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イーディス・ウォートン(1862 - 1937)
Edith Wharton
オールド・ニューヨークと呼ばれた上流社会に生まれた。11歳のときに初めて小説を書き、16歳のときには書きためた詩を両親が自費出版し、そのうちの一篇が雑誌に掲載された。23歳で結婚し、アメリカ、ヨーロッパでの生活を送っていたが、しばらく遠ざかっていた創作活動を27歳頃から再開し、詩や短編小説を書き出し、37歳のとき(1899年)、最初の短篇集を出版した。「エイジ・オブ・イノセンス」にて、女性として最初のピューリッツァ賞を受賞した。
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1.The Age of Innocence/汚れなき情事(無垢の時代)(1920) |
難易度:☆☆ ピューリッツァ賞受賞(1921)
翻訳書
1870年代の1月、ニューヨークのオペラ劇場では、グノーのオペラ「ファウスト」が上演されていた。ニューヨークの上流社会の名家に生まれ、知的エリートであるニューランド・アーチャーは、母親や叔母と共にオペラを観ている彼の婚約者メイ・ウエランドのボックス席で、初めてオレンスカ伯爵夫人と出会った。エレン・オレンスカはメイの従姉妹で、少女のときにヨーロッパに渡り、ポーランドの裕福な貴族と結婚したが、夫の放蕩に嫌気がさし離婚するために数日前にニューヨークに戻って来ていたのだった。
エレンは隣に坐ったアーチャーに話しかけた。
二人は小さい頃、よく一緒に遊んだ仲だった。傷心のエレンは、かつて住んでいたニューヨークに戻り、見知った人々の中で、ここは天国のようだわとアーチャーに言った。
"We did use to play together, didn't
we?" she asked, turning her grave eyes
to his. "You were a horrid boy, and
kissed me once behind a door; but it was
your cousin Vandie Newland, who never looked
at me, that I was in love with." ; Her
glance swept the horse-shoe curve of boxes."
;Ah, how this brings it all back to me--I
see everybody here in knickerbockers and
pantalettes," ; she said, with her trailing
slightly foreign accent, her eyes returning
to his face. (中略)
"Yes, you have been away a very long time."
"Oh, centuries and centuries; so long," she said,"that I'm
sure I'm dead and buried, and this dear old place is heaven;"
しかしアメリカの上流社会は、ヨーロッパの貴族社会の上っ面を模倣しただけで、その底流にある長い歴史によって培われた自由な精神を受け継いではおらず、エレンが自由の象徴と信じたニューヨークの実体は、因習に凝り固まった閉鎖的な旧態依然の社会であって、彼らにとってエレンの離婚は一族の名前を汚すスキャンダルであり、とても受け入れられるものではありませんでした。
離婚取り下げの交渉役として弁護士のアーチャーが選ばれ、彼はエレンと何度か会ううちに、彼女の置かれた境遇に同情するとともに、洗練されたヨーロッパ文化を体現している知的で、独立心に富んだエレンを愛するようになります。
アーチャーは文学、絵画、音楽などに代表されるヨーロッパの文化や芸術を愛好し、それらに触れることを通じて、周囲に順応しながらも比較的自由な精神を持っていて、婚約者のメイにも自分自身の考えを持った女性に成長して欲しいと願っています。社交界の花として誰からも好かれ、この社会に適応して常識をモットーに生きることに何の疑いも抱いていない純真で可憐なメイを愛しながらも、世間の常識にとらわれず自身の意志で人生を切り開いていこうとするエレンに次第に心が傾いていくアーチャーの内面の葛藤と、既成のモラルを守るため、二人の愛の成就を妨げようと結束する周囲の思惑が描かれています。
アーチャーは、メイに毎日スズランの花を届けていましたが、ある日花屋で花に添える名刺に言葉を書いていたときに黄色いバラを見つけ、最初それをメイに送ろうと考えますが、バラの燃え立つような美しさは強すぎるし、豊かすぎてメイには似合わないと考え、衝動的にエレンに送るよう頼みます。
As he wrote a word on his card and waited for an envelope he glanced about
the embowered shop, and his eye lit on a cluster of yellow roses. He had
never seen any as sun-golden before, and his first impulse was to send
them to May instead of the lilies. But they did not look like her--there
was something too rich, too strong, in their fiery beauty. In a sudden
revulsion of mood, and almost without knowing what he did, he signed to
the florist to lay the roses in another long box, and slipped his card
into a second envelope, on which he wrote the name of the Countess Olenska;
then, just as he was turning away, he drew the card out again, and left
the empty envelope on the box.
スズランの象徴する清純、無垢を天性として具備しているメイは、まさに"innocence"そのものといえます。ただメイの"innocence"は、彼女が生まれた社会が、彼女に強いたものであったのかもしれないということ、また一方で
"innocence"には、無害、愚直という意味もあり、"Age
of Innocence"とは、時代の変化を厭い、ひたすら体制の安定を望む保守的な上流社会の状況を指し示している言葉であったわけです。そうした作者のこの時代に向ける批判的なまなざしとは別に、かつてウォートン自身が少女時代を過ごしたニューヨークの上流社会の日常、オペラ観劇、華麗な舞踏会や晩餐会の綿密な描写などからは、失われた過去をいとおしむノスタルジーを感じ取ることができます。
歳月が経過し、アーチャーの胸に去来するものは、深い悔いなのか、諦観なのか、あるいは愛惜の思いであったのか、ラストの余韻が心に残ります。
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(映画)エイジ・オブ・イノセンス(米・'93) |
(監)マーティン・スコセッシ (演)ダニエル・デイ・ルイス、ミシェル・ファイファー、ウィノナ・ライダー
スコセッシは、「ギャング・オブ・ニューヨーク」(2002)で、1860年代のニューヨークの下町を舞台にした、人種、宗教を異にする組織間での抗争を描いていて、1870年代のオールド・ニューヨークの上流社会を描いたこの作品とで、当時のニューヨーク社会の表裏二面を再現させようとの意図があったのだと思われます。
ジョアン・ウッドワードによる原作を引用したナレーションが随所に挿入され、いかにも文学作品の映画化といった印象を受けますが、確かにウォートンの原作をほぼ忠実に再現したストーリー展開となっていて、三角関係を描いた恋愛ドラマではあるけれど激しさは感じられず、全体としてとても落ち着いた雰囲気となっています(これも原作と同じ)。また、原作でも冒頭に置かれたオペラ劇場のシーン、壁をおびただしい絵画で飾った屋敷での舞踏会の様子、晩餐会で供せられる食事に至るまでの映像的な再現は実に見ごたえがあります。
アーチャーを演じたダニエル・デイ・ルイスは、後年の「ギャング・オブ・ニューヨーク」では、組織の親玉を演じているのが面白い。この映画の成功は、彼を含めた演技陣の好演によるところも大きく、とりわけ性格や信条は対照的であるものの、それぞれが愛するアーチャーのために最善を尽くそうとするエレンとメイを演じたミシェル・ファイファー、ウィノ・ライダーはとてもよかった。
この作品は、1993年度アカデミー賞の5部門にノミネートされ(助演女優賞:ウィノ・ライダー、脚色賞など)、衣装デザイン賞を受賞しています。またウィノ・ライダーはゴールデン・グローブの助演女優賞を受賞しています。
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(紹介予定)Ethan Frome/イーサン・フローム(1911):短篇 |
翻訳書
Life is always hard for the poor, in any
place and at any time. Ethan Frome is a farmer
in Massachusetts. He works long hours every
day, but his farm makes very little money.
His wife, Zeena, is a thin, grey woman, always
complaining, and only interested in her own
ill health. Then Mattie Silver, a young cousin,
comes to live with the Fromes, to help Zeena
and do the housework. Her bright smile and
laughing voice bring light and hope into
the Fromes' house - and into Ethan's lonely
life. But poverty is a prison from which
few people escape . . .
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■参考Webサイト |
○ 関連出版リスト : amazon. com.(洋書)
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■主要作品リスト |
- Verses(1878)
- The Decoration of Houses(1897): Ogden
Codman, Jrとの共著
- The Greater Inclination (1899)
- The Touchstone (1900)
- Crucial Instances (1901)
- The Valley of Decision (1902)
- Sanctuary (1903)
- The Descent of Man and Other Stories (1904)
- Italian Backgrounds (1905)
- The House of Mirth/歓楽の家 (1905)
- The Fruit of the Tree (1907)
- Madame de Treymes (1907)
- The Fruit of the Tree (1907)
- The Hermit and the Wild Woman, and Other
Stories (1908)
- A Motor-Flight Through France (1908)
- Tales of Men and Ghosts (1910)
- Ethan Frome/イーサン・フローム (1911)
- The Reef (1912)
- The Custom of the Country (1913)
- Xingu and Other Stories (1916)
- Summer (1917)
- The Marne (1918)
- The Age of Innocence/エイジ・オブ・イノセンス(汚れなき情事、無垢の時代)
(1920)
- The Glimpses of the Moon (1922)
- A Son at the Front (1923)
- Old New York:False Dawn偽れる黎明 , TheOld
Maid, The Spark, New Year's Day (1924) :4篇
- The Writing of Fiction (1925)
- The Mother's Recompense (1925)
- Here and Beyond (1926)
- Twilight Sleep (1927)
- The Children (1928)
- Hudson River Bracketed (1929)
- Certain People (1930)
- The Gods Arrive (1932)
- Human Nature (1933)
- A Backward Glance (1934):自伝
- The World Over (1936)
- Ghosts (1937) -stories
- The Buccaneers (1938) - a novel(未完、Marion
Mainwaring により完成)
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