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僕はビールを飲みながら、台所のテーブルに向かって「車輪の下」を読みつづけた。 『ノルウェイの森』/ 村上春樹 不思議だ、霧の中を歩くことは! 人生とは孤独であることだ。 どの人もほかの人を知らない。 みなひとりだ。 詩「霧の中」より/ ヘルマン・ヘッセ 私は、太陽や海や風のように 白いもの、定めないものが好きだ。 それは、ふるさとを離れたさすらい人の 姉妹であり、天使であるのだから。 詩「白い雲」より/ ヘルマン・ヘッセ(以上 高橋健二訳) |
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1.Peter Camenzind/ペーター・カーメンチント(郷愁、青春の彷徨)(1904) | |
難易度:☆☆☆ 上に掲げた詩「白い雲」が収められた『青春詩集』とほぼ同時期に書かれた処女長篇で、この詩からも感じとれる自然と孤独とさすらいを愛するヘッセの心情が窺える作品となっています。主人公の青年、カーメンチントは人間よりも自然を自分に近いものと感じていますが、その中でもとりわけ雲を熱烈に愛していることが語られています。 Mountains, lake, storm and sun were my familiars; they talked to me and brought me up; for long they had been dearer and closer to me than any human being or human fate. What I loved however above all else, even more than the glistening waters, the melancholy pine-trees and sun-drenched rocks, were the clouds. Find me a man in the whole wide world who knows and loves the clouds more than I! Show me anything that is more beautiful! They represent the spirit of play, the wrath of heaven and the power of death; they are a comfort to the eye, a blessing and a gift of God, as tender, yielding and gentle as the souls of new-born children. このあとさらに約1ページにわたって、雲への讃歌が述べられています。 この作品は、カーメンチントの内面的な成長を追った、いわゆる"教養小説"で、彼の自然とのかかわり合いと共に、青春期における恋愛と友情が主題となっていますが、恋愛が思慕に留まっているのに対し、友情については、かけがえのないものとして扱われています。恐らくは執筆当時のヘッセ(27歳)の心境を表しているのだと思います。そしてそれらは、大学での友人リヒャルト、それから病気のため半身が不自由なポピーとの友情でした。 様々な出会いと別れの間を彷徨したカーメンチントは、故郷の村Nimikonに戻って来ます。彼は過去を振り返り、都会よりも自然に囲まれた故郷の村こそが自分の属する場所なんだとの感慨を新たにします。 When I look back on all my journeys and efforts and reflect on them, I feel both pleased and angry that I have proved as it were the old adage that 'fish belong to the sea and farmers to the land' and that no amount of trying will ever turn a Carmenzind from Nimikon into a polished citizen of the town or world. It is a situation to which I am becoming accustomed, and I am glad that my clumsy pursuit of happiness in the world has brought me back, against my will, to the familiar corner between lake and mountains where I belong, and where my virtues and weaknesses, especially the latter, are the normal and traditional ones. 青春の息吹と情感に満ち、そして自然への憧憬の思いが強く感じられる作品です。 |
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(次回紹介予定)Beneath the Wheel/車輪の下 | |
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(参考)ヘッセ画文集『色彩の魔術』/F.ミヒュルス編 | |
岩波同時代ライブラリー('92初版) ある日私はひとつのまったく新しいよろこびを発見しました。40歳にもなってから突然絵をかきはじめたのです。自分のことを画家だと思ったからでも画家になろうと思ったからでもありません。しかし絵をかくことはすばらしく美しいことです。(1921年) ヘッセの絵画についての文章や詩と、20枚ほどの彼の水彩画を収めた目にも楽しい本です。僕とヘッセの唯一の共通点が、"40歳にもなってから突然絵をかきはじめた"ことで、水彩というのも同じだけど、彼が最後まで絵を描いていたということと(僕はしばらく構想を練っているところです...)、志がちょっと違うみたいで、"技術など不要、ハートで描くんだ" という僕の信条に対し、ヘッセは、"大切なのは技量だ" と言っています。 人が何と言おうとも、芸術において決定的なものはひとえに技量、能力、あるいはそれで不都合なら僥倖であると言おう。これまで私自身よくその反対のことを考えたものであった。一人の人間が何をなし得るかということ、その人間が自分の技術をいかに有能に操るかということが大切なのではなくて、彼が本当に何を内面にもっているか、本当に言うべきことをもっているかどうかということだけが大切なのだと主張してきた。馬鹿なことだ。人間は誰でも心の中に何かをもっており、誰しも言わねばならぬことをもっていたではないか。しかしそれを沈黙せずに、口ごもらずに、言葉をもってであれ、色彩あるいは音をもってであれ、実際に言いあらわすこと、それだけがただ大切なことだったのだ!(1927年) こういう技量を持たない者は、ペンや絵筆をなげうつべきであり、でなければ何かできるようになるまで練習しつづけるべきとヘッセは言い、彼自身技術面の習得に掛ける努力を惜しまなかったとのことです。この画文集に収められた彼の絵は、彼自身が語っているように、"小さな、表現主義風の水彩画、明るく、多彩で、自然に忠実ではないが、形式上は厳密に研究されたものです。" ヘッセは80歳の時に一読者に宛てた手紙の中で、次のように書いています; 人間がすることのできる最も美しい二つの事は、私にとっては音楽を演奏することと絵をかくことです。私はこの二つのことをただディレッタントとしてやったにすぎませんが、しかしそれは、生きてゆくことに耐えるという困難な課題にぶつかったときに、私を非常に助けてくれました。 ヘッセは、ヴァイオリンに堪能で、神学校のオーケストラのメンバーとして8年間演奏していたとのこと。以下の詩「四月の夜にしるす」は、ヘッセが亡くなった年に書かれたものです。 四月の夜にしるす おお 色彩がある 青 黄 白 赤 そして緑! おお 音がある ソプラノ バス ホルン オーボエ! おお 言葉がある 母音 詩句 韻律 脚韻の対応のこまやかさ 文章の行進と舞踏! 色彩 音 言葉との遊戯に興じた者 それらの魅力を味わった者 その者に世界は花開き 笑いかけ 見せてくれる 秘められた心と意味を 君が愛し 得んとしたもの 君が夢み 体験したもの それを君はたしかに知っているのか それが喜びであったか悲しみであったかを? 嬰ト音と変イ音または変ホ音あるいは嬰ニ音は 耳で聞いて区別できるのか? |
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