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西行(1118−1190) |
好きな歌を取り上げてみました。解釈は、『西行』/安田章生 によります。 |
心から心にものを思はせて身を苦しむるわが身なりけり 春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり 捨てたれど隠れて住まぬ人になればなほ世にあるに似たるなりけり 行方なく月に心の澄み澄みて果はいかにかならんとすらん (月の光に対しているわが心は、行方(ゆくえ)もわからず澄みに澄んで、その果てはどうなっていくのであろうか) ともすれば月すむ空にあくがるる心のはてを知るよしもがな さびしさに堪へたる人のまたもあれな庵ならべむ冬の山里 (冬の山里で自分と同じようにさびしさに堪えている人が他にもおればいいのにと望んでいる。もしおれば庵を並べて共に堪えようというのである) われのみぞわが心をばいとほしむあはれむひとのなきにつけても (自分をあわれんでくれる人がないにつけても、恋に苦しんでいるわが心を、ただひとり自分だけがいとおしく思うことだ) 心なき身にもあわれはしられけり鴫立つ沢の秋の夕暮れ 鴫(しぎ) 牡鹿なく小倉の山の裾ちかみただひとりすむわが心かな さまざまのあはれをこめて梢ふく風に秋知るみ山べの里 あばれたる草の庵のさびしさは風よりほかにとふ人ぞなき あはれいかに草葉の露のこぼるらむ秋風たちぬ宮城野の原 (秋風の吹き始めた日、かつてみちのくに旅した際に、その萩をめでた宮城野をおもいやって、そこではどのように草葉の露がこぼれていることだろう) 常よりは心ぼそくぞおもゆる旅の空にて年の暮れぬる 深き山にすみける月を見ざりせば思ひ出もなきわが身ならまし (深き山の中である深仙に澄んでいる月を見なかったならば、思い出もないわが身であろう) とにかくに厭はまほしき世なれども君が住むにもひかれぬるかな (出家前の心境を詠んだもの。あれこれと厭いたいと思うこの世であるが、君が住んでいるので心を惹かれることだ) おもかげの忘らるまじき別れかな名残りをひとの月にとどめて (おもかげが忘れられないような別れだ、名残りをそのひとは月にとどめて) 雲はれて身にうれへなき人のみぞさやかに月の影は見るべき (迷いの雲が晴れて、身に憂いのない人だけが、さやかに月の光を見ることができるのだ) はかなくて過ぎにしかたを思ふにも今もさこそは朝顔の露 (はかなく過ぎた年月をふりかえるにつけても、すべての存在は朝顔の花の上におく露のようにはかない) |
○ 参考資料 ・西行 関連出版リスト(Amazon) ・西行(Wikipedia) |
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