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(映画)オスカー・ワイルド/Wilde(英 '97) |
(監)ブライアン・ギルバート (演)スティーブン・フライ、ジュード・ロウ、ヴァネッサ・レッドグレーブ
映画の初めのシーンは、1882年にワイルドがアメリカに行ったときの場面ですが、彼のこのときの服装は、びろうどの上着、はでな大幅のネクタイ、膝の下までの半ズボン、絹の靴下に短靴、髪は長く肩まで垂らし、そして百合やひまわりの花を襟元に挿し、その上に毛皮のついた大外套をまとい、あざらしの皮の帽子に黄色い皮手袋をはめていたそうです。
オスカー・ワイルドの後半生を描いた映画です。洒落者で社交界の寵児としてもてはやされ、結婚して幼い二人の息子があったワイルドが、侯爵の息子でワイルドより16歳年下のアルフレッド・ダグラス卿(ボジー)との電撃的な愛のため、ダグラスの父親の侯爵に訴えられ(当時の英国では同性愛は罪となった)、裁判に敗訴し投獄されるにいたる過程がよくわかります。現代であれば(たとえば、やはり社交界の人気者であったカポーティのように)、同性愛者ということで投獄されることはないわけで、ワイルドにとっては、運の悪い時代にめぐり合わせたゆえの悲劇だったと言えます。映画で見るかぎり、ワイルドの同性愛の相手は、ダグラスが最初ということではないようであり、同性愛に対し強い偏見を持つ彼の父親があえて訴訟を起こさなければ、違法であったにせよ、周囲は"知らないふり"をして済んでいたのではないかとも想像されます。当時の、同性愛に対する一般人の受けとめ方がどうであったのかということが興味深いところですが、この映画からは、残念ながらそのあたりのところまではうかがえませんでした。出獄後のワイルドとダグラスの関係は長くは続かず、彼の恵まれない晩年も、カポーティの場合との近似がみられるようです。
ワイルドを演じるスティーブン・フライは、写真で見るワイルド本人と、とてもよく似ていてこれは驚きです。一方のダグラス(ジュード・ロウが演じた)は、彼の父と同じように、少々エキセントリックな感じの漂う青年のイメージでした。
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1.The Picture of Dorian Gray/ドリアン・グレイの肖像(1891) |
難易度:☆☆☆
ワイルドの唯一の長編小説です。
ヘンリー卿が画家のバジルのアトリエで見たのは、美青年ドリアン・グレイに魅せられたバジルが彼を描いた肖像画だった。後日、ドリアン・グレイに会ったヘンリー卿は、グレイに彼の思想(モラル・常識への反逆、耽美主義、唯美主義)を吹き込む。ヘンリー卿の言葉に強く影響されたグレイは刹那的な快楽を追い求め、次第に悪事にも手を染めるようになる。しかし、彼の美貌はいつまで経っても変わらず、逆に絵の中のグレイがどんどん醜く変貌していった。
グレイが自分の肖像画を見ながら、つぶやく場面から:「僕が年とって醜悪な姿になっても、この絵はいつまでも若いままだ。もし、逆にいつまでも若いままであるのが僕で、年老いるのが絵のほうであったなら、そのためなら何をも惜しまないだろう。そのためなら僕の魂だってくれてやる」
"How sad it is!" murmured Dorian Gray, with his eyes still fixed
upon his own portrait. "How sad it is! I shall grow old, and horrible,
and dreadful. But this picture will remain always young. It will never
be older than this particular day of June.... If it were only the other
way! If it were I who was to be always young, and the picture that was
to grow old! For that - for that - I would give everything! Yes, there
is nothing in the whole world I would not give! I would give my soul for
that!"
よく知られたストーリーですが、物語の展開とは別に、様々な場面でヘンリー卿により語られる警句(epigram)が、とても印象に残ります。ヘンリー卿は自身について、"I
have known everything" と言い、人生に倦怠を感じている人間ですが、彼の言葉はおそらくは、ワイルド自身の考え方を反映しているのだと思われます。ワイルドが社交界でもてはやされたのも、こうした気の利いた言葉を次から次へと繰り出して周囲を煙に巻く才能があったからなのでしょう。そのうちのいくつかをピック・アップしてみました。
"To get back one's youth one has merely to repeat one's follies."
青春を取り戻すには、過去の愚行を繰りかえすことだ。
"To get back my youth I would do anything in the world, except take
exercise, get up early, or be respectable.
"Never marry at all, Dorian. Men marry because they are tired; women,
because they are curious: both are disappointed."
"When one is in love, one always begins by deceiving oneself, and one always ends by deceiving others. That is what the world calls a romance."
愛とは自分自身を欺くことにより始まり、愛するものを欺くことにより終る。それがロマンスというものなのさ。
こういう言葉を書いたワイルドが、一方で、幼い息子たちのために「幸福な王子」などのような宗教的な香りのする童話も書き残した、というところがいかにも世紀末を代表する作家ワイルドの内面の二面性を映しているようで興味深いところです。
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(次回紹介)Happy Prince and Other Stories/幸福な王子 他の童話(1888) |
難易度:☆☆
High above the city, on a tall column, stood the statue of the Happy Prince. He was gilded all over with thin leaves of fine gold, for eyes he had two bright sapphires, and a large red ruby glowed on his sword-hilt.
(「幸福な王子」冒頭部分)
その他、「わがままな巨人」「忠実な友だち」などを収録。 |
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■関連Web・主要作品リスト |
○ 関連出版リスト :.洋書、翻訳本
○ 作品
- Poems/ 詩集(1881)
- Happy Prince and Other Tales/ 幸福な王子他の童話(1888)
- The House of Pomegranates(1891)
- Lord Arthur Savile's Crime/ アーサー卿の犯罪(1891):短篇
- Intentions(1891):評論集
- The Picture of Dorian Gray/ ドリアン・グレイの肖像(1891):長編
- Salome/ サロメ(1892):戯曲
- Lady Wintermere's Fan/ ウィンダミア卿夫人の扇(1893):戯曲
- A Woman of No Importance(1893):戯曲
- The Sphinx without a Secret/ 謎のないスフィンクス(1894):短篇
- An Ideal Husband/ 理想の結婚(1895):戯曲
- The Importance of Being Ernest/ まじめが肝心(1895):戯曲
- De Profundis/ 獄中記(1895)
- The Canterville Ghost/ カンタヴィルの幽霊(1887):短篇
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