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ベルクの「ヴォツェック」以降では私には「三文オペラ」が・・・・・音楽劇の最も重要な事件のように思われる。事実、真理によるオペラの再生とはたぶんこのように始まるのであろう。 / Th. W. アドルノ 明瞭で、わかりやすいメロディ構造を用いてはじめて、「三文オペラ」で達成されたもの、すなわち新しいジャンルの創意が可能になったのです。 / クルト・ワイル |
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1.三文オペラ/Die Dreigroschenoper(1928) | |||||||||
○成立 1728年にロンドンで初演され、空前の成功を収めたジョン・ゲイ作の『乞食オペラ /The Beggar's Opera』をもとに、ちょうど200年後、20世紀演劇の革命児ブレヒトがワイルと組んで作りあげた歌芝居で、ベルリンで初演され大ヒットとなった。 ○内容 舞台は19世紀末のロンドンのソーホー、女王の戴冠式が目前に迫っていた。大泥棒メッキースは、乞食の元締めピーチャムの娘ポリーと極秘に結婚式を挙げる。メッキースの戦友だった警視総監のブラウンも出席して二人を祝福した。娘の結婚を知り、激怒したピーチャムはメッキースを逮捕させ、絞首台に送り込もうと画策する。危険を察知したポリーはメッキースを逃がすが、メッキースはなじみの娼婦ジェニーに密告され逮捕される。警視総監の娘ルーシーともできていたメッキースは、ルーシーの助けで脱獄するが、またしてもジェニーの密告で逮捕されてしまう。絞首刑直前の土壇場で女王の特赦によりメッキースは解放されるばかりか、貴族に叙せられる。なんともはや..... の歌芝居。 社会派の劇作家であるブレヒトの作品と聞くと、ちょっと逃げ腰になるけれど、原作のゲイの『乞食芝居』は庶民のための娯楽劇で、これを現代風に改作した『三文オペラ』も痛烈な社会批判を秘めてはいるものの、観て、聴いて楽しい音楽芝居となっています。 ○代表的ナンバー(歌詞訳・千田是也)
○アルバム
○映画
○「三文オペラ」劇団東演舞台公演 '02年2月 世田谷パブリックシアター (演出)V.ベリャコーヴィッチ (俳優)A.ナウモフ(メッキース)、井上薫(ポーリー)、鶉野樹理(ジェニー)、豊泉由樹緒(ブラウン) 劇団東演と演出のベリャコーヴィッチが主宰するモスクワのユーゴザープト劇場との共同制作の舞台です。音楽の面では、残念ながら冒頭でジェニーが歌う「モリタート」以外にはクルト・ワイルの曲は使われていません。舞台上には鉄製のフレームで構成した10数個の台しかなく、これをまたたくまに組み上げ、ベッドにしたり監獄の檻にしたりと、スピーディーな場面展開を可能にした演出は評価できます。面白いのは、メッキース他の泥棒たちを演ずるのがロシアの俳優達で、彼らの台詞はロシア語そのままであることで、通訳もないので観客は彼らの演技で台詞の内容を推し測るしかない。今回同様の共同制作で「ロミオとジュリエット」を過去に上演しているとの事で、なかなか興味深い試みであるけれど、やはり欲求不満が残るのはいたしかたありません。俳優陣では、エネルギッシュなメッキース役のA.ナウモフとポーリー役の井上薫が印象的でした。 ○ 「三文オペラ」俳優座舞台公演 '05年2月 新宿紀伊国屋サザンシアター (演出)安井武 (訳)千田是也 (俳優)武正忠明(メッキース)、森尾舞(ポリー)、可知靖之(ピーチャム)、鶉野樹理(ジェニー) 俳優座にとって1962年に初演して以来、じつに43年ぶりの再演とのことで、新宿の紀伊国屋サザンシアターでの初日の公演を観ることができました。ブレヒト劇の中で最もポピュラーな音楽劇であり、この日は満員の盛況でした。 舞台は上下2層構造で、上と下とは左右に移動可能な2つの階段により行き来できるようになっていて、これは階段そのものの機能と立体ステージの機能を併せ持ち、舞台空間を広く使うための演出として効果的でした。その他の小道具は椅子とテーブルのみ、また音楽の伴奏もピアノ、キーボードとサックス(これもキーボードかな?)のみといった極めてシンプルなものでした。 初演と同じ千田是也訳で演出され、ワイル作曲の"ソング"の数々もたっぷり聴くことができて満足でした。メッキース役の武正忠明、ポリー役の森尾舞などの演技はもちろんのこと、舞台で鍛えた役者さんたちの声量充分の歌唱もとてもよかったです。とくに今回大抜擢されたという森尾さんのしなやかな感性がひときわ印象的でした。 43年前の俳優座の初演は、1960年の安保闘争から1968年の新宿騒乱、1969年の安田講堂占拠へと至る時期で、演じる側、観る側双方に同調するにせよ否定するにせよ社会体制変革への幻想的気分が漂っていたと思うし、資本主義制度の矛盾を鋭く風刺したこの音楽劇を演じる意味をあえて問う必要もなかったと思いますが、今回はどうなんだろう。 観客層は、劇団四季のミュージカルの延長線上で「三文オペラ」を観に来ている人たちが多かったような気がするし、劇団側もそうした期待を裏切らない、若干の辛口スパイスの利いたエンターテインメントな芝居作りの姿勢が強かったように感じました。好ましい、好ましくないという次元ではなくて、現代にフィットした「三文オペラ」ということでは、こうならざるを得ないのだと理解できますが、俳優座ならあえて時代錯誤的な硬派の舞台で冒険してみても面白かったのではないかな。ないものねだりなのでしょうが。 |
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2.マハゴニー市の興亡(1930) | |||||||||
○成立 ワイルは、ブレヒトの『家庭用説教詩集』に触発されて、1927年にソングプレイ『小マハゴニー』を作曲したが、本作品はそれを一晩のオペラに拡大したもので、1930年3月9日ライプツッヒで初演された。 ブレヒトは、このオペラが従来のオペラに対して持つ新しい意味を次のように表現している。「オペラであるには美食的でなければならないという限りにおいては『マハゴニー』も美食的であるけれども、このオペラはすでに社会変革の機能を持っているのだ、つまり美食的なるものに問題を提起し、このような美食的オペラを必要とする社会そのものを攻撃するのである。このオペラはいわばまだ古い枝の上に腰を下ろしながら、それでも少なくてもいくらかはその枝に鋸をいれているのだ」。(「ブレヒト戯曲全集第2巻」より) ○内容 警察に追われ逃走中の男女3人のやくざ者(ヴィリー、モーゼ、ベグビック)が砂漠の中で進退極まった末、新しい歓楽の町マハゴニーの建設を計画する。町は急速に発展し、金と酒を求めて女たちが、そしてアラスカで儲けた金を持った木こりたちが町にやってくる。木こりのパウルは、ベグビックに斡旋された娘、ジェニーと恋仲となる。歓楽のさなかにあっても、パウルは空しい心をもてあまし、いらいらし、マハゴニーから出て行こうとする。ちょうどその時、ハリケーンがマハゴニーに向かって進み、壊滅の危機に立たされた歓楽の町の住民たちは、開き直ってやりたいことをやり、禁止されていた歌を歌い出す。 この世は薄情なもので 誰も手を貸しちゃくれぬ 人を踏みつけにして 生きるのは俺さ 踏みつけるのは俺で 踏まれるのはお前よ! ハリケーンは奇跡的にマハゴニーを迂回し(!)、町は破壊を免れた。しかし、このときから「なんでもしていい」が住民たちのモットーとなった。 1年後、飽食、性、暴力の町と化したマハゴニーで、ボクシングの賭けに負け、一文なしで金を払えないパウルは、裁判にかけられ死刑を宣告される。 何もない砂漠から、金が全ての町マハゴニーが建設され、そして没落していく変遷を通して、労働者が企業家にあの手この手で搾取されるという資本主義の根本体質を戯画的に描いているのだと思いますが、ドラマ性、娯楽性などオペラの"美食的"なところが実に魅力的な作品であり、現代の観客には、ブレヒトが意図したイデオロギー的なオペラとしては、ほとんど機能していないのではないかな。機能していない要因として、資本主義の金権体質が、初演当時に比べあまりに自明のものと化していることも勿論あるのでしょうが。 20世紀のオペラ作品として、もっと評価されていい傑作だと思います。 ○代表的ナンバー(歌詞訳・岩淵達治)
「マハゴニーの興亡」は、「三文オペラ」のようなソング・オペラではなく、普通のオペラに近い通しオペラとなっていて、単一の曲としてポピュラーなのは、「アラバマ・ソング」の他1、2曲のみとなっています。「アラバマ・ソング」は、「三文オペラ」のアルバムで紹介しているギゼラ・マイの「ブレヒト/ワイル ソング集」、マリアンヌ・フェイスフルの「20th Century Blues」でも取り上げられています。「ブレヒト/ワイル ソング集」には、この他「ハバナ・ソング」他1曲が収録されています。
○「マハゴニー市の興亡」 ザルツブルグ音楽祭 '98 祝祭大劇場 (衛星TV放映) (演出)ペーター・ソァーデク (演)ギネス・ジョーンズ(ベグビック)、ロイ・スミス(ヴィリー)、キャサリン・マルフィターノ(ジェニー)、ジェリー・ハドリー(パウル)(指揮)デニス・ラッセル・デーヴィス、ウィーン放送sym. orc.、ウィーン国立歌劇場合唱団 クライバーとの「ばらの騎士」での名演が忘れがたいソプラノのギネス・ジョーンズ(1936年生)は、60歳を超えているけど、歌唱、演技ともさすがすばらしい。ジェニーを演じたキャサリン・マルフィターノ(s)も、ジョーンズに拮抗した歌唱、演技で魅せてくれました。 演出面では、すっきりした舞台処理がよかった。 |
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■主要作品 | |||||||||
(ブレヒトとの共作)
(共作以外の作品)
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■参考Webサイト | |||||||||
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