『中国からのソネット』より/ W.H. オーデン |
― E.M. フォースターに イタリアもキングズ・カレッジもはるかかなたで、 「真実」は爆弾によってかたをつける問題であり、 聞く耳も持てずにいるぼくらに、あなたは語りかけ、 精神にこそ意味があると力説なさる。 喜んで憎しみの坂を駆け下ろうとしているとき、 あなたは思わぬ石となってぼくらをつまづかせる。 狂気のなかに閉じこもろうとするとき、 電話のようにぼくらの邪魔をなさる。 そう、ぼくらはルーシー、タートン、フィリップの輩。 世界の災害を望んでいる。理性を否定し、 愛を無視する無知蒙昧な陽気な戦列に 加わることを喜んでいる。しかしぼくらが 嘘の誓言をするとき、ミス・エイブリーが かならず剣をもって庭に姿を現す。 (沢崎順之助 訳) W.H. オーデン(1907-1973): 1930年代にイギリス詩壇に登場、清新なイディオムとリズムそして政治的主題で注目を一身に集めた。20年代のT.S.エリオットのあとを追って、30年代はオーデンの時代と言うことができる。アメリカに移り住んだ40年代以降は、アメリカ詩壇の大御所として君臨、その知的な詩風が一時期のアメリカの詩の性格を決定した。この詩は日中戦争のさなかにオーデンが中国へ旅して書き上げたもの。 『オーデン詩集』(海外詩文庫・思潮社)による ルーシー、タートン、フィリップ、ミス・エイブリーは、それぞれフォースターの小説『眺めのいい部屋』、『インドへの道』、『天使も踏むを恐れるところ』、『ハワーズ・エンド』の登場人物。 ○ オーデン関連出版リスト : amazon.co.jp |
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