その他の作家の作品紹介
「本を読むのって面白いかね?」と羊男は訊ねた。
「うん」と僕は簡単に答えた。
「羊をめぐる冒険」/村上春樹
以下の作品を紹介しています。クリックでリンクします。
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1.Don't Sweat the Small Stuff...小さなことにくよくよするな(1997)/Richard Carlson |
難易度:☆☆
こういった自己啓発・日常心理学ものは大好きで、古くはハマートンの「知的生活」、アランの「幸福論」、デール・カーネギーの「道は開ける」からダウアー、日本では渡部昇一、国分康孝さんなど愛読していますが、大きく分けて次の2つのタイプに分類できると思います。 1)読後「よし、明日からがんばるぞ」という気にさせる本と、2)読後、肩の荷が少し軽くなった気がして安眠できる本。 もちろん、この本は2)のカテゴリーに入ります。100のstrategyが述べられていて、目次を読めば中身を読まなくても内容がほぼわかるので、読みたい部分を選んで寝る前に読むのがいいんではないでしょうか。 Introductionからの引用です。
When you "don't sweat the small stuff," your life won't be perfect,
but you will learn to accept what life has to offer with far less resistance.
As we learn in the Zen philosophy, when you learn to "let go"
of problem instead of resisting with all your might, your life will begin
to flow. You will, as the serenity prayer suggests, "Change the things
that can be changed, accept those that cannot, and have the wisdom to know
the difference." I'm confident that if you give these strategies
a try, you will learn the two rules of harmony. #1)Don't sweat the small
stuff, and #2)It's all small stuff. As you incorporate these ideas into
your life you will begin to create a more peaceful and loving you.
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2.Snow Falling On Cedars ヒマラヤ杉に降る雪(1995)/David Guterson デイヴィッド・グターソン |
難易度:☆☆☆
'95年度のペン/フォクナー賞を受賞した作品とのこと。小説の舞台は、第2次大戦後の1954年アメリカ、ワシントン州北西部にあるサン・ピエドロという町で日本人2世の宮本カブオが同業の漁師を殺害したとして起訴されている法廷場面の進行を中心にして、彼を取り巻く人間模様が描かれています。登場人物たちの回想として、アメリカの市民権を持ちながらも収容所に送られてしまった日系人たちの状況とか日本軍との戦闘、それから現在はカブオの妻であるハツエ(映画では工藤夕貴さんが演じています)と、今は地元紙を発行しているイシュマエル(彼は日本軍との戦闘で片腕を失った)との初恋の描写など印象的なエピソードが効果的に挿入されています。ハツエを描写した場面から。
She was a woman of thirty-one and still graceful. She had the flat-footed
gait of barefoot peasant, a narrow waist, small breasts. She very often
wore men's khaki pants, gray cotton sweatshirts, and sandals. It was her
habit in the summer to work at picking strawberries in order to bring home
extra money. Her hands were stained in the picking season with berry juice.
In the fields she wore a straw hat low on her head, a thing she had not
done consistently in her youth, so that now around her eyes there were
squint lines. Hatsue was a tall woman - five foot eight - but nevertheless
able to squat low between the berry rows for quite some time without pain.
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3.he Green Mile グリーン・マイル(1996)/Stephen King スティーヴン・キング |
難易度:☆☆☆
本書は刑務所の死刑囚棟の看守長であった男の回想という形をとっていて、彼が現在回想記を書いている老人ホームとまだ現役であった1932年の刑務所とを交互に描写しています。グリーンマイルとは、電気椅子の置かれた死刑執行の部屋まで続く廊下のこと。1932年は少女殺害の罪で死刑を宣告されたコーフィーが入所していた年で、彼に関するエピソードを中心に、看守と死刑囚たちとの交流・葛藤が描かれています。中では天才ねずみMr.Jingle(上に紹介したTimbuktuといい、むこうではペットにMr.をつけるのが割と普通なのでしょうか)に関するエピソードが楽しい。彼(?)が死刑囚
Delacroixの独房に現れた場面から。
He was in Delacroix's cell. More: he was sitting on Delacroix's shoulder
and looking calmly out through the bars at us with his little oildrop eyes.
His tail was curled around his paws, and he looked completely at peace.
As for the same man who'd sat cringing and shuddering at the foot of his
bunk not a week before. He looked like my daughter used to on Christmas
morning, when she came down the stairs and saw the presents. "Watch
dis!" Delacroix said. The mouse was sitting on his right shoulder.
Delacroix stretched out his left arm. The mouse scampered up to the top
of Delacrix's head, using the man's hair(which was thick enough in back,
at least) to climb up. Then he scampered down the other side, Delacroix
giggling at his tail tickled the side of his neck. The mouse ran all the
way down his arm to his wrist, then turned, curled his tail around his
feet again.
後半からの盛り上がりはたいしたもので、一気に最後まで読ませてしまうのはさすがキングという感じです。
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4.Girl with a Pearl Earring 真珠の耳飾の少女(1999)/Tracy Chevalier トレイシー シュヴァリエ |
難易度:☆☆
この本の表紙のフェルメールが描いた少女の物語という事で、舞台は17世紀のオランダということになります。17歳の少女グリエットはタイル絵職人の娘で、父親が事故で失明したため、家計を助けるためにフェルメール家に住み込みメイドとして働くことになります。彼女は父親から受け継いだと思われる美的な感受性に恵まれ、この点でフェルメールに感心されたということもあり、顔料の調合などもまかされ、そしてこの絵のモデルになります。フェルメールが少女を描き始める場面から:
He got another of the lion-head chairs and set it close to his easel but
sideways so it faced the window. 'Sit here.'
'What do you want, sir?' I asked,
sitting.
I was puzzled- we never sat together.
I shivered,
although I was not cold.
'Don't talk.' He opened a shutter so that the light fell directly on my
face. 'Look out the window.' He sat down in his chair by the easel.
I gazed at the New Church tower and swallowed. I could feel my jaw tightening and my eyes widening.
'Now look at me.'
I turned my head and looked at him over my left shoulder. His eyes locked
with mine. I could think of nothing except how their grey was like the
inside of an oyster shell.
He seemed to be waiting for something. My face began to strain with the fear that I was not giving him what he wanted.
'Griet,' he said softly. It was all he had to say. My eyes filled with
tears I didi not shed. I knew now.
'Yes. Don't move.'
He was going to paint me.
フェルメール自身はストーリーの前面には、ほとんど出てこないのが、物足りないところであり、小説としての面白さの点でもいまいちという感じがしますが、少女の生活を通してこの時代の庶民の生活ぶりがよく描かれていると思います。この時代には階級というものが歴然と存在していたことがわかるし、寡作家フェルメールとパトロンとの関係とか、彼が11人(!)もの子持ちで、生活に困窮していたこと(事実らしい)などが印象的です。
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5.Instruments of Night 夜の記憶(1998)/Thomas H. Cook トマス・H. クック |
難易度:☆☆
グレイブズはミステリー作家で、刑事スロヴァクと凶悪犯ケスラーとの闘争を描くシリーズものを発表していた。彼は両親の交通事故死の後、姉と二人で暮らしていたが彼が12歳の時に、彼女が彼の目の前で侵入者に殺害されるという痛ましい過去があり、40代となった現在でもトラウマとなって彼の人生に暗い影を落としていた。そんな時、富豪の女性農園主より50年前に彼女の親友フェイが殺害された未解決の事件について、刑事スロヴァクの視点で再捜査して欲しいとの依頼があった。その目的は高齢となったフェイの母親に対し、納得のいくストーリー(真実である必要はないと言う)を与えて安心させてあげたいとのことだった。
"Mrs.Harrison is quite
old now, as
you might imagine, Mr. Graves.
And I don't
want her to die still wondering
what happened
to her daughter. It's all I can
do for her
now. To give her the peace she
needs. And
only an answer can do that. A
solution to
Faye's murder." She looked
at him piercingly.
" It would be cruel for
her to die without
that, don't you think?" (中略)
"I know you're not a detective,
Mr.
Graves. At least, not a real
one. But it's
not a real detective I need.
Just the opposite,
in fact. I need someone who can
go beyond
the facts of the case. I need
someone who
can imagine what happened to
Faye, and why."
グレイブズは、殺害されたフェイと彼の姉とを重ね合わせ、結局この依頼を引き受けることになり、彼同様痛ましい記憶を持つ女性エレノアと共に事件を振り返ることになる。その過程で浮かび上がる事件の意外な真相と、合間にインポーズされるグレイブズの姉が殺害された時の記憶、彼の心理状態を映し出している執筆中の小説のプロットの進行が描かれています。とても哀しい物語だけれど、最後に希望の光が垣間見えるといった風で、読後感は良かったです。
クックの作品では、この作品を含め、暗い過去の心の傷を扱ったテーマが顕著ですが、透徹した内面描写と叙情的な文体により、個人的にとても魅力のある作家です。2000年版「このミステリーがすごい!」第3位の「夏草の記憶/
Breakheart Hill」、'99年版第2位の「緋色の記憶/
The Chatham School Affair」(1996)に続き、3年連続ベスト・スリー入りするのでは(翻訳されていればだけど)。この作品の後の最新作「Places
in the Dark」は今年5月にハードカバーが出版されるとのこと。題名からして暗そうで楽しみですね。
('00 Sep.)
(追記)
「このミステリーがすごい2001年度版」では、この作品は第7位にランクされました。
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6.The Reader 朗読者(1997)/Bernhard Schlink ベルンハルト シュリンク |
難易度:☆☆ (原独語) 映画化作品「愛を読むひと」
世界27ヶ国で翻訳出版され、アメリカでは200万部以上のベストセラーとなったとのこと。第二次大戦後のドイツが舞台で、15歳の少年ミヒャエルは、21歳年上の女性ハンナと出会い、恋に落ちる。しかし、彼女はミヒャエルの前から突然姿を消してしまう。そして、次に彼が彼女を見出すのは、ナチス協力者を裁く法廷であった。
この本は、ミヒャエルがハンナと出会ってから30年以上経ってから当時の回想という形で書かれています。ハンナが彼女の秘密のために支払わなければならなかった代償の大きさ、理想の女性に思春期に出会ってしまったミヒャエルの幸福と苦悩を中心の描かれていますが、一番感動的なのは20年近くにも及ぶミヒャエルからの朗読テープとハンナからの手紙による彼らの関係のあり方なのではと思います。彼がハンナに対する朗読者となるきっかけとなる場面から :
The day after our conversation, Hanna wanted to know what I was lerning
in school. I told her about Homer, Cicero, and Hemingway's story about
the old man and his battle with the fish and the sea. She wanted to hear
what Greek and Latin sounded like, and I read to her from the Odyssey and
the speeches against Cataline.
'Are you also learning German?'
'How do you mean?'
'Do you only learn foreign languages,
or
is there still stuff you have
to learn in
your own?'
'We read texts.' (中略)
'So read it to me!'
'Read it yourself. I'll bring
it for you.'
'You have such a nice voice,
kid, I'd rather
listen to you than read it myself.'
著者は1944年生まれのドイツ人で、ベルリン大学の法学教授であり、何冊かのミステリーも書いているとの事。
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7.The Piano Tuner 調律師の恋(2002)/Daniel Mason ダニエル・メイスン |
難易度:☆☆
ピアニストで文筆家の青柳いづみこさんが新聞の書評で、主人公のピアノ調律師ドレークが、ビルマ(現在のミャンマー)のシャン地方の藩候の前で、バッハの平均律から嬰ハ短調のフーガを弾く場面が圧巻であると書いていたのを読んで、これは絶対読まねばと思っていました。なぜなら嬰ハ短調のフーガは平均律の中でも一、二に好きな曲だから。
平均律第T巻第4番の嬰ハ短調の前奏曲を弾き終え、フーガを演奏するドレークの描写から ;
The piece began low, in the bass strings, and as it increased in complexity,
soprano voices entered, and Edgar felt his whole body move toward the right
and remain there, a journey across the keyboard, I am like the puppets
moving on their stage in Mandalay.
やはり僕には難しそうな曲のようです。このときドレークは、この第4番から弾き始め、第24番までを2時間余りをかけて弾いています。「自分は調律師であってピアニストではない」と何度か言っているけど、どうしてどうしてなかなかのものです。
さらにうれしかったのは、彼が恋したビルマの女性キンミョーに第U巻の第14番の嬰ヘ短調のフーガを弾いてあげる場面があることで、このフーガも嬰ハ短調のものとならんで好きな曲です。このとき、演奏するドレークの手の上にはキンミョーの手がそっと置かれていたのでした(熱いね)。やはり並々ならぬ技量の持ち主です。
The piece began slowly, tentatively. The Fugue in F-sharp Minor from
Book2 of The Well-Tempered Clavier always reminded him of an opening of
flowers, a meeting of lovers, a song of beginnings. (中略)
So at first his hands moved slowly, uncertain,
but with the soft weight of her fingers,
he moved through each measure steadily, and
within the piano, actions glided up with
the touch of the keys, leaping and falling
back from the jacks, leaving strings trembling,
rows and rows of tiny intricate pieces of
metal and wood and sound. (中略)
The music rose faster, then dipped sweetly, softer, and then it ended.
Their hands rested together on the piano. She turned her head slightly, her eyes closed. She said his name, her voice composed only of breath.
ドレークのキンミョーに寄せるせつない恋が描かれてはいるものの、この小説は恋愛がメインではありません。
1886年、ドレークは四十代のシャイなピアノ調律師で、愛妻キャサリンとロンドンに住み、フランスのピアノ、エラールの調律を任されていました。ある日ドレークは軍より呼ばれ、イギリス占領下のビルマに1840年製エラールの調律に向かうことになります。依頼主は軍医のキャロルで、彼は赴任先のビルマの奥地メールィンで現地民に対して大きな影響力をもつ神話的な人物で、軍も彼の要求を拒めなかったのでした(もともとエラールをイギリスから遠路運ばせたのも彼だった)。
ドレークはなかなかピアノにたどり着けませんが(160ページ位かかる)、ビルマの文化、自然、音楽に魅了され(もちろんキンミョーにも)、エラールの調律が終わってもメールィンから離れ難くなります。彼は、自分の中で何かが少しづつ変わり、時間の経過の感覚を失っていくようだとキャサリンへの手紙に書いています。
美しい自然があって、美しい女性がいて、美しい音を奏でるピアノがあって、バッハがあって、悠久の時間があったなら僕だって帰らない。
作者のダニエル・メイスンはカルフォルニア大学の医学部在学中、26歳のときにこの小説を書いたそうで、またそれ以前に彼はハーバード大学で生物学を学び、タイとミャンマーの国境地帯で1年ほどマラリア研究の為に滞在したこともあるとのこと。たしかにドレークがマラリアに罹ったときの描写など、迫真性がありました。
(参考)平均律クラヴィア曲集第T巻・U巻/バッハ
ピアノの旧約聖書と呼ばれ、すべての長調、短調による各24曲、計48曲からなり、それぞれの曲は前奏曲とフーガから構成されています。個人的にはリヒテルの演奏するアルバムを偏愛しています。アファナシェフ、フィッシャー、シフ、グールドなどの演奏もそれぞれ独自の魅力があります。
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