メシアンがヨハネの黙示録に霊感を得て作曲したヴァイオリン、クラリネット、チェロそしてピアノのための四重奏曲で、全8楽章から構成されています。この曲とか前奏曲集などがわりと抵抗なく聴けると思うので、メシアン入門にはよいのではと思います。
この曲はメシアンの前期の代表作ですが、この時期からすでに鳥の歌を作品の中に取り入れていて、第1曲の"水晶の礼拝式"の開始の部分では、"朝の3時から4時のあいだ、鳥達の目覚め。美しい声の1羽の黒つぐみ、またはうぐいすが歌いだす"(メシアンの作品に関するノートより)。
この曲の中で一番美しいのは5曲目の"イエズスの永遠性の讃歌"で聴かれるチェロによる息の長い瞑想的な旋律でしょう。8曲目の"イエズスの不滅性への讃歌"ではヴァイオリンが、さらに高みへと歌い上げています。
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2.前奏曲集(1929)
(p) 橋本京子
メシアンの20代の作品で、出版された最初の曲です。ドビュッシーの影響が顕著であり、ドビュッシーの前奏曲集が好きであれば、この曲集もきっと好きになるのではと思います。リズムの中に、後年のメシアンらしさの萌芽が見られるような気がします。 全8曲には、ドビュッシー同様、それぞれ標題が付いていて、1曲目『鳩』、2曲目は、『悲しい風景の中の恍惚の歌』といった風です。メシアンは、この作品について"愛着と、それにいつくしみの情さえ感じます。きれいなハーモニーがあることを自分でも否定しません。 ― そして5番と6番、すなわち『夢の中のかすかな音』と、『苦悶の鐘と告別の涙』とをいつも愛してきました。"と、語っています。僕にとっても、メシアンの作品の中では「世の終りの四重奏曲」とともに一番好きな曲集です。橋本さんの演奏は、ピアノ(ベーゼンドルファー)にもよるのかも知れないけど、とても繊細でありながら柔らかい感じのタッチで、血の通った演奏をしていると思います。一緒に収録されている「忘れられた捧げもの」(1930)とか「ポール・デュカの墓のための小品」(1935)などもとてもいい。
右のアルバムは、廉価版NAXOSレーベルのもので、演奏はホーコン・アウストペというピアニスト。橋本さんの後で聴くと少し平板かなという気がするけど、これは主観の問題。同時収録の「4つのリズムの練習曲」(1950)は後期に属する作品で、前期との対比が出来て面白い。
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3.トゥーランガリラ交響曲(1949)
(co)小沢征爾
この非常に大規模な交響曲は、メシアンの前期を締めくくる作品です。"トゥーランガリラ"は、メシアン自身の解説によれば、"仏典などに用いられるサンスクリット語(梵語)で、愛の歌を意味すると同時に、歓び・時・リズム・生と死への賛歌でもある"とのこと。全体は10曲よりなり、とにかく"色彩豊かな"という印象が強いこの曲についてメシアン自身も"私の作品の中では、発見がもっとも豊富にあり、また最も旋律的で、最も熱烈で、最もダイナミックで、そして最も色彩的なものの一つです。"と語っていて、全くそのとおりだと思います。楽器の中では特にピアノとオンド・マルトノが重要な役割を担っていて、ピアノは小鳥の歌とバリ島のガムランの役を果たしています。オンド・マルトノという楽器は、この曲でしか聴いたことがないのではと思うけど、不思議な音を出す電気楽器で、この音色が色彩感を際立たせているのは確かです。
演奏ですが、小沢さんはこういう色彩感のある大規模の曲は得意中の得意で、その傑出した構成力と演出力を最大限に発揮しています。ピアノのイヴァンヌ・ロリオは、メシアンの奥さんで初演のときもこの人が弾いています。20世紀に作曲された音楽の中で、記念碑的な曲であると言えると思います。
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4. ピアノとオーケストラ作品(1953−1964)
KING '72 (co) 岩城宏之、東京コンサーツ (p) 木村かをり
このディスクは、メシアンのピアノとオーケストラのための4作品を収録していて、1975年にフランスの権威あるACCディスク大賞を受賞しています。
・「異国の鳥達」(1956)、「鳥達のめざめ」(1953)
メシアンは、"この二つの作品は、鳥の歌だけでできている"と言っています。鳥の歌を全面的に作品に導入するようになるのも後期の特色のひとつですが、僕にはいまいちピンとこない面があります。逆に"鳥の歌"ということを意識せず、あくまで音程とリズムの変化としてとらえて聴いたほうがいいのかもしれないという気がしています。
・「7つの俳諧」(1962)
夫人と一緒に日本に演奏旅行をした際の印象を曲にしたもので、軽井沢や山中湖には日本の小鳥の歌を採集に行ったとのことです。7つの曲から構成され、ヴァイオリンは笙(しょう)を模倣して軋むような響きを発し、オーボエとイングリッシュ・ホルンとの組み合わせで篳篥(ひちりき)の音色を模すというようなことをやっていて、雅楽を思わせる効果をあげています。
・「天国の色彩」(1964)
この曲も「世の終りのための四重奏曲」同様、ヨハネの黙示録を源泉としています。もっとも、聴く限りにおいては、上記の鳥の歌を基調にした曲ととくに曲想が変わっているということはありません。
ピアノの木村かをりさんは、岩城宏之夫人であり、メシアンなどの現代作品の演奏を得意にしているピアニストです。
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5. 幼児イエズスに注ぐ20のまなざし(1944)
EMI '69(p) ミシェル・ベロフ
前奏曲集がドビュッシーの大きな影響下で作曲されたものであるのに対し、この曲はメシアン自身が獲得した書法で書かれた曲です。20の小品からなり、個々の曲に固有な主題のほかに、全体を貫いて循環する4つの主題が存在し、それぞれ1)神の主題、2)神秘な愛の主題、3)星と十字架の主題、4)和音の主題、と命名されています。メシアン独特のカトリック神秘主義的色彩の濃い作品で、ピアノ曲では、前奏曲集と並び好きな曲です。
ベロフは、10歳のときにこの曲をメシアンの前で演奏してびっくりさせたそうで、'67年にメシアン・コンクールで優勝し、'69年のこのアルバムの発表で一躍世界的に脚光を浴びるようになり、その後ドビュッシーの前奏曲集の録音('70)でその名声が決定的になりました。この"まなざし"の演奏はイヴォンヌ・ロリオによる初演以来25年振りの全曲演奏であり、その冴えた技巧といい、卓越したリズム感といいこれに匹敵する演奏は未だ出ていないのではないか。
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6. 聖三位一体の神秘についての瞑想(1969)
ECM '95 (org) C. Bowers-Broadbent
メシアンはトリネテ教会のオルガニストとしての職を長く務めていたこともあり、オルガンのための作品もメシアンの重要な作品群を形成しています。この曲はトリネテ教会における即興演奏から生まれたもので、全体は九つの部分から成り、その各部分は三位一体の神秘の各様相に関係づけられています。例によってメシアンによる各部分についての詳細なノートが残されていますが、これによると他の楽器のための曲同様、ここでもさまざまな鳥の歌が挿入されていて、それらは、ニワムシクイ、ズグロムシクイ、黄ホウジロ、クロゲラなどであるとのことです。実際のところ、低音の際立ったオルガン演奏では鳥の歌として聞き分けるのは難しい面がありますが、全体的にメシアンの作品としては、割と聴きやすい方に入るのではという気がします。
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