサムのファーラー放送(Vara Radio)でのスタジオ録音

 ドルフィーがベルリンの病院で急死する27日前の演奏を記録したアルバムです。そういった特別の事情がなくても、このアルバムが僕にとって彼の最も好きなアルバムである事に変わりはありません。全6曲、どのトラックも素晴らしい演奏だけど、中でもフルートによるスタンダードの名曲「You Don't Know What Love Is」の演奏は、まさに神がかり的な名演。まさか死を意識していたわけではないだろうけど、ここでのドルフィーは天上の音を奏でているようです。これを超えるフルート・ソロ演奏を僕はまだ知らない。
 このアルバムのリズムセクションは、オランダの地元のミュージシャン達で、ドルフィーとのセッションは、これが初めてのはずだけど、特筆すべきはミシャ・メンゲルベルクのピアノで、彼のちょっとふしぎなハーモニー感覚が、ドルフィーとピッタリ合っていて、ドルフィーもとても気に入り、その後に予定されていたコペンハーゲンでの演奏に彼らを使いたい意向だったらしい。ドルフィーが生きていれば、これを超えるアルバムだって夢ではなかったのに....考えてもしょうがない事だけど残念です。
  

2.At the Five Spot Vol.1/アット・ファイブ・スポットVol.1(1961)
Eric Dolphy (as, bcl, fl), Booker Little(tp), Mal Waldron(p), Richard Davis(b), Ed Blackwell(ds) 
1961年7月16日 ニューヨークのジャズ・クラブ"Five Spot"でのライブ録音

 このときに演奏された全9曲のライブは、この「Vol.1」を含め、4枚のアルバム(他には「Vol.2」、「Memorial」、「Here and There」)に収録されています。このライブ演奏が、ハード・バッパーとしてのドルフィーの頂点を記録したものである事は間違いないと思います。かつてのジャズ喫茶の超人気盤でもありました。
 このVol.1には、3曲収録されていて、1曲目の「Fire Waltz」はマル・ウォルドンのオリジナル。マルのモールス信号(死語になりつつある)のようなソロが不思議なノリを作り出しています。2曲目の「Bee Vamp」は、ブッカー・リトルの作で、23歳で死んだ夭折のトランペッター、リトルの最上の演奏がフィーチャーされています。3曲目はドルフィー作の「The Prophet」。ここではアグレッシブな彼のアルト・ソロが聴かれます。


3.Out to Lunch/アウト・トゥー・ランチ(1964)
Eric Dolphy (as, bcl, fl), Freddie Hubbard(tp), Bobby Hutcherson(vib), Richard Davis(b), Anthony Williams(ds)  1964年2月25日録音

 「エリックは、誰もが自分の音楽をプレイできるような雰囲気をこしらえてくれた。彼はそこに何の制約もつけなかった。自分の持っているものを出せばそれで自分の役目が果たせる、ということを常に感じることができた。それはとてもフリーな感覚だった」/ リチャード・デイビスの回想(アルバム解説より)

 ドルフィーがブルーノートに残した唯一のリーダー作です。ボビー・ハッチャーソンのヴァイブとアンソニー(トニー)・ウィリアムスのドラムスによる硬質で先鋭的なリズムセクション、さらにフレディ・ハバードの華々しいトランペットが、ドルフィーの指向するハードでアブストラクなサウンドに見事に調和した結果生まれた傑作アルバムです。
 ドルフィーは、馬のいななきに形容される彼独特のフリーキーなサウンドにより、前衛派とみなされることもありますが、オーネット・コールマンやアルバート・アイラーのような根っからの前衛ではなく、チャーリー・パーカーのバップのメソッドを根底にして、その上に彼独自の音楽を展開したプレイヤーでした。このアルバムに収録された全5曲すべてがドルフィーのオリジナルで、これらの演奏において、ドルフィーが到達した独自の音響世界が十全に示されていると思います。しかし彼に残された時間は、あと4ヶ月あまりしかなかった。
 

4.Berlin Concerts/ベルリン・コンサート(1961)
Eric Dolphy (as, bcl, fl), Benny Bailey(tp), Pepsi Auer(p), George Joyner(b), Buster Smith(ds) 
1961年8月30日 ベルリンでのライブ録音

 ぼくの演奏を非難する者が多いといっても別におどろかないね。むしろそれが当たり前じゃないかとも考えるんだ。馬がいななくような音をたてる。すると、なんという音を出すんだといって怒りだす。よくわかるよ。けれど、ぼくが求めているものが、こうした音のなかにあるんだからしかたがない。感じたことや気持ちのなかにあること以外に何が表現できるだろう。
/エリック・ドルフィー(「ぼくたちにはミンガスが必要なんだ」/植草甚一 晶文社 '76年初版)


 ファイブスポットでのライブの1ヶ月半後の西ベルリンにおけるライブ録音です。元々LP2枚組、70分くらいの演奏がCD1枚に収録されているお徳用アルバムです。共演しているトランペットのベニー・ベイリーはヨーロッパ在住のアメリカのジャズメン、ピアノのペプシ・オウルは西ドイツのピアニスト。どちらも際立った演奏ということもなくて、やはり聴きどころはドルフィーのソロということになります。1曲目の19分にも及ぶ「Hot Hiouse」や「四月の思い出」の演奏におけるアルト・ソロ、ドルフィーの独壇場ともいうべきバス・クラリネットによる「When Lights are Low」や「God Bless the Child」、それに「Hi-Fly」でのすばらしいフルート・ソロが印象的。


5.Out There/アウト・ゼア(1960)
Eric Dolphy (as, bcl, fl),  Ron Carter(cello), George Duvivier(b), Roy Heynes(ds) 

"Something new's happening. I don't know what it is, but it's new, and it's good, and it's just about to happen..."
「Out There」ライナー・ノーツ/ Eric Dolphy

 ドルフィーが巨大なベースに乗って飛んでいるダリ風のシュールなジャケットで、ピアノの代わりにロン・カーターのチェロが加わった編成となっていて、ドルフィーの斬新なサウンドがより一層自由な形で明確に表現されています。1曲目のタイトル曲はドルフィーのオリジナルで、うねるようなアルト・ソロは、コルトレーンのビレッジ・ヴァンガードでの「Chasin' the Trane」を思い起こさせます。2曲目と3曲目がバス・クラリネット、4曲目が通常のクラリネット、5・6曲目がフルート、そして最後の曲がまたアルト・ソロに戻るという構成で、全体的にビートよりもメロディ・ラインを主体にした演奏となっています。バス・クラリネットによる「The Baron 男爵」というドルフィーのオリジナル曲は、かつて一緒に演奏していたチャールズ・ミンガス(彼は仲間内で自ら"男爵"と称していた)を描いた作品です。ミンガスはドルフィーについて「彼は練習を怠ったことがない」と言っていますが、ファイブ・スポットなどで共演したマル・ウォルドロンも「ドルフィーの一生は絶え間のない探求だった」と語っていて、ドルフィーにとっては、彼の音楽がすべてに優先するものであったようです。


参考Webサイト

HOME l  PROFILE l 海外作家国内作家 l ジャズ l ピアノ音楽 l ポップス他 l 現代音楽 l 美術館映画 l 散歩 l 雑記TWITTER