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フェイ・ウォン 王菲 (1969− )
FAYE WONG
北京で生まれる。王菲は本名。'89年に"北京から来た女の子"のコピーで香港で歌手デビューした。彼女の母親は"芸術歌曲"と呼ばれる政府公認ソングを歌う歌手だった。幼少時の彼女は、いわば文部省唱歌みたいな"芸術歌曲"や民族音楽を聴いて育った。13−14歳頃に聴いて熱狂したのがテレサ・テンの歌だったという。アメリカ留学を経て発表したアルバム「Coming
Home」(1992)が爆発的ヒットを記録し、一躍スター歌手となった。
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「ごめんなさい」と彼女は言った。
「いいよ」と僕は言った。
それから我々は軽い世間話をした。彼女は自分が中国人だといった。
「中国行きのスロウ・ボート」/ 村上春樹
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1.天空(1994) |
北京語のアルバムとしては、『恋のパズル』に続いて2枚目となり、収録されている全曲が粒ぞろいの傑作で、バラード調の曲が多いのも特長だと思います。フェイのアルバムでは一番気に入っているものです。特に1曲目の拡がりを感じさせるサウンドで、曲名とイメージぴったりの"天空"と2曲目の情感に満ちた"チェス"が好きで、とくに"チェス"はピアノで弾いてみたい。香港あたりでは、彼女のピアノ譜を売っているんだろうか。"天空"は、よりシンプルなアンプラグド・バージョンも収録されています。"天空"と似た雰囲気をもつ"恥じらい"もいいなあ。ラストの"誓言"はいかにもフェイらしい曲。映画『恋する惑星』の主題歌の北京語バージョン"逃避"も収録されていて、アレンジは同じですが、歌詞は全く違っています(ちなみにオリジナルの広東語バージョンの曲名は"夢中人")。
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2.フェイブル/Fable(2000) |
'01年2月に日本盤がリリースされたフェイの最新アルバムです('01年3月時点)。全10曲の新曲が収録されていて(同一曲の広東語バージョン2曲と日本盤のみのボーナストラック2曲を加えると14曲)、前半5曲がフェイ作曲、林夕の作詞によるもので、ストリングスをからめたしっとりとしたムードで統一されていて、なんといってもコンセプトアルバム風のこの部分が素晴らしい。フェイはもともと作曲の才能のある人だけれど、その卓越した歌唱表現力とあいまって、天はこの人には2物を与えてしまったんですね。後半の5曲は、それぞれ独立した曲で、中では、"私のほうがもっと好き"と"笑って忘れて"がフェイらしくていい。このアルバムを聴いて、フェイはこれからも新たな発展が期待できるアーティストであると確信しました。ところで解説によると、フェイは離婚したらしくて新しい恋人もいるようで、まあいかにも彼女らしいですね。
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3.唱遊/歌あそび(1998) |
メジャーレーベルであるEMI移籍後の2作目のアルバムで、前作がいまいちぴんとこなかった面があったんですが、このアルバムではフェイらしさが前面に出ているようで、すごく気に入っています。ボーナス・トラックを除いて全10曲のうち4曲がフェイの作曲によるもので、これらの曲はいずれも良い出来ですが、やはり1曲目の"感情生活/
Love Life"がすばらしい。フェイの曲は、過去のアルバムで彼女がカヴァーしているコクトーツインズなどの影響も見られるのは確かだけど、彼女独特の感覚によるテンションの高いサウンドはオリジナルなものだと思います。これだけのオリジナリティを持ったアーティストを単に"チャイニーズ・ポップス"の枠に入れてもらいたくないなという気がします。フェイの自作曲以外では、最初にシングル・カットされたという"恋の戒め"がやはりいいですね。
このアルバムの日本盤では、"Eyes on
Me"が収録されています。この曲のヒットでフェイも日本で広く知られるようになったわけだけど、旧来のファンとしては複雑な心境で、当時は、フェイが歌う必然性がないのにとか、セリーヌ・ディオンに歌わせれば、などと思ったりしましたね。この曲は、プレステのRPG『Final
Fantasy [』の挿入曲で、僕もしっかりこのゲームはクリアーしていますが、スコールとリノアが二人きりの飛行艇で月から帰還する場面で、この曲が実に効果的に使われていて、その演出に感心した覚えがあります。
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4.恋のパズル/迷(1994) |
全曲北京語によるアルバムの第1弾で、1曲目の"私の願い"に代表される全体として落ち着いた感じのアルバムとなっています。全曲が粒ぞろいの佳曲と言ってよくてベスト・トラックを挙げるのが実にむずかしいところです。そして"悔やまぬ心"ではフェイが作詞をしているようで、いかにも彼女らしい歌詞となっています。
今度は私もこだわりたい
自分のわがままに浸りたい
正しいか間違いかは全く気にしない
たとえ嵌(は)まって抜け出せなくなっても構わない
頑固と言われようとも 私は後悔しない
前作のこれも彼女の傑作アルバムと言っていい『十万回のなぜ』の収録曲の北京語バージョンが、日本盤ではボーナストラックを含めると5曲も収められているのも注目に値するところで、同じ曲でも広東語で歌われる場合と感じが随分と違っていて、このあたりもなかなか興味深いところではあります。
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5.DI-DAR(1995) |
これは、広東語によるアルバムで、フェイの場合どうも北京語によるアルバムよりも広東語のほうがより自由な曲作りになっているようで、そういった意味で彼女らしいオリジナリティに富んだアルバムとなっています。やはり白眉は、1,2曲目のフェイ作曲の"Di-Dar"と"Holiday"でしょうが、その他"曖昧"、"或いは"、"私が思うこと"、"一人二役"などが好き。ライナーに引用されているフェイを形容した言葉に全面的に同感。
"つめたくて明るくて、ぶっきらぼうでやさしくて何よりそのみずみずしい<声>"
『マイ・フェイヴァリット/ My Favourite』は、『DI-DAR』の前作にあたり、全曲テレサ・テンのカヴァーのアルバムで、彼女の急死で、ほとんど完了していたレコーディングがいったん中止されたという。テレサ・テンは、フェイに最も大きな影響を与えた歌手であり、彼女へのトリビュート・アルバムが図らずも追悼アルバムとなってしまったわけです。ここで歌われている曲は、フェイの曲と言われてもそれほど違和感を感じさせないくらいフェイ自身の歌となっていて、フェイのテレサ・テンへの傾倒がうかがわれます。
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6.カミング・ホーム/Coming Home(1992) |
'89年にデビューしたフェイですが、彼女にとって4枚目のこのアルバムの大ヒットにより一躍脚光を浴びるようになりました。10曲中6曲が他のアーティストのカヴァー曲で、とくに中島みゆきの"ルージュ"のカヴァー曲である"傷つきやすい女"は大ヒットし、彼女の人気を決定的なものとしました。この曲は、その後他の歌手によっても歌われて、アジア圏では有名らしい。日本ではとくにヒットしたという記憶はないんだけど。このアルバムには、まだフェイ自身の作品はなく、後年のアルバムほどにはオリジナリティは感じられないものの選曲のうまさ(とても気持ちよい曲が多い)、歌唱の確かさがこのアルバムをブレイクさせたのでしょう。オリジナル曲では、バラードナンバーの"もう一度"や"Kisses
in the Wind"などがいい。
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