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Carson McCullers(1917−1967)
カーソン・マッカラーズ
米国ジョージア州コロンバスの平凡な中産階級の家庭に生まれた。大学の夜間クラスで創作を学ぶうちに認められ、「ストーリー」誌に短編を発表。彼女が23才の時に「心は孤独な狩人」で華々しく文壇にデビューした。もともと病弱で、31才の時に左半身が麻痺し、指1本で原稿をタイプした。2度同じ人物と結婚したが、うまくいかず夫は1953年に自殺している。
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カーソン・マッカラーズの小説の中に物静かな唖の青年が登場する。彼は誰が何を話しても親切に耳を傾け、あるときは同情し、あるときはともに喜ぶ。人々はひき寄せられるように彼のまわりに集まり、様々な告白や内わけ話をする。 (唖:おし)
『回転木馬のデッド・ヒート』/村上春樹
暑くなってくると読みたくなるのが、マッカラーズだ。アメリカ南部の窒息しそうな暑さと、窒息しそうな社会の中の、孤独な魂・・・・・暑さが激しければ激しいほど、光が強ければ強いほど、心の影は色濃くなっていく。
『ボーイズ・イン・ザ・シネマ』/湯本香樹実
Miss McCullers and perhaps Mr Faulkner are
the only writers since the death of D.H.
Lawrence with an original poetic sensibility.
I prefer Miss McCullers to Mr
Faulkner
because she writes more clearly; I
prefer
her to D.H. Lawrence because she has
no message.
/グレアム・グリーン
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1.The Heart Is A Lonely Hunter/心は孤独な狩人 (1940) |
難易度:☆☆
都会文化、つまりは現代の現実的社会においては、亡霊のようにしか存在することが許されない、しかし亡霊には亡霊の夢があり、喜びや悲しみ、愛情がある、そうした孤独を生きている人々がマッカラーズの登場人物なのである。
『本の中の少女たち』/津島祐子
ストーリーは上の村上作品から引用した通りで、「.... そして....」ということになるわけです。繊細で、抒情あふれる文章により発表当時のアメリカ南部の庶民の生活が描かれています。登場人物の中でも、特に13才の少女ミックに対しては、作者の思いが込められているようで、思春期を迎えた彼女の心の内面がていねいに描写されています。日頃、勝気なミックも音楽にあこがれ、ひとりで曲を作ったりピアノを練習したりしますが、マッカラーズ自身、ピアノを専門的に学ぼうとしたことがあり、彼女の少女時代の心象が反映されているようです。
But all the time − no matter what she was doing −there was music. Sometimes
she hummed to herself as she walked, and other times she listened quietly
to the songs inside her. There were all kinds of music in her thoughts.
Some she heard over radios, and some was in her mind already without her
ever having heard it anywhere.
モーツァルトに、ベートヴェンの音楽に感動し、いつか自分も音楽の世界で有名になりたいと見果てぬ夢を抱くミック。
Later on - when she was twenty - she would be a great world-famous composer.
She would have a whole symphony orchestra and conduct all of her music
herself. She would stand up on the platform in front of the big crowds
of people. To conduct the orchestra she would wear either a real Man's
evening suit or else a red dress spangled with rhinestones. The curtains
of the stage would be red velvet and M.K would be printed on them in gold.
「やがて大きくなって、はたちになる時分には、あたしは世界的に有名な大作曲家になっているだろう。交響楽団を自分で持ち、自分で作曲した曲をぜんぶ指揮するのだ。満員の聴衆を前にして、指揮台にのぼる。オーケストラを指揮するには、ほんとの男物の夜会服か、模造ダイヤのついた赤いドレスでも着なければなるまい。舞台の幕は赤いビロードで、ミック・ケリーの頭文字がM・Kと書いてある。」
河野一郎 訳(新潮文庫)
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(映画)愛すれど心さびしく/The Heart Is A Lonely Hunter(1968・米) |
(監)ロバート・エリス・ミラー (演)アラン・アーキン、ソンドラ・ロック
(VHS)
基本的なシチュエーションは原作の通りですが、ミックが原作では13歳の少女であったのに対し、映画では16、7歳の高校生に設定されているところが異なり、映画では少女から脱皮しつつあるミックとパーティーで知り合ったボーイフレンドとの原作にはないエピソードが追加されています。そしてミックのシンガーに対する感情も原作における同じ孤独を抱えた者同士の共感にとどまらず、恋愛感情の要素も帯びているようです。
ミック役として2000人の候補者から選ばれ、スクリーン・デビューを果たしたソンドラ・ロックですが、やせっぽちで、ひょろっとして中性的な原作のミックのイメージに近く、とてもいいです。彼女はこの映画での演技により
'68年度アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされています。
聾唖者であるシンガーが一人で町を歩いたり、部屋にいる場面で画面が無音となる演出が、シンガーにとっては世界が沈黙であるという事実と、彼が抱える癒しがたい孤独感の表出という2つの面を効果的に示していて秀逸でした。抑制した演技でシンガーの内面の孤独を表現したアラン・アーキンも、アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされています。
(挿入曲)
○主題曲
哀愁を帯びた印象的な曲ですが、作曲者のデイブ・グルーシンは、70年代にフュージョン系コンポーザー、ピアニストして活躍したミュージシャンで、僕も彼の代表的なアルバム「マウンテン・ダンス」を持っていました。
○交響曲第41番ハ長調「ジュピター」K.551/モーツァルト
家が困窮しているため、ミックはコンサートのチケットが買えず、演奏会場の外で中から漏れてくるこの曲の演奏に一心に耳を傾けていました。この様子を目撃したシンガーが、彼女のためにプレイヤーとレコ-ドを買って聴かせたことが、二人の心を近づけるきっかけとなりました。ミックがシンガーに感謝の気持を示そうと、身振りと言葉とで(シンガーは唇を読める)、彼になんとかこの曲の素晴らしさを伝えようとする場面が印象的でした。
この41番の交響曲はモーツァルトにとって最後の交響曲であり、標題の示す通り剛毅で、構成力の見事さではモーツァルト作品の中でも随一の傑作です。
○ピアノソナタ ハ長調 K.545 /モーツァルト
ミックの同級生が家でこの曲を練習しているのを、ミックが玄関先で聴いている場面。感動したミックが、外に出てきた友人に「今弾いていた曲は何?」と尋ねるシーンが挿入されています。ミックは次第に自分でもピアノを弾きたいという思いを強く抱くようになります。
この曲はソナチネ・アルバムにも収録されていて、ピアノ初級者にも弾ける曲ですが、いかにもモーツァルトらしい愉悦感、透明感に溢れた名曲です。シンプルであるが故にプロの演奏家にはかえって弾きにくい曲かもしれません。
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2. The Member Of The Wedding/結婚式のメンバー(夏の黄昏)(1946) |
難易度:☆☆ 新潮文庫 村上春樹訳
フランキーも、ミックと同じように、自分自身の幻想や欲望を糧にして生きる、孤独感と逞しさを持った少女だ。映画や小説の中のたくさんの少女像のなかで、私にとっていちばんと言っていいくらい身近で、大切な存在。私はフランキーに出会ったことで、心の中にくすぶり続けていた少女の頃の自分から、円満独立することができたと言ってもいい。
『ボーイズ・イン・シネマ』/
湯本香樹実
この小説におけるマッカラーズの筆致の鮮やかさは、見事に際立っている。フランキー・アダムズという一人の、南部の田舎町に住む少女(彼女はどこにでもいる少女でありながら、どこにもいない少女でもある)の姿が、ため息をつきたくなるくらいありありと、そこに立ち上げられている。
『結婚式のメンバー』訳者解説/村上春樹
12才の少女フランキーが、彼女の兄の結婚式に父親と一緒に出席するため町を離れる数日前から結婚式参列後までの夏の出来事を中心に描いています。多感な少女フランキーの造形は、「心は孤独な狩人 」のミックと双子のようによく似ていて、やはり作者の分身といってよいのではないかと思います。フランキーが鏡に自分を映して見ている場面から:
There was a watery kitchen mirror hanging above the sink. Frankie looked,
but her eyes were grey as they always were. This summer she was grown so
tall that she was almost a big freak, and her shoulders were narrow, her
legs too long. She wore a pair of blue track shorts, a B.V.D undervest,
and she was barefooted. Her hair had been cut like a boy's, but it had
not been cut for a long time and was now not even parted. The reflection
in the glass was warped and crooked, but Frankie knew well what she looked
like; she drew up her left shoulder and turned her head aside.
'Oh,' she said. 'They were the two prettiest
people I ever saw. I just can't understand
how it happened.'
ストーリーの展開という面から見ると、やや冗長かなという感はあるけど、思春期の少女の不安定な内面の描写は実に鮮やかだなと思います。
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3.The Ballad Of The Sad Cafe/悲しき酒場の唄 (1951) |
難易度:☆☆
悲しき酒場の唄(白水社)
表題の中編と6つの短編より構成されています。表題作は、上記2作とは趣が異なり、哀しいながらもちょっとコミカルな味があるストーリーとなっています。町の資産家であるアメリアは独身だが、彼女は、若い時に10日間だけ結婚したことがあり、つかの間の夫であった男は、その後、犯罪を犯し服役中だった。ある日、彼女のいとこだと自称する男が訪ねて来ます。彼は、せむしだったが不思議なことにアメリアは彼を愛するようになり一緒に暮らし始め、自宅にカフェを開きます。数年後、仮釈放となった前の夫が町へ戻って来て.....という展開。
このいなか町に一軒しかないこのカフェについて描写している個所から:
There were cold bottled drinks for a nickel! And if you could not even
afford that, Miss Amelia had a drink called Cherry Juice which sold for
a penny a glass, and was pink-colored and very sweet. Almost everyone,
with the exception of Reverend T.M Willing, came to the cafe at least once
during the week. Children love to sleep in houses other than their own,
and to eat at a neighbor's table; on such occasions they behave themselves
decently and are proud. The people in the town were likewise proud when
sitting at the tables in the cafe. They washed before coming to Miss Amelia's,
and scraped their feet very politely on the threshold as they entered the
cafe. There, for a few hours at least, the deep bitter knowing that you
are not worth much in this world could be laid low.
この作品のほかの短編の中には、ピアノ演奏家志望の少女の挫折感を描いているものもあり興味深い。
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