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Mother Goose's Nursery Rhymes
マザー・グース


"マザー・グース"の名の起源はフランス17世紀の作家ペローが1696−1697年に出版した童話集の副題が「がちょうおばさんのお話」となっていて、1729年に英訳されたとき、副題が「マザー・グースの物語」と訳されたのが英語に登場した最初となった。その後、18世紀後半にロンドンの児童ものの出版屋ジョン・ニューベリーが自分の編んだ童謡集を「マザー・グースのメロディ」として出版したのが、英国伝承童謡集の代名詞としての"マザー・グース"の始まりとなった。ニューベリーが集めて出版した童謡集には52篇の童謡が集められていたが、その後の研究により伝承童謡として800篇以上が集成されている。


Old Mother Goose,
When she wanted to wander,
Would ride through the air
On a very fine gander.
(1815年頃の作)

マザー・グースのおっかさん
ぶらぶらでかけるそのときは
がちょうにのってそらをとぶ
とびきりじょうとうのおすがちょう
(訳・谷川俊太郎)

英米では文学作品に限らず、新聞や雑誌にもマザーグース童謡からの引用が多く使われていて、800篇以上あるというこの伝承童謡のなかからポピュラーなものをピックアップしてみたいと思います。以下を紹介中です。クリックでリンクします。
Ten little nigger boys went out to dine;10人のくろんぼの子ども ごはんを食べに行って
Ten little nigger boys went out to dine ;
One choked his little self, and then there were nine.

Nine little nigger boys sat up very late ;
One overslept himself, and then there were eight.

Eight little nigger boys travelling in Devon ;
One said he'd stay there, and then there were seven.

Seven little nigger boys chopping up sticks ;
One chopped himself in half, and then there were six.

Six little nigger boys playing with a hive ;
A bumble-bee stung one, and then there were five.

Five little nigger boys going in for law ;
One got in chancery, and then there were four.

Four little nigger boys going out to sea ;
A red herring swallowed one, and then there were three.

Three little nigger boys walking in the Zoo ;
A big bear hugged one, and then there were two.

Two little nigger boys sitting in the sun ;
One got frizzled up, and then there was one.

One little nigger boy living all alone ;
He got married, and then there were none.
 
10人のくろんぼの子ども ごはんを食べに行って
ひとりがのどを詰まらせて 9人になった。

9人のくろんぼの子ども 夜ふかしで
ひとりが寝坊して 8人になった。

8人のくろんぼの子ども デヴォンを旅して
ひとりが残ると言ったので 7人になった。

7人のくろんぼの子ども まき割りで
ひとりが自分をまっぷたつして 6人になった。

6人のくろんぼの子ども はちの巣で遊んでて
ひとりがまるはなばちに刺されて 5人になった。

5人のくろんぼの子ども 法律の勉強して
ひとりが訴訟にまきこまれて 4人になった。

4人のくろんぼの子ども 海に行って
ひとりが赤いにしんに呑まれて 3人になった。

3人のくろんぼの子ども 動物園に行って
ひとりが大熊に抱きつかれて ふたりになった。

ふたりのくろんぼの子ども ひなたぼっこしていて
ひとりが焦げついてしまって 1人になった。

ひとりのくろんぼの子ども ひとりぼっちで暮していたが
結婚したので だあれもいなくなった。
 
(試訳)
○成立
"nigger boys" と "Indian boys"の版があり、 ほぼ同時期("Indian boys"が1868年、"nigger boys" は,その半年後)に発表された。
○作品のタイトルに使われた例
・「そして誰もいなくなった Ten Little Niggers(Indians)」(1939)/アガサ・クリスティー
クリスティの代表的作品の一つといわれる古典的名作。もともとは "Ten Little Niggers"のタイトルで発表されたが、人種問題を考慮したのか、米国版では"Ten Little Indians"となり、後年出版されたものは英米ともに "And Then There Were None" となっています。 10人の男女が姿を見せない謎の人物により孤島に招待され、童謡の唄の通りひとりづつ殺されていった。それぞれの部屋には、このマザーグースの詩が書かれた羊皮紙の入った額縁が掛かっていた。
Over it, in a gleaming chromium frame, was a big square of parchment - a poem.
She stood in front of the fireplace and read it. It was the old nursery rhyme that she remembered from her childhood days.       

Tinker, Tailor, Soldier, Sailor;鋳かけや、仕立てや、兵隊、水兵
Tinker,
 Tailor,
Soldier,
 Sailor,
Rich man,
 Poor man,
Beggarman,
 Thief.

鋳(い)かけや
 仕立てや
兵隊
 水兵
金持ち
 貧乏人
乞食に
 どろぼう

(試訳)
○成立
"Tinker, Tailor, Soldier, Sailor" の組み合わせは、17世紀にさかのぼる。女の子がなわ跳びやまりつきで、この唄を口ずさみ、結婚相手の職業を占ったりする。(資料ー2)
 
○作品のタイトルに使われた例
・「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ Tinker, Tailor, Soldier, Spy」(1974)/ジョン・ル・カレ 
「寒い国から帰ってきたスパイ」を始めとして、冷戦下の東西陣営のスパイ合戦を描いては第一人者であったジョン・ル・カレが創造した代表的キャラクター英国情報部ジョージ・スマイリーが登場する3部作の最初の作品。スマイリーは、すでに引退していたが、情報部の上層部にいる二重スパイの摘発のために呼び戻された。
・「富めるもの、貧しきもの Rich Man, Poor Man」(1970)/ アーウィン・ショー
アーウィン・ショーは、短編の方が知られていますが、これは彼のベスト・セラー長編小説。読んだような気もするけど覚えていません。TV化もされ、こちらのほうも評判になりました。
・「ベガー、シィーフ Beggar, Thief」(1977)/アーウィン・ショー
同じく アーウィン・ショーの長編。これは「Rich Man, Poor Man」の続編かもしれない。
 
○作品の中で引用された例
・「アニルの亡霊 Anil's Ghost」(2000)/マイケル・オンダーチェ
内戦下のスリランカを舞台にした長編小説。政府軍による殺戮の有無の調査の為、ジュネーブから派遣された女性法医学者アニルとスリランカの考古学者サラスは、発掘された4体の白骨に、マザーグースにちなんで、"Tinker 鋳掛け屋"、"Tailor 仕立て屋"、"Soldier 兵士"、"Sailor 水夫" と名付けます。

In the freshly painted room at the rest house, the four cafeteria tables each held a skeleton. They had labelled the bodies TINKER, TAILOR, SOLDIER, SAILOR.
 

Mistress Mary, quite contrary ;つむじまがりの メアリさん
Mistress Mary, quite contrary
 How does your garden grow?
With silver bells and cockle shells,
 And pretty maids all in a row.
つむじまがりの メアリさん
 おにわのはなは いかがです?
かいがらならべて ぎんのすず
 きれいなねえやも おそろいだ

(訳・谷川俊太郎)
○成立
1744年より古い文献例はない。なにをいわんとしているのか、いっこうにはっきりしない唄だが、たいへん親しまれている。(資料ー2)

○作品の中で引用された例
・「秘密の花園 The Secret Garden」(1909)/バーネット 
両親を亡くしたメアリーが最初にひきとられた牧師の家の子どもが、彼女に「つむじまがりの メアリさん」というあだ名をつけ、彼女の周りで踊りながらしかめ面をして歌い、笑った。 He danced round and round her and made faces and sang and laughed.

"Mistress Mary, quite contrary,
How does your garden grow?
With silver bells, and cockle shells,
And marigolds all in a row."

He sang it until the other children heard and laughed, too; and the crosser Mary got, the more they sang "Mistress Mary, quite contrary"; and after that as long as she stayed with them they called her "Mistress Mary Quite Contrary" when they spoke of her to each other, and often when they spoke to her.
ここでは、"pretty maids きれいなねえや"が、"marigolds マリゴールド(きんせんか)"となっています。「秘密の花園」の映画(米・1993年)の中でも歌われていました

Monday's child is fair of face ;月曜日生まれの子どもは器量がいい
Monday's child is fair of face,
Tuesday's child is full of grace,
Wednesday's child is full of woe,
Thursday's child has far to go,
Friday's child is loving and giving,
Saturday's child works hard for a living,
And the child that is born on the Sabbath day
Is bonny and blithe, and good and gay.

  
月曜日生まれのこどもは器量がいい
火曜日生まれのこどもは品がいい
水曜日生まれのこどもはべそっかき
木曜日生まれのこどもは遠くへ行き
金曜日生まれのこどもは愛情豊かで
土曜日生まれのこどもは働き者で
お休みの日に生まれたこどもはね
可愛くて、明るくて、気立てがいいんだよ

(試訳)
○成立
この唄の文献初出は1838年だが、日曜日に生まれた子を特別視するならわしは中世に遡る。(資料ー2)

○作品のタイトルに使われた例
イングマール・ベルイマンが自分の子ども時代を振り返り、脚本を書いたスウェーデン映画『日曜日のピュ』(英語タイトル:Sunday's children)の中では、日曜日生まれのこどもには、幽霊や妖精を見ることができる特別の能力が授かっているということでした。北欧にもマザーグースのような伝承童謡集があるのだろうか。


There was a little woman ;小さなおばさんがいたんだよ
There was a little woman,
 As I have heard tell,
She went to market
 Her eggs for to sell;
She went to market
 All on a market day,
And she fell asleep
 On the king's highway.

There came by a pedlar,
 His name was Stout,
He cut her petticoats
 All round about;
He cut her petticoats
 Up to her knees;
Which made the little woman
 To shiver and sneeze.
 
When this little woman
 Began to awake,
She began to shiver,
 And she began to shake;
She began to shake,
 And she began to cry,
Lawk a mercy on me,
 This is none of I!
  
(以下略)
小さなおばさんがいたんだよ
 聞いた話だけど
おばさんは市場に行ったんだ
 玉子を売りにね
市場に行ったんだ
 市の立つ日にね
おばさんは、眠りこんでしまった
 天下の公道で

そこに物売りが通りかかった
 "太っちょ"という名前だった
"太っちょ"は、おばさんのスカートを切り取っちゃった
 すその周りをすっかりね
スカートを切り取っちゃった
 ひざのところまでね
それで、小さなおばさん
 ぶるっとふるえて、くしゃみをした

小さなおばさんが
 目をさましかけて
ぶるぶるとふるえ始め
 がたがたとふるえ始めた
おばさん、がたがたとふるえ始めて
 ついには泣き出した
こりゃまあ大変だ
 私が私でなくなった!

(試訳)
○成立
スカートを短く切り取られて、自分が自分でないような気になってしまったおばさんですが、このあと家に帰って、自分を認めてもらえると思っていた飼い犬にも吠えられて、またまた泣き出してしまいます。
文献初出は1775年頃(資料ー2)

○作品の中で引用された例
Back When We were Grownups(2001)/ アン・タイラー
昔の恋人に、およそ30年ぶりに会いに行くことになった主人公の中年の女性レベッカが、自分が娘時代に着たドレスを取り出して感慨にふける場面;
"Would you believe it?" she asked Peter.
"I actually used to go out in public in this! It reminds me of that Mother Goose rhyme where the old woman wakes from a nap and discovers her skirts were cut off."
(Peter :12歳、レベッカの義理の孫)

London Bridge is falling down ;ロンドン橋が落ちる
London Bridge is falling down,
 Falling down, falling down.
London Bridge is falling down,
 My fair lady.

Build it up with wood and clay,
 Wood and clay, wood and clay,
Build it up with wood and clay,
 My fair lady.

Wood and clay will wash away,
 Wash away, wash away,
Wood and clay will wash away,
 My fair lady.

Build it up with bricks and mortar,
 Bricks and mortar, bricks and mortar,
Build it up with bricks and mortar,
 My fair lady.

Bricks and mortar will not stay,
 Will not stay, will not stay,
Bricks and mortar will not stay,
 My fair lady.

Build it up with iron and steel,
 Iron and steel, iron and steel,
Build it up with iron and steel,
 My fair lady.

Iron and steel will bend and bow,
 Bend and bow, bend and bow,
Iron and steel will bend and bow,
 My fair lady.

Build it up with silver and gold,
 Silver and gold, silver and gold,
Build it up with silver and gold,
 My fair lady.

Silver and gold will be stolen away,
 Stolen away, stolen away,
Silver and gold will be stolen away,
 My fair lady.

Set a man to watch all night,
 Watch all night, watch all night,
Set a man to watch all night,
 My fair lady.

Suppose the man should fall asleep,
 Fall asleep, fall asleep,
Suppose the man should fall asleep,
 My fair lady.

Give him a pipe to smoke all night,
 Smoke all night, smoke all night,
Give him a pipe to smoke all night,
 My fair lady.

ロンドン橋が落ちる、
 落ちる、落ちる
ロンドン橋が落ちる、
 マイ・フェア・レイディ

木とねんどで作ろうよ、
 作ろうよ、作ろうよ
木とねんどで作ろうよ、
 マイ・フェア・レイディ

木とねんどは流される、
 流される、流される
木とねんどは流される、
 マイ・フェア・レイディ

れんがとしっくいで作ろうよ、
 作ろうよ、作ろうよ
れんがとしっくいで作ろうよ、
 マイ・フェア・レイディ

れんがとしっくいはくずれるよ、
くずれるよ、くずれるよ
れんがとしっくいはくずれるよ、
 マイ・フェア・レイディ

鉄とはがねで作ろうよ、
 作ろうよ、作ろうよ
鉄とはがねで作ろうよ、
 マイ・フェア・レイディ

鉄とはがねは曲がっちゃう
 曲がっちゃう、曲がっちゃう
鉄とはがねは曲がっちゃう
 マイ・フェア・レイディ

金と銀とで作ろうよ、
 作ろうよ、作ろうよ
金と銀とで作ろうよ、
 マイ・フェア・レイディ

金と銀では盗られちゃう、
 盗られちゃう、盗られちゃう
金と銀では盗られちゃう、
 マイ・フェア・レイディ

寝ずの見張りを立てようよ、
 立てようよ、立てようよ
寝ずの見張りを立てようよ、
 マイ・フェア・レイディ

もしも見張りが眠ったら、
 眠ったら、眠ったら
もしも見張りが眠ったら、
 マイ・フェア・レイディ

夜じゅうパイプを吸わせよう
 吸わせよう、吸わせよう
夜じゅうパイプを吸わせよう
 マイ・フェア・レイディ

(試訳)

○成立
マザーグースの中でも最も有名な歌の一つ。"falling down"は、もとは"broken down"となっていた。文献初出は1725年だが、類歌はヨーロッパ各地にあり、もと歌は文献に現れるはるか以前からあったと考えられている。"My fair lady 私の美しい人"が誰を指すのか不明(資料-3)。

○作品の中で引用された例
・「天国の豚 Pigs in Heaven」/Barbara Kingsolver
タートルが転落事故を目撃していた為に救われた知的障害を持つ男ラッキーを、テイラーが車に乗せて、町で食堂を開いている母親のところに届けた際、店にいた客が「途中のハバス湖には、実際のロンドン・ブリッジを買って持って来たのがあるんだけど見たかい」と、テイラーに聞き、彼女が「見なかったけど、ほんとなの?」と話すのを脇で聞いていたラッキーが、ロンドン橋の一節を歌う場面。
"We didn't stop this morning to look at the bridge," Taylor says. "I've heard about it, though. Some guy really did buy it and bring it over here?"
Lucky quietly sings, "London bridges falling down."


(次回紹介)Humpty Dumpty
「鏡の中のアリス」にも登場する頭でっかちのハンプティー・ダンプティー


参考資料
マザーグース(Wikipedia)
Mother Goose(Wikipedia 英語)

・英米童謡集(岩波文庫)/ 河野一郎 編訳
160篇あまりのマザーグースを中心とする童謡を対訳で収録

・マザーグース 1〜4(講談社文庫)/谷川俊太郎・訳 和田誠・絵
全4巻で336篇の唄(訳と原文)を収録。23曲の楽譜もあります(第4巻)

・マザー・グースの唄(中公新書)/平野敬一
マザーグース成立と代表的作品のていねいな解説が収録されています。
 
○マザーグース関連出版: 和書 洋書 CD DVD
 

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