難易度:☆☆
翻訳書
1960年代の中央アフリカの新興独立国家を舞台にした小説です。語り手のサリムは、まだ若いインド系のイスラム教徒で、彼の一族は代々アフリカの東海岸の町で暮していました。サリムはアフリカ中央部の大きな河の湾曲部(bend
in the river)に位置する町にある、知り合いのナズルディンが所有する店を安く買い、そこで雑貨小売の商店を開く決意をし、東海岸から車で1週間以上かけて苦労してやって来ますが、町の半分は破壊されほとんど廃墟となりかけていました。他のアフリカ諸国同様、独立後のこの国も難問を抱え、なにもかもゼロからスタートしなければならないだろうとナズルディンは言っていたのでした。
Nazruddin, who had sold me the the shop cheap, didn't think I would have
it easy when I took over. The country, like others in Africa, had had its
troubles after independence. The town in the interior, at the bend in the
great river, had almost ceased to exist; and Nazruddin said I would have
to start from the beginning.
町は植民地からの独立後、地域の貿易センターとなるまでに発展し、サリムの商売も順風に思われたのですが、新政権下では生粋のアフリカ人でない彼は"外国人"という範疇に入れられ、店を没収されてしまいます。
作者のナイポールは語り手のサリムをアフリカ人でもなく、ましてやヨーロッパ人でもないというアウトサイダー的な立場に設定し、客観的にこの国の状況を捉えることが可能な視点をもたせ、ヨーロッパの植民地支配からの自主独立を勝ち取るものの、その栄光もつかの間、無知と貧困と内戦の混沌の中で崩壊へと陥っていく国家を内側から描くことに成功しています。
この作品から読み取るかぎりにおいて、ナイポールのアフリカ国家観は極めて悲観的なものですが、国家体制の大きな変革の中で翻弄されながらも、そこで日々暮らし生きる人々、大統領(The
Big Man)のアドバイザーでエリート達のために作られた特権区域(The
New Domain)に住む白人レイモンド、彼の若くて美しい妻でサリムと関係を持つようになるイヴェット、サリムの常連客の息子で新たな体制の中でエリートを目指すフェルディナンド、代々サリムの一族の奴隷として仕え、サリムの召使いとして働く若いメティなどに対するまなざしが、まだしも暖かいことが救いでした。
窮地に追い込まれ逮捕されたサリムに対し、役人となったフェルディナンドは、誰にも告げず何も持たずに町を出るように言い、彼自身が抱く絶望の思いをサリムに語ります。
'We're all going to hell, and every man knows this in his bones. We're being killed. Nothing has any meaning. That is why everyone is so frantic. Everyone wants to make his money and run away. But where? That is what is driving people mad. They feel they're losing the place they can run back to. I began to feel the same thing when I was a cadet in the capital. I felt I had been used. I felt I had given myself an education for nothing. I felt I had been fooled. Everything that was given to me was given to me to destroy me. I began to think I wanted to be a child again, to forget books and everything connected with books. The bush runs itself. But there is no place to go to.'
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