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Paul Bley(p) (1932−2016)
ポール・ブレイ


カナダのモントリオールの生まれ。8歳でピアノを始め、12歳でプロ入りした。54年頃からその存在を知られるようになったが、フリー・ジャズのレーベルであるESPディスクに吹き込んだ「Closer」により一躍注目を集めるようになった。70年代初頭のアネット・ピーコックとの電化サウンドの一時期を経て、ECM、Steeple Chaseなどのレーベルにコンスタントに録音を続けている。


ぼくが繰り返し聴いたレコードにポール・ブレイの「フットルーズ」がある。 / キース・ジャレット

私は個性的なキーの叩き方とか、左手の使い方といった問題の解決に特別な関心を持ったことは一度もない。それよりはむしろプレイすることの哲学的な意味合いを考えたりすることを好む。/ポール・ブレイ



1.ブラッド Blood(1966)
Paul Bley(p), Mark Levinson(b), Barry Altschul(ds)

 自分が好きなアーティストであまりメジャーではないという場合には、とりわけ親密感を感じる(偏愛といってもよい)ということがあると思うけど、僕の場合ポール・ブレイがそれに当たると思う。 ビル・エヴァンスのリリシズム、キース・ジャレットのロマンティシズムに対して、ポール・ブレイの場合には自由さと耽美性に特徴があるのではないかと思います。とはいっても彼はエヴァンスの影響を受け、キースに影響を与えているわけで両者の要素を合わせ持っているとも言えます。 このアルバムは、そういった面でのブレイの最良の記録と言えるのではと思います。全10曲のうち当時親密な関係であったアネット・ピーコックの作った曲が6曲を占めていますが、冒頭の「Blood」や「Mister Joy」など彼女の代表作品で聴かれるブレイの演奏は華々しいものです。同一ジャケットデザインのアルバムである「Touching」(1965)のほうが全体的に、より硬質な感触となっていて、最初に聴くのなら「Blood」のほうが良いと思います。


2.イン・ハーレム In Haarlem(1966)
Paul Bley(p), Mark Levinson(b), Barry Altschul(ds)

 オランダでのライブ録音で彼のライブ・アルバムの代表作です。。「Blood」と「Mister Joy」それぞれ20分前後の演奏2曲が収録されています。いずれの曲もアルバム「Blood」に収録されていた曲で長くなった分、より自由な演奏となっていて、とりわけ「Blood」では時に攻撃的と形容できるほどアグレッシブな演奏となっています。とは言ってもセシル・テイラーのような過激さはなく、彼ならではの抒情が加味されています。「Mister Joy」のほうは、よりメロディアスでゴスペル風な感じでもあり、キース・ジャレットが弾いても似合う感じです。ベースのマーク・レヴィンソンは、彼の名前からピンと来る人もいるでしょうが、その後オーディオ・アンプの会社を設立しています。まだあるのかな。
 

3.バラッズ Ballads(1967)
Paul Bley(p), Gary Peacock(b), Mark Levinson(b), Barry Altschul(ds)

 この時期のブレイは、写真を見ても俳優になれそうなルックスだったし、その感性豊かな独自の音楽性と合わせ本当に格好良かった。 本アルバムの3曲の収録曲はすべてアネット・ピーコック作曲。アネットの和声感覚は現代音楽に通ずるところが大きいようだけど無機的にはならず、その作品にはある種のひたむきさが感じられるような気がします。このアルバムでは割と抽象的な曲想が顕著だけれど、そういった特長は聴き取ることが出来ます。
 

4.ウィズ・ゲーリー・ピーコック With Gary Peacock(1970)
Paul Bley(p), Gary Peacock(b), Paul Motian(ds), Billy Elgart(ds)

 彼とゲーリー・ピーコックとアネット(ゲーリーの元奥さん)とカーラのややこしい関係は良く知らないけど、彼がこの二人の才女(彼はどちらの女性とも結婚している)から音楽的なインスピレーションを受けつづけていたのは間違いない。ゲーリー・ピーコックは、今でこそキースと一緒にスタンダード曲などを演奏しているけど当初は前衛系のベーシストとして著名で、禅に凝って京都で暮らしていたこともあり日本通の人です。冒頭のオーネット・コールマンの「Blues」などノリの良い演奏をしていて、全体的にドライブ感のある曲が多い。その中ではアネットの手になる2曲がちょっと異質な感じがして面白い。


5.Paul Bley/NHOP(1973)
Paul Bley(p), Niels-Henning. O. Pedersen(b)

 ポール・ブレイのピアニズムの特長のひとつである甘美で耽美的な面が最高度に発揮されているアルバムだと思います。ジャケットからもナルシスト(だと思う)ブレイの雰囲気が伝わってくるようです。個人的にも大好きなものです。ニールス・ペデルセンとのデュオ・アルバムですが、ペデルセンはすごいテクニシャンで、ウッド・ベースを時にギターみたく弾いたりして、ちょっとしらけることがあるけど、ここでは重量感ある演奏をしています。LPで聴いていた時にはベースの重低音がうまくトレースできなかったほど(単に針圧の調整がいいかげんなだけかな。CDではベースの音がLPほどには、うまく捉えられていないような気がする)。 10曲中9曲がブレイのオリジナルで、一部エレピも弾いています。特に冒頭の「Meeting」、「Olhos De Gato」、「Paradise Island」などに彼独自の美意識が発揮されていると思う。
 

6.オープン・トゥー・ラヴ Open, To Love(1972)
Paul Bley(p-solo)

 この時期、ECMではピアノ・ソロの名作を矢継ぎ早にリリースしていて、それらは、チック・コリアの「Piano Improvisation Vol.1」(1971)、キース・ジャレットの「Facing You」(1971)とこのアルバムです。いずれも従来のスタンダード曲中心のジャズ・ピアノのソロ・アルバムとは一線を画していて、ECMサウンドとも言うべきリリシズムを持ちながらも、それぞれ独自の個性を主張しています。
 ブレイは、ピアノ・ソロのアルバムを何枚もリリースしているけど、ここに挙げた最初の2枚がやはりベストなのではと思います。全7曲で彼の作品が2曲、カーラが3曲、アネットが2曲となっている。
 それぞれの曲が彼の中で昇華されて表現されていることも大きい要因だと思うけど、曲想に親和性があるためか作曲者が異なることによる違和感はあまり感じられません。 全体としてリリシズムが際立っているようで、この中では、カーラの「Ida Lupino」、「Seven」やアネットの「Nothing Ever Was, Anyway」などが印象的。


7.アローン、アゲイン Alone, Again(1974)
Paul Bley(p-solo)

 ソロ第2作目の本作はECMではなく自主制作のアルバムとなっていてノルウェーのオスロで録音されています。こちらも全7曲で彼の作品が4曲、カーラが2曲、アネットが1曲となっています。本当にこの人は彼女たちの才能を高く評価していたというか、未練があったということなんだろうな。彼は91年にも「Plays Carla」という全曲カーラ作品のアルバムを録音しています。前作と比較すると、ちょっと肩の力が抜けて、音がやわらかくなっているような気がして(録音のせいだけではなく)、個人的にも、こちらの方が聴く機会が多くなっています。冒頭のカーラ作の「Ojos de Gato」が特に印象的。


8.マイ・スタンダード My Standard(1985)
Paul Bley(p), Jesper Lundgaad(b), Billy Hart(ds)

 ポール・ブレイは80年代以降もSteeple Chaseを中心に活発なレコーディングをしていて、中ではこのアルバムの他に、晩年のチェット・ベイカーとの共演盤「Diane」(1985)やオーネット・コールマン作品を取り上げたトリオでの「Notes On Ornette」(1997)などが良いと思います。最近では、天才パーカショニスト富樫雅彦とのデュオ「echo」(1999)をリリースしています。全体的な感じとして、60・70年代の演奏に比べ緊張感が薄れ、聴きやすくなっていると思います。
 このアルバムでは、1曲目の「サンタが街にやってくる」は別として、他は「Lover Man」や「You'd be so nice to come home to」を始めとするスタンダードの名曲ぞろいで、キース・ジャレットやチック・コリアのアプローチとは違ったブレイ独特の美意識でスタンダード曲を解釈していて興味深い。
 

参考Webサイト

ポール・ブレイ関連CD
 

(参考)ライヴ!(艶奏会)The Carla Bley Band(1981)
 
 元奥さんのカーラ・ブレイの率いるバンドのライブ・アルバム。カーラはポール・ブレイ以外のミュージシャンにも曲を提供していて、ビブラフォンのゲーリー・バートンの「葬送」(1969)などとても好きなアルバムでした。カーラ・ブレイ・バンドは、トロンボーンやチューバも含む10人編成のバンドで、勿論全曲彼女の作曲によるものです。ブラスの厚い響きのせいもあるだろうけど、すごく暖かいサウンドで、オーソドックスなジャズからゴスペル風の曲まで曲想にバラエティがあるものの構えたところがなくて、音楽を共に楽しもうという姿勢が感じられます。そういう意味では、このアルバムは60年代を中心に彼女がかかわってきたフリー・ジャズからの方向転換を、彼女なりに模索した結果といえると思います。
 

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