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エミリ・ブロンテ、アン・ブロンテの作品紹介
以下を紹介しています。シャーロット・ブロンテ作品と、ブロンテ姉妹の関連Webサイトの紹介はこちら。
■ エミリー・ブロンテ
・Wuthering Heights/ 嵐が丘(1847)
(映画)「嵐が丘」5作品
・作品リスト
■ アン・ブロンテ
・Agnes Grey/アグネスグレイ(1847)
・作品リスト
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エミリー・ブロンテ(Emily Bronte)1818−1848
ハワースの牧師館で読書好きの娘時代を送り、架空の国アングリアやゴンダルを舞台にした物語に想像の翼をひろげ、創作に向かう。18歳のときに教師となるが半年でやめる。1842年、姉のシャーロットとともにブリュッセルに半年間遊学。以後はハワースで暮らし、詩や散文の執筆に励む。1846年に妹のアンを含めた三姉妹で詩集『カラー、エリス、アクトン・ベルの詩集』を自費出版した。翌年『嵐が丘』が出版されたが、評判はかんばしくなかった。そうした中で喘息を病み、明くる年の12月19日に30歳で死去。(『英米女性作家』・ミネルヴァ書房 より)
私の魂は臆病な魂ではない、この世のあらしの中で震える魂ではない、/ エミリーの詩" No Coward Soul is Mine"より
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そこはどうもスコットランドの荒野のような、あるいはあの『嵐ヶ丘』のヒースの野のようなところで、潮の香りのする風が左から右へ吹いている。
「ホワイト・ホース」/ 芦原すなお
『嵐が丘』は例外的な作品なのである。同時代の他の小説とは、いささかの関係も持っていない。出来映えはひじょうに悪い。だが、同時にひじょうにすぐれてもいる。醜く忌わしい。だが、同時に美しくもある。恐ろしい、読む人を苦しみ悩ませる、力強い、情熱にみちた書物である。
「世界の十大小説」/ サマセット・モーム |
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1.Wuthering Heights/ 嵐が丘(1847) |
難易度:☆☆☆
エミリー・ブロンテの唯一の小説です。タイトルの"Wuthering
Heights"とは、荒野に近いアーンショー家の屋敷の名前のこと。この屋敷の主人であるアーンショーに拾われ、連れて来られたジプシーの子ヒースクリフは、ヒンドリー、キャサリン兄妹とともに育てられ、特にキャサリンとは兄妹以上に仲が良く、一緒にヒースの荒野を駈け回っていた。しかしアーンショーが死ぬと、ヒンドリーに虐待され、またキャサリンが近くのリントン家の兄妹と親しくなり、兄のエドガーと婚約すると、彼は行き先も告げずに屋敷を出て行ってしまう。
キャサリンが家政婦のネリーに、エドガーから求婚され承諾したことを打ち明けた際に、彼女はヒースクリフを救うためにエドガーと結婚するのだと言い、"
あたしがヒースクリフなの"とヒースクリフへの愛を告白する有名な場面から;
'My love for Linton is like the foliage in the woods. Time will change
it, I'm well aware, as winter changes the tree - my love for Heathcliff
resembles the eternal rocks beneath - a source of little visible delight,
but necessary. Nelly, I am Heathcliff - he's always, always in my mind
- not as a pleasure, any more than I am always a pleasure to myself - but,
as my own being - so, don't talk of our separation again - it is impracticable;
and -'
She paused, and hid her face in the folds of my gown ;
「ネリー、あたしがヒースクリフなの ...... あの人はいつも、いつでもあたしの心の中にいて...... あたしがあたし自身に喜びをもたらすとは限らないように、喜びとしてではなくて.......
あたしそのものとしているの....... 」
3年後に、既にエドガーの妻となっているキャサリンの前に裕福になって姿を現したヒースクリフは、アーンショー、リントン両家の人間に対し復讐を始める。そんな中で、正気を失い死の床にあったキャサリンにヒースクリフが家政婦ネリーの手引きで会い、彼女の裏切りを非難する;
'You loved me - then what right had you to leave me? What right - answer
me - for the poor fancy you felt for Linton? Because misery, and degradation,
and death, and nothing that God or satan could inflict would have parted
us, you, of your own will, did it. I have not broken your heart - you have
broken it - and in breaking it, you have broken mine. (中略) '
'Let me alone. Let me alone,' sobbed Catherine. 'If I've done wrong, I'm
dying for it. It is enough! You left me too; but I won't upbraid you! I
forgive you. Forgive me!'
'It is hard to forgive, and to look at those eyes, and feel those wasted hands,' he answered. 'Kiss me again; and don't let me see your eyes! I forgive what you have done to me. I love my murderer - but yours! How can I?'
They were silent - their faces hid against each other, and washed by each
other's tears.
ここまでが原作の約半分ほどで、映画では前半部のみを映像化したものが多いようです。このあとヒースクリフの復讐劇と、次の世代の人間達の葛藤の物語が展開していきます。
これは、なかなか激しい小説です。姉のシャーロットが書いた『ジェーン・エア』が発表されてからすぐに大ベストセラーになったのに対し、『嵐が丘』については非難あるいは黙殺されたというのもわかるような気がします。エミリーは三人姉妹の中では、最も独立不羈の精神に富んだ女性で、30歳で亡くなったときにも死の直前まで医師にかかるのを拒否していたそうで、彼女自身、キャサリンに近い人間であったのではないかと思われます。牧師であった父と兄妹たちと牧師館に暮らし、後世の研究者にも生前のエミリーに恋愛経験があった痕跡を見つけることが出来ていないくらい隔絶された環境に置かれていたにもかかわらず、このような激しい恋愛を描いたというのは、内に秘めたものの大きさがいかばかりであったかを感じさせます。
(Penguin版 Paperbackを参考にして作成)
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(映画)嵐が丘 5作品比較 |
5作品それぞれに特徴があり面白かったけれど、見終わってまず感じたのは、やはり原作を読んでいると面白さが倍増するということでした。原作のどのエピソードを選択し、削除しているかから窺われる製作者の意図とか、配役・演出・舞台設定により、同じ原作をもとにしていてもこんなにも変るものなのかという驚き、あるいは逆に映画化作品を通して、原作者が意図していたのはあるいはこういうことだったのかという認識をあらたにする経験を加えることができるからだと思います。経験的には、様々な解釈を可能とする作品ほど名作の名に値するのではないかという感じがしています。そういった意味で、これだけの映画化作品を残している『嵐が丘』という小説は、やはりたいしたものだと思います。
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タイトル・監督・配役 |
感想 |
Wuthering Heights(嵐が丘)/ 米・1939年 (白黒) (監)ウィリアム・ワイラー
(演)マール・オベロン、ローレンス・オリヴィエ
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小説前半部の映画化で、ローレンス・オリヴィエのヒースクリフには、原作の悪魔的なところが希薄な感じがする。マール・オベロンのキャサリンは、一見クールだが、なかなかいい雰囲気だと思う。'44年版の『ジェーン・エア』同様のハリウッド的メロドラマといった感じになりかけているけど、映画としてバランスよくまとまっていて、古典的名作の名に恥じない映画だと思う。
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Abismos De Pasion(嵐が丘)
/ メキシコ・1953年(白黒)
(監)ルイス・ブニュエル (演)イラセマ・ディリアン、ホルヘ・ミストラル
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「嵐ヶ丘」と同じく愛と死の物語であるワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』の音楽を背景に、激しい恋のドラマが進行する。メキシコが舞台で、アレハンドロが復讐のため戻って来るところから始まり、原作とは異なり、彼がカタリーナの棺が納められている墓室で彼女の兄に撃たれて死んでしまうところで終わる。カタリーナは、カルメンのように情熱的であり、アレハンドロの野生度は、この映画が一番。「嵐が丘」の"狂気の愛"の世界は、ブニュエルに合っている。
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Hurlevent(嵐が丘)/ 仏・1986
(監)ジャック・リヴェット (演)ファビエンヌ・ベベ、リュカ・ベルヴォー
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舞台を1931年の南仏に設定し、カトリーヌの父が死んだ後から原作の前半部までを映画化したもの。カトリーヌのしなやかな感じがとてもいいけど、ロックのほうは繊細な少年と言った感じで原作のワイルドさが感じられず印象が薄い。
カトリーヌを演じたファビエンヌ・ベベの魅力とリヴェットの演出に注目すべき映画か。
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嵐ヶ丘/ 日本・1988年
(監)吉田喜重 (演)絹:田中裕子、鬼丸太夫:松田優作 (音)武満徹
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舞台を日本の中世に設定し、絹と鬼丸太夫の日本的情念の愛を演出している。吉田喜重のこの人独特の様式美が顕著で、その為に田中裕子、松田優作という俳優の個性なり、うまさが抑えられているのではというもどかしさを感じるけど、これも演出の意図するところなのだろう。武満徹の音楽は主張せず寡黙。ここでの荒野は阿蘇山であるとのこと。
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Wuthering Heights(嵐が丘)/ 英米・1992年
(監)ピーター・コズミンスキー (演)ジュリエット・ビノシュ、レイフ・ファインズ (音)坂本龍一
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エミリー・ブロンテが廃居を訪れ、かつてその場所で、あり得たであろう物語を構想するシーンから始まる。
原作の前・後半部のほぼ忠実な完全映画化作品。荒野を始めとする映像が美しいし、弦楽を中心とした坂本龍一の音楽も映像に即したもので好ましい。
キャサリンと彼女とエドガ―の子供であるキャシーの二役をジュリエット・ビノシュが適格に演じている。レイフ・ファインズのヒースクリフもほどよく原作のイメージに近いので、
原作を映画で済ませようという人には最適。それから映画では、原作のナレーター役の家政婦ネリーがとてもいい味を出している。 |
アン・ブロンテ(Anne Bronte) 1820−1849
三人姉妹の末っ子。1歳の時に母を亡くし、メソジストの叔母に育てられ、兄姉の中では、すぐ上の姉のエミリーに最も親しかった。「アグネス・グレイ」でのアグネス同様、彼女はインガム家(8ヶ月で解雇)とロビンソン家での家庭教師(ガヴァネス)を経験している。'46年にアクトン・ベルの筆名で姉達と「詩集」を出版、'47年に「アグネス・グレイ」を「嵐が丘」と合本で出版したが不成功に終わった。アンはもう一つの作品「The
Tenant of Wildfell Hall/ワイルドフェル・ホールの住人」を出版した1年後、姉エミリーの死の5ヵ月後に、29歳で死去した。
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アンの性格は、エミリーに比べて穏やかでおとなしいものでした。アンはエミリーの持つ力強さ、情熱、独創性を自分にもと願っていましたが、一方では彼女自身の静かな美点に恵まれていました。それらは忍耐力、無私無欲、思慮深さ、そして知性などでした。生来の自制心、寡黙は彼女を目立たなくしていて、また彼女の心を、とくに感情を修道女が被るベールのように覆っていました。そしてそのベールは、ほとんど外されることがなかったのです。
「Biographical Notice of Ellis and
Acton
Bell」/シャーロット・ブロンテ
1. Agnes Grey/アグネス・グレイ(1947) |
難易度:☆☆ 翻訳書
この小説は、姉達の「ジェイン・エア」や「嵐が丘」と同時期に執筆され、出版されています。三人姉妹は、一日の仕事が終わる晩の9時頃から勉強と称し集り、それぞれが書いている小説のストーリーや登場人物について意見交換をしたり、週に1、2度は出来上がった部分を互いに朗読しあったりしていたとのことです。
この作品の主人公のアグネスの家族は牧師の父と母と姉の四人で、貧しい家計を助けようと、18歳のアグネスは住み込み家庭教師(ガヴァネス
governess)になりたいと言って、母や姉を驚かせます。「何を夢みたいなこと言ってるの。自分のことだってちゃんとできないのに!」というわけです。
'I wish I could do something,' said I..
'You, Agnes! well, who knows? You draw pretty well, too: if you choose
some simple piece for your subject, I daresay you will be able to produce
something we shall all be proud to exhibit.'
But I have another scheme in my head, mamma, and have had long, only I
did not like to mention it.'
'Indeed! pray tell us what it is.'
''I should like to be a governess.'
My mother uttered an exclamation of surprise, and laughed. My sister dropped
her work in astonishment, exclaiming, 'You a governess, Agnes! What can
you be dreaming of?'
'Well! I don't see anything so very extraordinary in it. I do not pretend to be able to instruct great girls; but surely I could teach little ones: and I should like it so much: I am so fond of children. Do let me, mamma!'
'But, my love, you have not learned to take care of yourself yet:
and young children require more judgment and experience to manage than
elder ones.'
'But, mamma, I am above eighteen, and quite able to take care of myself,
and others too. You do not know half the wisdom and prudence I possess,
because I have never been tried.'
首尾よくブルームフィールド家のガヴァネスとなり、理想に燃えるアグネスが直面した現実は、彼女にとって厳しいものでした。アグネスは、我がままで粗暴な子供たちと無理解な親たちを相手に奮闘しますが、その甲斐なく解雇されてしまいます。次のマリ家では二人の姉妹を教えることになりますが、ここでも彼女らに翻弄させられる結果となります。そんな中でアグネスは、この地に新たに赴任した牧師補のウェストンと出会い、誠実な彼にひそかな思いを寄せるようになります。
アン自身のガヴァネスとしての長い経験が十全に生かされた作品ですが、教える子供たちや彼らの親たちがアグネスに接する態度からも、ガヴァネスという地位が、階級が厳然と存在していた当時(19世紀半ば)の社会においては、想像以上に低いものであったことがわかります。
家庭教師というのは、中流階級の女子で、自分で生活費を稼ぐ必要に迫られた者たちにとってふさわしいと考えられる、数少ない職業の一つであった。ただし家庭教師は、たしかに「レディ」らしい教養と物腰を持ち合わせた女性と考えられてはいたが、実際は召使と同等にしか扱われていなかった。
「19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう」/ダニエル・プール
同じくガヴァネスを主人公にしたシャーロットの「ジェイン・エア」はベストセラーとなり、一緒に出版されたエミリーの「嵐が丘」はスキャンダラスな問題作として酷評にさらされましたが、それらとは対照的に、当時も今もこの作品は目立たぬ運命に甘んじています。たしかに、アン自身の投影と考えられるアグネスの造形は、ヒロインとしての華やかさに欠けるし、ウェストンとの恋愛模様も慎ましいものですが、誠を通せばきっといつか報われる時が来るというアグネスの生きる姿勢(アンの信条でもあったろう)に爽やかな感動を受けます。
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2.The Tenant of Wildfell Hall/ワイルドフェル・ホールの住人(1848) |
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■アン・ブロンテ 作品リスト |
○ 関連出版リスト : amazon. com.(洋書、翻訳本)
○ 作品
・Poems by Currer, Ellis and Acton Bell/詩集(1846) シャーロット、エミリーとの共著
・Agnes Grey/アグネス・グレイ(1847)
・The Tenant of Wildfell Hall/ワイルドフェル・ホールの住人(1848)
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