1.The Heart of the Matter/事件の核心(1948) |
難易度:☆☆☆
第2次大戦中の英国領西アフリカが舞台。中年の警察副署長でカトリック教徒であるスコービーは、情緒の不安定な妻ルイーズをもてあましながらも、責任感から誠実に接していた。スコービーが高利貸しから借りた金で彼女が南アフリカへの長期旅行に出かけていたときに、彼は船の難破で夫を失った若いヘレンと恋愛関係になる。二人の女性に対し、誠実であろうとするスコービーは次第に罪の意識を強めていく。
ヘレンへの感情が同情から愛情に変化していくあたりの二人の状況の描写 :
She turned suddenly to him and said, 'It's so good to talk to you. I say
anything I like. I'm not afraid of hurting you. You don't want anything
out of me. I'm safe.'
'We're both safe.' The rain surrounded them, falling regularly on the iron
roof. She said suddenly, passionately, 'My God, how good you are.'
'No.'
She said, 'I have a feeling that you'd never let me down.' The words came
to him like a command he would have to obey however difficult. (中略)
She stood pressed against him with her hand on his side. When the sound
of Bagster's feet receded, she raised her mouth and they kissed.
誠実であリ続けるためにカトリック教徒にとって重大な罪である自殺を決意し、教会で神に祈るスコービー :
He said, O God, I am the only guilty one because I've known the answers all the time. I've preferred to give you pain rather than give pain to Helen or my wife because I can't observe your suffering. I can only imagine it. But there are limits to what I can do to you ― or them. I can't desert either of them while I'm alive, but I can die and remove myself from their blood stream. They are ill with me and I can cure them. And you too God ― you are ill with me. I can't go on, month after month, insulting you. I can't face coming up to the altar at Christmas ― your birthday feast ― and taking your body and blood for the sake of a lie. I can't do that. You'll be better off if you lose me once and for all. I know what I'm doing. I'm not pleading for mercy. I am going to damn myself, whatever that means. I've longed for peace and I'm never going to know peace again. But you'll be at peace when I am out of your reach. It will be no use then sweeping the floor to find me or searching for me over the mountains. You'll be able to forget me, God for eternity.
自己犠牲という形での苦悩の解消について、グリーンが問題提起をしているのでは、という感じがしますが、スコービーに感情移入している当方としては、彼の心の平安を祈らざるを得ないといった所でしょうか。
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2.The End of the Affair/情事の終り(1951) |
難易度:☆☆☆
グリーンを思わせる小説家ベンドリックスを語り手とする一人称小説で、第2次大戦末期のロンドンが舞台となっています。
ベンドリックスは彼の小説の取材の為、上級役人であるヘンリー・マイルズと知り合う。取材の過程でベンドリックスはヘンリーの妻サラと不倫の関係に陥るが、密会していた夜にドイツのV-1ロケットによる空襲があり、様子を見るためサラを残して階下へ降りていったベンドリックスは、爆弾により倒れてきた扉の下敷きになって意識を失う。彼が死んだと信じたサラは、「もし彼を生き返らせてくれたら、彼を永遠にあきらめますから」と神に誓う。このあとサラは、誓いを守ってベンドリックスに会うことを避け、彼がこの事実を知ったのは2年後、彼が雇った探偵が盗んできたサラの日記を読んだ時だった。
サラの日記より、彼女が神に祈り、誓いを立てた時のことを回想した個所からの引用; 私は床に跪いた。それまで私は神に祈ったこともなかったし、信じてもいなかった。― 私は信じます。彼を生かしてください。そうすれば信じます。でもそれだけでは充分でない。そこで私は言った。彼を愛しています。もしあなたが彼を生かしてくれるなら、私はどんな事でもいたします。永久に彼をあきらめます。
I knelt down on the floor: I was mad to do such a thing: I never even had
to do it as a child ― my parents never believed in prayer, any more than
I do. (中略)
Make me believe. I shut my eyes tight, and I pressed my nails into the
palms of my hands until I could feel nothing but the pain, and I said,
I will believe. Let him be alive, and I will believe. Give him a chance.
Let him have his happiness. Do this and I'll believe. But that wasn't enough.
It doesn't hurt to believe. So I said, I love him and I'll do anything
if you'll make him alive. I said very slowly, I'll give him up for ever,
only let him be alive with a chance, and I pressed and pressed and I could
feel the skin break, ...(以下略)
小説は、二人の関係が終ったところから始まり、ベンドリックスが彼から突然離れていったサラの内面を徐々に理解していく過程が描かれていて、探偵を使ってつきとめようとしたもう一人の男の存在もあり、サスペンス的な要素も兼ね備えた文学作品で、この辺はさすがグリーンです。
ベンドリックスが見出した最大の恋敵は神であったわけですが、サラを神に向かわせたのが彼自身であったというのも皮肉なところです。彼はサラを奪った神を憎みますが、憎むことによってますます彼の心のなかで神が占める場所が大きくなっていきます。憎むということは、憎悪の対象としての神の存在を認めることではないのか。グリーンはベンドリックスの神への憎悪が、いつか信仰に変わる可能性を示唆しているように思われます。
I hate You, God, I hate You as though You existed.
神よ、私はあなたを憎みます。あなたがまるで存在しているかのように私はあなたを憎みます。
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(映画)The End of the Affair/ことの終り(英・米 '99) |
(監)ニール・ジョーダン (演)レイフ・ファインズ、ジュリアン・ムーア、スティーブン・レイ (音)マイケル・ナイマン
ニール・ジョーダンはカトリック作家による特異な恋愛ドラマである原作の一部を変更していますが、大筋は原作に忠実な映画化と言っていいでしょう。とくに原作に表れているサラの聖性のようなものは、'55年の映画よりこちらのほうが、より強く感じられました。
サラが突然離れていった理由がわからず、第三の男の存在に嫉妬するベンドリックスと、自分の立てた神への誓いとベンドリックスへの愛との間に引き裂かれ、自分を消耗していくサラ。レイフ・ファインズとジュリアン・ムーアの組み合わせは、とてもいいと思います。原作に比べるとだいぶ薄まってはいるものの、こういった形而上的恋愛ドラマには、知的な俳優でないと合わないと思うから。ふたりのラブシーンの描写はなかなかのものですが(R15指定)、愛の官能性が強調される分、サラが自らに課した誓いの重さを感じさせる結果となっているようで、演出上の不自然さを感じることはありませんでした。
音楽を担当したマイケル・ナイマンは、大好きな作曲家ですが、この映画に関しては印象に残りませんでした。ラストに流れていたのは、'50/'60年代に活躍した女性ジャズ/ポップ・シンガーのジョー・スタッフォードの歌う「Haunted
Heart」です。この曲の入っているアルバムは持っていませんが、彼女の代表作「Jo+Jazz」はジャズ・ボーカルの名盤です。
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(映画)The End of the Affair/ 情事の終り(英 '55) |
(監)エドワード・ドミトリク (演)デボラ・カー、ヴァン・ジョンソン、ピーター・クッシング
'99年版に比べると、ストーリー展開はこちらの方が、より原作に近いものとなっています。サスペンス性も強いようです。雨の場面が印象的な作品ですが、雨の情景は白黒画面の方が向いているかもしれません。デボラ・カーとヴァン・ジョンソンの組み合わせですが、デボラ・カーは、地上的な愛と神との間で引き裂かれ、苦悩するサラを演じるには、少々違和感を覚えるほど、天上的な美人でありすぎるかもしれない。でもいいです。ただ、ベントリックスを演じたヴァン・ジョンソンがデボラ・カーの相手役としては、いまいち役者不足なのが惜しいところ。
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(次回紹介予定)The Third Man/第三の男(1950) |
キャロル・リード監督による映画化を前提にして書かれた作品で、1949年に映画化され、1950年に「The Fallen Idol/ 落ちた偶像」と合わせて出版された。第2次大戦後のウィーンを舞台にしたサスペンス・ドラマ。
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■関連Web・主要作品リスト |
○ 関連出版リスト : amazon. com.(洋書、翻訳本)
○ 主要作品リスト
- The Man Within/ 内なる私(1925)
- Stamboul Train/ スタンブール特急(1932)
- It's a Battlefield/ ここは戦場だ(1934)
- The Basement Room/ 地下室(1935)
- England Made Me/ 英国が私をつくった(1935)
- A Gun for Sale/ 拳銃売ります(1936)
- Brighton Rock/ ブライトン・ロック(1938)
- The Confidential Agent/ 密使(1939)
- The Power and Glory/ 権力と栄光(1940)
- The Ministry of Fear/ 恐怖省(1943)
- Nineteen Stories(1947)
- The Heart of the Matter/ 事件の核心(1948)
- The Third Man/ 第三の男(1950)
- The End of the Affair/ 情事の終り(1951)
- The Lost Childhood and Other Essays(1951)
- The Living Room/ 居間(1953) : 戯曲
- Twenty-One Stories(1954)
- Loser Takes All(1955)
- The Quiet American/ 静かなアメリカ人(1955)
- Our Man in Havana/ ハバナの男(1958)
- The Potting Shed/ 植木蜂小屋(1958) : 戯曲
- The Complaisant Lover/ 人のいい恋人(1959) : 戯曲
- A Burnt-Out Case/ 燃えつきた人間(1961)
- In Search of a Character(1961)
- A Sense of Reality(1963)
- Carving a Statue(1964)
- The Comedians(1966)
- May We Borrow Your Husband? (1967)
- Travels with My Aunt(1969)
- A Sort of Life(1971)
- The Honorary Consul(1973)
- Lord Rochester's Monkey(1974)
- The Return of A.J. Raffles(1975)
- The Human Factor(1978)
- Doctor Fischer of Geneva or the Bomb Party(1980)
- Way of Escape(1980)
- J'Accuse(1982)
- Monsignor Quixote(1982)
- Getting to Know the General(1985)
- The Tenth Man/ 第十の男(1985)
- The Captain and the Enemy/ キャプテンと敵(1988)
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