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J.R.R. Tolkien (1892 - 1973)
J.R.R. トールキン
南アフリカ共和国ブルームフォンティンで生まれる。幼くして父を亡くした後、母と共にイギリスに帰国し、バーミンガムで育った。オクスフォードにあるエクスター・カレッジに入学したが、第1次大戦が勃発し、23歳の時に連隊に入隊、1915年から3年間軍務についた後、カレッジに復帰した。卒業後2年間ほど、オクスフォード英語辞典の編集助手を務め、1920年にリーズ大学の英語学准教授に就任した。1925年より20年間は、オクスフォードのペムブローク・カレッジで、アングロサクソン語教授として教壇に立った。45歳の時に、彼の子供たちに話して聞かせた空想の世界"ミドル・アース"を素材にして書いた児童向けの「ホビットの冒険」を出版した。この作品は大きな成功を収め、トールキンはさらに"ミドル・アース"を舞台にした大人向きの物語に着手し、「指輪物語」3部作を完成させた。
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妖精というものは、エルフや聖霊、小人や魔女やトロルや巨人、あるいは竜などの外にも、たくさんの存在を含んでいる。それは海も太陽も月も、空も大地も、そのなかにあるすべてのものを包括している。樹も鳥も、水も石も、葡萄酒もパンも、そしてわたしたち自身、すなわち現(うつ)し身の人間さえも。
「妖精物語について」/ J.R.R. トールキン(「トールキンの世界」(晶文社)より
この本は、あまりにも独創的かつあまりにも豊穣であるため、一読しただけで最終的評価を下すことができない。しかし、私たちに多大な影響を及ぼしたことはすぐに分かる。私たちは前と同じ人ではなくなっているのだ。そして何回も再読しなければならないとしても、この本がたちまち必読書の地位を占めることを、私はほとんど疑っていない。
/ C.S.ルイス
以下を紹介しています(クリックでリンクします)。
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1.The Hobbit/ホビットの冒険(1937) |
難易度:☆☆
『ホビットの冒険』は、児童向けに書かれた作品ですが、指輪物語3部作のプロローグにあたり(『指輪物語』は、この物語の60年後から始まる)、『指輪物語』の主要キャラクターである小人のホビット族のビルボや老魔法使いガンダルフが登場し、仲間達と共に竜退治に出かけるという元祖ドラゴン・クエストです。児童向きだからといってあなどれず、以前読んだ時には読み始めたら途中でやめられなくなってしまったくらい面白かったことを覚えています。本編に比べて手ごろな長さで読みやすいので、ペーパーバック入門としてもおすすめです(注:本編に比べてとくにやさしい英語ではありません)。
このサーガの主人公となるホビット族とは? What
is a hobbit?
They are (or were) a little people, about half our height, and smaller than the bearded dwarves. Hobbits have no beards. There is little or no magic about them, except the ordinary everyday sort which helps them to disappear quietly and quickly when large stupid folk like you and me come blundering along, making a noise like elephants which they can hear a mile off. They are inclined to be fat in the stomach; they dress in bright colours (chiefly green and yellow); wear no shoes, because their feet grow natural leathery soles and thick warm brown hair like the stuff on their heads (which is curly); have long clever brown fingers, good-natured faces, and laugh deep fruity laughs ( especially after dinner, which they have twice a day when they can get it). Now you know enough to go with.
50歳のビルボは、半ばなりゆきで、老魔法使いのガンダルフと13人のドワーフ(小人)たちと一緒に、昔、竜のスマウグに奪われたドワーフの財宝を取り返す旅に出発する事になります。ガンダルフは杖を持った老人(an
old man with a staff)で、先のとんがった高い青色の帽子と、長い灰色のマントと、銀白色のスカーフを首に巻き、その上から長くて白いあごひげを腰の下までたらし、大きな黒いブーツをはいていた。
He had a tall pointed blue hat, a long grey cloak, a silver scarf over
which his long white beard hung down below his waist, and immense black
boots.
この後の『指輪物語』に係わる最も重要な出来事は、ビルボが洞窟の闇の中で偶然に魔法の指輪を見つけたことです。この指輪はこの洞窟に住むゴクリが昔奪って手に入れたもので、ゴクリとの謎々合戦に勝ったビルボは、辛くも指輪とともに洞窟を脱出します。
数々の苦難を経て、やがて一行はスマウグのいる山にたどり着き、偵察に出たビルボは洞窟の中で、数え切れないほどの宝物に囲まれて眠っている巨大な赤黄金色の竜、スマウグを見い出します。
There he lay, a vast red-golden dragon, fast asleep; a thrumming came from
his jaws and nostrils, and wisps of smoke, but his fires were low in slumber.
Beneath him, under all his limbs and his huge coiled tail, and about him
on all sides stretching away across the unseen floors, lay countless piles
of precious things, gold wrought and unwrought, gems and jewels, and silver
red-stained in the ruddy light.
冒険を終えたビルボは、なつかしい我が家に戻って来ます。この時点ではまだ誰も知らない途方もない力を秘めた指輪を持って。
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2.The Fellowship of the Ring/指輪物語 第1部「旅の仲間」(1954) |
難易度:☆☆
ビルボが帰還してから60年後から物語は始ります。ビルボは111歳の誕生日を迎えようとしていた(!)
ビルボが、ドラゴンクエストの冒険から持ち帰った金の指輪は、冥界の王サウロンにより作られたもので、指にはめると姿が見えなくなるという魔法の力だけでなく、はめた者の心をやがて闇の力が支配し、世界を破滅に導くとてつもない力を秘めているものでした。 ビルボはこの指輪を養子のフロドに託し、彼の111歳の誕生日に、今度はひとりで旅に出ます。
さらに年月が経ち、指輪について調べていたガンダルフが戻り、フロドは指輪のもつ魔力を知らされます。そして、このミドル・アース世界を闇の力から守るためには、この指輪を破壊するしかなく、それも尋常の手段ではだめで、サウロンが支配する地モルドールにある火の山オロドルインの滅びの亀裂(the
Cracks of Doom)に投げ込むしかないということを。「なぜ自分が選ばれたのか」と問うフロドにガンダルフは、「そのような問いには誰も答えられない。それはおまえが持ち、他の者が持たない長所や力や知恵といったもののためではないことは、わかるだろう。だが、おまえは選ばれてしまったのだよ。選ばれてしまったからには、自分が持つ限りの力と心と知恵とを使わなければならない」
'There is only one way: to find the Cracks of Doom in the depths of Orodruin,
the Fire-mountain, and cast the Ring in there, if you really wish to destroy
it, to put it beyond the grasp of the Enemy for ever.'
'I do really wish to destroy it!' cried Frodo.'Or, well, to have it destroyed. I am not made for perilous quests. I wish I had never seen the Ring! Why did it come to me? Why was I chosen?'
'Such questions cannot be answered,' said Gandalf. 'You may be sure that
it was not for any merit that others do not possess: not for power or wisdom
at any rate. But you have been chosen, and you must therefore use such
strength and heart and wits as you have.'
やがて、フロドは指輪を闇の手から守るため、サムとメリーとピピンの三人の若いホビット達を連れ、住み慣れた故郷を離れ、リベンデルにあるエルロンドの館を目指し帰還する見込みのない決死の冒険の旅に出発します。一緒に行くはずだったガンダルフはついに現れませんでした。フロド達の一行を追うのは、究極の指輪のありかを知ったサウロンの手下の9人の黒騎士達(Black
Riders)。そして彼らを助けてくれたのが、陽気な森の住人トム・ボンバディルや共に旅することになるストライダーと呼ばれるアラゴルン、そしてエルフ達でした。
やっとのことでエルロンドの館にたどり着いたフロドはガンダルフ、ビルボとの再会を果たします。
エルロンドを議長とする会議が開かれ、誰が敵中深く潜入して指輪を滅びの亀裂に投げ込む使命を担うかを決めようとしていたが、誰も答える者はいなかった。フロドは恐怖にとらわれていた。それはずっと以前から予見しながらも、もしかしたらという空しい希望をかすかに持ちながら運命の判決を待っているかのようだった。... やっとの思いで、彼は声を出した。フロドは自分の話す言葉を聞きながら、まるで他人の意志が自分の小声を使ってしゃべっているみたいだと思った。「私が指輪を持って行きますよ」と、彼は言った。「道を知らないけど。」
No one answered. The noon-bell rang. Still no one spoke. Frodo glanced
at all the faces, but they were not turned to him. All the Council sat
with downcast eyes, as if in deep thought. A great dread fell on him, as
if he was awaiting the pronouncement of some doom that he had long foreseen
and vainly hoped might after all never be spoken. An overwhelming longing
to rest and remain at peace by Bilbo's side in Rvendell filled all his
heart. At last with an effort he spoke, and wondered to hear his own words,
as if some other will was using his small voice.
'I will take the Ring,' he said, 'though I do not know the way.'
この会議の結果、新たに人間やドワーフやエルフなどの仲間を加え、総勢9人で目的地モルドールを目指すことになります。そして一行には、この第1部のクライマックスと言うべきモリアの洞窟での冒険が待ち受けています。
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(映画) ロード・オブ・ザ・リング/The Fellowship of the Ring(米・2001) |
(監)ピーター・ジャクソン (演)イアン・マッケラン(フロド)、イアン・マッケラン(ガンダルフ)、ヴィゴ・モーテンセン(アラゴルン)、リヴ・タイラー(アルフェン)、ケイト・ブランシェット(ガラドリエル)
あれだけのスケールの物語世界を見事に映像化してしまうCGの威力はたいしたものです。ロケによる映像も多く、ミドル・アースの自然が美しく描写されていました。主要登場人物達の造形もそれほど違和感はありませんでした。原作のエピソードもうまく整理されていたと思いますが、本を読んでいないと、スピーディーな展開についていけないところがありそうです。闇の王サウロンの魔手からミドル・アースの平和を守るというのが主題の物語だから、戦いの場面が多くても仕方がないと思うけど、緊張の連続で、いささか疲れるので、緩急をつける意味でも、原作ではたびたび登場する歌を歌う場面など心がなごむ場面が途中にもっとあればと思いました(曲は、やはりケルト風の旋律がふさわしい。エンヤの歌う主題歌はよかった)。
"to be continued 次回に続く"というエンディングであることについては、すでに情報がいきわたっていたためか、観客からとくに驚きの反応は見られませんでした。2部、3部も期待できますが、すでに撮影は終わっているようなので、せめて6カ月おきくらいに上映してもらいたいものです。
原作の方でも紹介しているエルロンドの館での会議でフロドが「私が行きます」というシーンから;
フロド : I will take the ring
to Mordor.
Though I do not know the way.
ガンダルフ: I will help you
bear this burden
for as long as it is yours to
bear.
アラゴルン: If by my life or
my death I
can protect you, I will.
(アラゴルンはフロドの前にひざまずく)
アラゴルン: You have my sword.
レゴラス: And my bow.
ギムリ : And my axe.
ボロミア: You carry the fate
of us all,
little one. But if this is truly
the will
of the council, Gondor will see
it done.
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3.The Two Towers/指輪物語 第2部「二つの塔」(1954) |
難易度:☆☆☆
フロドは彼一人で目的の地へ行こうと決意し仲間を離れますが、気づいたサムが追いつき二人でモルドールを目指します。一方、オーク鬼との戦闘で、ボロミアは命を落とし、メリーとピピンは彼らに連れ去られてしまい、残されたアラゴルン、ギムリ、そしてレゴラスの三人は、メリーとピピンの救出に向かいます。
こうして旅の仲間は、三つに分れてしまい、物語はそれぞれのグループが遭遇する出来事を追って進行することになります。
この巻で最も強く印象に残る登場人物は、メリーとピピンがオーク鬼から逃れファンゴルンの森でさまよっているところを助けた
Treebeard(木の鬚)という人間と巨木の中間のようなファンゴルンの森の守護者でしょう。メリーとピピンが初めて彼に出合った時の描写から;
彼らが見たのはとんでもなく並外れた顔だった。大きな人間のようであり、ほとんどトロールといってもいい姿をしていた。身長は少なくとも14フィート(4.2m)、すごくたくましく、頭部が長く、首の部分がほとんどなかった。緑と灰色っぽい樹皮を身に付けているのか、あるいはそれが彼の皮膚なのか判断しかねた。ともかく、その幹から近いところの腕には皺(しわ)がなく、茶色のすべすべした皮膚で被われていた。大きな足にはそれぞれ7本の指があった。長い顔の下の部分は長く垂らした灰色のあごひげで覆われていて、それらはふさふさして、根元ではほとんど小枝のようで、先端は細く、苔のようだった。
They found that they were looking at a most extraordinary face. It belonged
to a large Man-like, almost Troll-like, figure, at least fourteen foot
high, very sturdy, with a tall head, and hardly any neck. Whether it was
clad in stuff like green and grey bark, or whether that was its hide, was
difficult to say. At any rate the arms, at a short distance from the trunk,
were not wrinkled, but covered with a brown smooth skin. The large feet
had seven toes each. The lower part of the long face was covered with a
sweeping grey beard, bushy, almost twiggy at the roots, thin and mossy
at the ends.
Treebeard(木の鬚)はエント族の最長老で、平和主義者の彼も森を荒らす魔法使いサルマンに対し怒りを爆発させ、仲間を動員してアイゼンガルドのサルマンの塔を目指して進軍します。
一方、アラゴルン達はメリーとピピンの足どりを追ってファンゴルンの森にたどりつき、そこで思いがけない人物と再会することになります。
They all gazed at him. His hair was white as snow in the sunshine; and
gleaming white was his robe; the eyes under his deep brows were bright,
piercing as the rays of the sun; power was in his hand. Between wonder,
joy, and fear they stood and found no words to say.
At last Aragorn stirred. 'Gandalf! he said. 'Beyond all hope you return to us in our need! What veil was over my sight? Gandalf!' Gimli said nothing, but sank to his knees, shading his eyes.
'Gandalf,' the old man repeated, as if recalling from old memory a long
disused word. 'Yes, that was the name. I was Gandalf.'
指輪を担ったフロドとサムは、彼らの後をずっとつけてきたゴクリ(原文ではゴラム
Gollum)を捕まえます。ゴクリは、60年前にビルボに指輪を奪われてから(いきさつは「ホビットの冒険」に記述されています)、ずっと指輪奪還の機会を狙っていたのでした。フロドはゴクリを哀れに思い、命を助ける替わりに、モルドールへの道を知る彼に先導させて、敵地に潜入しようとします。
「指輪物語」の中で、精神のドラマとして最も興味深い存在がこのゴクリだと思います。彼は元はスメアゴル(Smeagol)というホビットでしたが、指輪を長く所有していたために寿命は延びたけれど(500歳位)、心と肉体はその魔力により歪められてしまい、奪われた指輪にどこまでも執着せざるを得ない亡者と化してしまったのでした。彼の内面では、助けてもらったフロドに忠誠を果たそうとする人格と、フロドを欺いて指輪を奪おうとする邪悪な人格とに分裂し、争い、次第に後者が圧倒していきます。眠っているフロドのそばで、彼を殺して指輪を奪おうかどうか、ゴクリの中の二つの人格が言い争う場面は圧巻です(注:文法的におかしなところは原文によるものです);
Gollum was talking to himself. Smeagol was holding a debate with some other
thought that used the same voice but made it squeak and hiss. A pale light
and a green light alternated in his eyes as he spoke.
'Smeagol promised,' said the first thought.
'Yes, yes, my precious,' came the answer, 'we promised: to save our Precious,
not to let Him have it - never. But it's going to Him, yes, nearer every
step. What's the hobbit going to do with it, we wonders, yes we wonders.'
'I don't know. I can't help it. Master's got it. Smeagol promised to help
the master.'
'Yes, yes, to help the master, the master of the Precious. But if we was master, then we could help ourselfs, yes, and still keep promises.'
'But Smeagol said he would be very very good. Nice hobbit! He took cruel
rope off Smeagol's leg. He speaks nicely to me.'
(中略)
'See, my precious: if we has it, then we can escape, even from Him, eh?
Perhaps we grows very strong, stronger than Wraiths. Lord Smeagol? Gollum
the Great? The Gollum! Eat fish every day, three times a day, fresh from
the sea. Most Precious Gollum! Must have it. We wants it, we wants it,
we wants it!'
ゴクリの中のスメアゴルの魂は、その地獄から救済される時が来るのだろうか。またフロド達はミドルアースの運命を決定する重責を果たし、アラゴルンやメリーらの仲間たちと再会することができるのだろうか。
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(映画) 二つの塔/The Two Towers(米・2002) |
(監)ピーター・ジャクソン (演)イアン・マッケラン(フロド)、イアン・マッケラン(ガンダルフ)、ヴィゴ・モーテンセン(アラゴルン)、リヴ・タイラー(アルフェン)、ケイト・ブランシェット(ガラドリエル)
三方に分かれた仲間達のエピソードを追う展開となるこの第2部ですが、だれることなく映像化され、第1部を凌ぐ迫力となっています。後半のヘルム峡谷での戦いがクライマックスとなっていますが、サルマンの1万もの大軍を受けて、城を守るセオデン王やアラゴルン、レゴラス、ギムリの悲壮、かつ雄々しい戦いがCGにより息を呑む圧倒的な現実感で再現されています。ファンゴルンの森の守護者である
Treebeard(木の鬚)は、威厳不足で少々物足りなかったのが残念。
アラゴルンの格好よさ、もてもてぶりが際立つ本編ですが、モルドールに近づくにつれ、リングの魔力で弱っていくフロドを助けるサムの活躍もめざましく、この映画でも原作にもあった彼の極め付けのセリフが披露されています。以下は映画のスクリプトからの引用です。
弱音をはくフロドに対して、サムは言います。「わしらは大した物語の中にいるようなもんです。物語には暗闇と危険がいっぱいで、最後がどうなるかわからないし、知りたくもなかった。でも最後の最後にはきっと闇が晴れて、新たな日々を迎えることができるだろう.....
そんな物語の中にわしらはいるんですよ。そうした物語の主人公たちには途中で引き返すチャンスもあったけど引き返さなかったんです。どうしてかというと、この世にはそのために戦うに値する大事なものがあって、その人たちはそれを持ちつづけていたからなんです」
SAM:
I know. It’s all wrong. By rights we shouldn’t
even be here. But we are. It’s like in the
great stories, Mr. Frodo. The ones that really
mattered. Full of darkness and danger they
were. And sometimes you didn’t want to know
the end. Because how could the end be happy?
How could the world go back to the way it
was when so much bad had happened.
But in the end, it’s only a passing thing,
this shadow. Even darkness must pass. A new
day will come. And when the sun shines it
will shine out the clearer.
Those were the stories that stayed with you.
That meant something. Even if you were too
small to understand why. But I think, Mr.
Frodo, I do understand. I know now. Folk
in those stories had lots of chances of turning
back only they didn’t. Because they were
holding on to something.
FRODO:
What are we holding on to, Sam?
SAM:
That there’s some good in this world, Mr.
Frodo. And it’s worth fighting for.
サム殿もなかなか雄弁です。忘れてならないゴクリ(ゴラム)の表情の豊かさも特筆すべきで、人格分裂の演技(?)は、助演男優賞ものでした。
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4.The Return of the King/指輪物語 第3部「王の帰還」(1955) |
難易度:☆☆☆
ガンダルフとピピンは、モルドールの軍団に包囲されたゴンドールのミナス・ティリスを目指し、駿馬Shadowfax を駈けます。一方、残ったメリー、アラゴルン、ギムリとレゴラスらもローハンの王セオデンとともにゴンドールを目指し出発しますが、アラゴルンはギムリとレゴラスを伴い、極めて危険な道
"The Paths of the Dead 死の道"をとることを決断します。
アラゴルンとセオデン王、王と行を共にするメリーとの別れの場面。再会できる見込みはほとんどないと考えての互いの別れの言葉だったでしょう。:
「アラゴルンよ、おぬしは、自身の思うがままにするがよい。」とセオデン王は言った。「他の者があえて行かぬ道に踏み入ること、それは恐らくはおぬしの運命なのだ。別れは私を悲しませ、持てる力を減じさせるが、しかし私は山道を行かねばならぬ。もうこれ以上遅れるわけにはいかぬ。さらばだ!」
アラゴルンは言った。「さらば王よ!御身に栄光あれ!さらばメリーよ!お前を良き手にゆだねるのだ。それは我らがファンゴルンにオークどもを追ったときに望んだ以上に頼みにできるものだ。レゴラスとギムリは、これから先もなお私と行を共にしてくれるだろう。だが、我らはお前のことを忘れまい。」
「さようなら!」メリーは言った。それよりほかに言葉が見つからなかった。彼はとても肩身の狭い思いを抱くとともに、交わされた重苦しい言葉に途方に暮れ、憂鬱になった。
'You will do as you will, my lord Aragorn,' said Theoden. 'It is your doom, maybe, to tread strange paths the others dare not. This parting grieves me, and my strength is lessened by it; but now I must take the mountain-roads and delay no longer. Farewell!'
'Farewell, lord!' said Aragorn. 'Ride unto great renown! Farewell, Merry!
I leave you in good hands, better than we hoped when we hunted the orcs
to Fangorn. Lagolas and Gimli will still hunt with me, I hope; but we shall
not forget you.'
'Good-bye!' said Merry. He could find no more to say. He felt very small,
and he was puzzled and depressed by all these gloomy words.
そして、ついにミナス・ティリスへのモルドール軍の総攻撃が開始され、光と闇双方の存亡を賭けた全面戦争の火ぶたが切って落とされます。敵の大軍による猛攻撃の前にガンダルフらは苦戦を強いられます。セオデン王率いる軍団が到着するまで果して持ちこたえることができるのか。そしてアラゴルンたちは"死の道"を切り抜け、戦線にたどり着くことができるのか。
一方、モルドールに侵入したフロドとサムですが、大蜘蛛シーロブに襲われ仮死状態となったフロドはオークたちに連れ去られ、サムは彼らを追ってオークの塔に潜入し、フロドを救出します。フロドは傷だらけで、裸のまま気を失って床の上に倒れていました。サムが一度は死んだと思ったフロドとの再会を果たす感動的な場面 ;
'Frod! Mr Frod, my dear!' cried Sam, tears almost blinding him. 'It's Sam, I've come!' He half lifted his master and hugged him to his breast. Frod opened his eyes.
'Am I still dreaming?' he muttered. 'But the other dreams were horrible.'
'You're not dreaming at all, Master,' said Sam. 'It's real. It's me. I've
come.'
'I can hardly believe it,' said Frod, clutching him. 'There was an orc with a whip, and then it turns into Sam! Then I wasn't dreaming after all when I heard that singing down below, and I tried answer? Was it you?'
'It was indeed, Mr Frod. I'd given up hope, almost. I couldn't find you.'
'Well you have now, Sam, dear Sam,' said Frod, and he lay back in Sam's
gentle arms, closing his eyes, like a child at rest when night-fears are
driven away by some loved voice or hand.
身体だけでなく、指輪の魔力のため心にも深い傷を負っていたフロドをサムは励ましながら、今や生きて帰るあてのない使命を遂行するため少しづつ前進し、ふたりはついに目的地の"滅びの山
Mout Doom"の火口にたどり着きます。そこで彼らを待ち受けていたのは、やはり指輪の魔力に取りつかれ、執念でフロド達を追っていたゴクリ(Gollum)でした。
すべてが終った時、フロドはかつてガンダルフが語った言葉、「ゴクリでさえも、まだ何かすることがあるのではないかの?」を思い出します。
'But do you remember Gandalf's words: Even Gollum may have something yet to do? But for him, Sam, I could not have destroyed the Ring. The Quest would have been in vain, even at the bitter end. So let us forgive him! For the Quest is achieved, and now all is over. I am glad you are here with me. Here at the end of all things, Sam.'
物語は、なお全体の 1/4位(ペーパーバックで100ページほど)残していて、まだまだ気が抜けません。
このミドルアースを舞台にした長大なファンタジーは、読む人それぞれに様々な思いを与えてくれるのでしょうが、僕にとってのそれは、まず闇の力との死闘の過程でホビットらを始めとする仲間たちによって示される高潔な精神、その精神にふさわしい格調高い文体、およそ1000マイル(1600km)四方におよぶ範囲を仲間たちが旅するロード・ノベルとしての愉しみ(様々な人々や自然景観との印象的な出会いと別れ)、そして独立した神話的世界構築の圧倒的見事さでした。
冒頭に掲げた「ナルニア国物語」の作者であるC.S.ルイスの言葉のように、この3部作は読み返す度、つまりは毎回サムと一緒に
'Well I'm back.' に至るまで旅をする度、ますますその神話世界で仲間たちとともに親密に生きることができるのではないかと思います。
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(映画)王の帰還/The Return of the King(米・2003) |
(監)ピーター・ジャクソン (演)イアン・マッケラン(フロド)、イアン・マッケラン(ガンダルフ)、ヴィゴ・モーテンセン(アラゴルン)、リヴ・タイラー(アルフェン)、ケイト・ブランシェット(ガラドリエル) アカデミー賞
11部門受賞
ホビットのスメアゴルが友人と釣りをしていて、川底で見つけた指輪を奪い合って友を殺し、その虜になって仲間と離れゴクリ(ゴラム)と化していくエピソードが冒頭に置かれています。ラストの大団円に至るまで約3時間半の長丁場ですが、そんな長さを全く感じさせず、3部作の完結篇にふさわしい作品となりました。
フロドが、常人には抗えないであろう指輪の魔力にかろうじて耐え、ミドルアースを破滅から救うため、指輪を火山口に葬り去るため敵地モルドールに潜入し、サムの不屈の意志による献身を受けながら指輪という重荷を担い一歩一歩目的の地に、そこが自らの死の地でもあることを認識しつつ向かう姿に、十字架を担いゴルゴダの丘に向かうイエスの姿を想起しました。ゴクリの果たした役割は、ユダの存在がイエス復活の成就に必要だったことと重ね合わせられるのではないかとも思いました。
トールキンの創造した世界、ミドルアースを大きなスケールで再現させ、ホビット、人間、エルフ、ドワーフ、魔法使いらの仲間たちの友情と冒険を描ききった製作陣の努力に頭が下がります。ミナス・ティルスの壮大な城砦、サウロンの軍勢との熾烈を極める攻防戦を映像化させたCGと、ニュージーランドで撮影した拡がりのある風景描写も見事でした。この3部作が映画史の中で、映像表現における一つのピークを記録した記念碑的な作品となったことは間違いありません。
3時間半に収まりきらなかったサルマンの始末記は完全版のDVDに託されたようで、ちょっと残念ですが、やむをえないでしょう。3部作がアニー・レノックスの歌「Into
the West」で締めくくられたのにも感激。とてもよかった。
ジャクソン監督には、いつか、「指輪物語」の前史である「シルマリルの物語」を映像化してもらいたいものです。
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(次回紹介)Silmarillion/シルマリルの物語(1977) |
The Silmarillion is J.R.R. Tolkien's tragic,
operatic history of the First Age of Middle-Earth,
essential background material for serious
readers of the classic Lord of the Rings
saga.
Silmarillion tells a tale of the Elder Days,
when Elves and Men became estranged by the
Dark Lord Morgoth's lust for the Silmarils,
pure and powerful magic jewels. Even the
love between a human warrior and the daughter
of the Elven king cannot defeat Morgoth,
but the War of Wrath finally brings down
the Dark Lord. Peace reigns until the evil
Sauron recovers the Rings of Power and sets
the stage for the events told in the Lord
of the Rings. This is epic fantasy at its
finest, thrillingly read and gloriously unabridged.(Amazon.comより)
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■ 関連Webサイト |
○ トールキン関連出版リスト:洋書、翻訳本、DVD
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■主要作品リスト |
- A Middle English Vocabulary/ 中世英語語彙(1922):学術論文
- Sir Gawain and the Green Knight/サー・ガウェインと緑の騎士(1925)
:14世紀の詩篇の校注本
- Beowulf: The Monsters and the Critics/ ベーオウルフ、怪物と批評(1936):学術論文
- The Hobbit, or there and Back Again/ ホビットの冒険(1937)
- Farmer Gill of Ham/農夫ジャイルズの冒険(1949)
- The Homecoming of Beorhtnoth Beorhthelm's
Son(radio play)(1954)
- The Fellowship of the Ring/指輪物語 第1部「旅の仲間」(1954)
- The Two Towers/指輪物語 第2部「二つの塔」(1954)
- The Return of the King/指輪物語 第3部「王の帰還」(1955)
- The Adventures of Tom Bombardil and Other
Verses from the Red Book(1962)
- Tree and Leaf/ 樹と葉(1964)
- The Tolkien Reader(1966)
- The Road Goes Ever On/道はつづくよ、どこまでも(1967)
- Smith of Wootton Major(1967)
- Bilbo's Last Song(1974)
- Tree and Leaf, Smith of Wootton Major, The
Homecoming of Beorhtnoth Beorhthelm's
Son(1975)
- The Father Christmas Letters/サンタクロースの手紙(1976)
- Bilbo's Last Song(1977)
- Silmarillion/シルマリルの物語(1977)
- Pictures by J.R.R. Tolkien(1979)
- Unfinished Tales of Numenor and Middle-earth(クリストファー・トールキン編)(1980)
- Poems and Stories(1980)
- Mr Bliss/ブリスさん(1982)
- Finn and Hengest(1983)
- The History of Middle-Earth(クリストファー・トールキン編)(1983)
- The Book of Lost Tales 1-2(クリストファー・トールキン編)(1983-84)
- Lays of Beleriand(クリストファー・トールキン編)(1985)
- The Shaping of Middle-Earth(クリストファー・トールキン編)(1986)
- The Lost Road and Other Writings(クリストファー・トールキン編)(1987)
- The Return of the Shadow(クリストファー・トールキン編)(1988)
- The Treason of Isengard(クリストファー・トールキン編)(1989)
- The War of the Ring(クリストファー・トールキン編)(1990)
- Sauron Defeated(クリストファー・トールキン編)(1991)
- Morgoth's Ring: The Later Silmarillion Part
1(クリストファー・トールキン編)(1993)
- The War of the Jewels: The Later Silmarillion
Part 2(クリストファー・トールキン編)(1994)
(参考資料)
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