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柳澤桂子(1938 − ) |
冬樹々のなかでいのちは立っている眠れば死ぬと思うがごとく 身の透ける白魚が白く濁りゆくわが存在ははかなかりけり 眠る間も銀杏は散るか満たされし夢のごとくに黄金敷き積む 病まざればかくありなむと思わるる生に劣らぬ生を生きたし 一口のパンが喉を通った日私は真紅の薔薇になった 藍深き空より御手の現れてわれ抱かなと思う時の間 在り処さえおぼつかなくて自意識は脆い日差しに薄く光りぬ 黄光にひたりて眠る蚊の意志のかたくなにして億年を経る うぐいすの初音したたるこの星に許されて在りこの春もまた 柔らかい夢のなかから絞り出し流したような露草の青 飛ぶものも動かぬものも這うものも秋立つ庭にともに息づく 冬樹々の息も凍れる暗き夜に刹那は重き音をして過ぐ 雨の日を家の囲いに守られて魚になれない私がいる 澄む水を恋いつつあえぐ魚のごと自我のはざまに悲しく生きる 流転してゆく身のひとつしらじらとあたりは暮れて押し寄する月 生き代わり死に代わりつつわがうちに積む星屑にいのち華やぐ さらさらと崩れゆくもの内にしてそのかそけさに秋の日溜まり 生きるという悲しいことを我はする草木も虫も鳥もするなり 樹の息をわが息となりわが息を樹が吸い込みて夜は更けゆく 散るまでの束の間さえも永遠のごと花ふかぶかと咲き静もれる ひそかにも青磁の翳りふかまりて花ほととぎす咲き盛るなり ○ 参考資料 |
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