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Bud Powell(p)(1924−1966)
バド・パウエル


父もピアニストで、6歳の頃からピアノを習いはじめ、13歳のなってジャズに興味を持つようになった。'47年にトリオを結成し、モダン・ジャズとしてのピアノ・トリオのスタイルを確立した。'45年より精神的な障害により入退院を繰り返したが、'51年くらいまでが音楽的な絶頂期だった。'59年にパリに移住し、クラブ『ブルーノート』を拠点にヨーロッパ各地で演奏活動を行なった。'64年にニューヨークに戻ったが、わずかな活動をしただけで、肺結核と栄養失調で亡くなった。

 
なるべく音の大きそうなジャズ喫茶に入ってオーネット・コールマンだのバド・パウエルだののレコードを聴きながら熱くて濃くてまずいコーヒーを飲み、買ったばかりの本を読んだ。
「ノルウェイの森」/ 村上春樹


1.The Scene Changes/ザ・シーン・チェンジズ(1958)
Bud Powell(p), Paul Chambers(b), Art Taylor(ds) 
 
 冒頭の『クレオパトラの夢』は、僕がジャズを聴き始めた時に、最初に魅了された曲で、ラジオのジャズ番組を録音したテープ(当時はオープン・リール)を繰り返し聴いたものでした。ということで、個人的には、すごく思い入れのあるアルバムです。しかし、この曲だけのアルバムかというとそんなことはなくて、全曲パウエルのオリジナルですが、日本人好みのマイナー調で、かつメロディアスな曲が多く、パウエルのアルバムの中では一番人気のある盤ではないかと思います。パリに行く少し前の録音で、既に絶頂期は過ぎているけど、くつろいで聴くのにはこのあたりが適当なのではないかな。アルバム・ジャケットの後に写っている男の子は彼の息子らしい。


2.Jazz Giant/ジャズ・ジャイアント(1949, 1950)
Bud Powell(p), Ray Brown/ Curly Russell(b), Max Roach(ds)

 天才パウエルの真価を記録した何枚かのアルバムの中では、いちばん好きなものです。"天才と****は紙一重"という言葉があって、パウエルは、まさに両者の間を行ったり来たりしていたわけで、この時期のパウエルの演奏には、そんな彼の意識の深淵を垣間見るような鬼気迫るものがあって、聴き手にも緊張感を強いるところがあるけど、そんな中では、ここに収められた演奏は比較的親しみやすいのではと思います。こういう演奏を聴くと、俗にパウエル派と呼ばれる多くのピアニストのアルバムは、オブラートに包んだようなものだという感じがしてきます(どちらがいい悪いという次元の話ではないんですが)。冒頭の『Tempus Fugue-it』や『Sweet Georgia Brown』もすごい迫力だけど、僕は情感に満ちた『I'll Keep Loving You』や『Yesterdays』などのバラード演奏のほうが好きだ。
パウエル絶頂期の演奏を記録したアルバムとしては、他に以下があります。
 「The Amazing Bud Powell Vol.1」(1949, 1951) 

ファッツ・ナバロ(tp)、ソニー・ロリンズ(ts)を加えたクインテットとトリオによる演奏で、とりわけ有名なのは(悪名高い?)、トリオによる『Un poco loco』の3テイクです。中では、トリオによる『You Go to My Head』が好き。
The Genius of Bud Powell」(1950, 1951) 

緊迫感に満ちたピアノ・ソロによる演奏が大半を占めるアルバムで、トリオによる超特急の『Tea for Two』(速すぎてメロディがわからない)、ソロによるオリジナル曲『Parisian Thoroughfare』やスタンダード曲『A Nightingale Sang in Berkeley Square』が印象的。
「バド・パウエルの芸術」(1947, 1953) 

'47年、'53年のセッション共、トリオによる演奏で、特に'47年のセッションは、パウエル22歳のときの初リーダー録音で、これが生涯最高の演奏となってしまったところがパウエルの悲劇なのだろう。6年後の'53年の演奏は、比較するとやはり生気に乏しいのは否めない。ただ、『You'd be so Nice to Come Home to』における斬新な解釈は、とても面白い。


3.Jazz at Massey Hall/ジャズ・アット・マッセイ・ホール(1953)
Dizzy Gillespie(tp), Charlie Parker(as), Bud Powell(p), Charlie Mingus(b), Max Roach(ds)

 このアルバムもジャズに関心を持ち始めた頃に、何曲かをラジオ番組から録音して繰り返し聴いたので、愛着があります。もっとも当時はピアノにはあまり関心がなかったので、パウエルの印象は薄かったけど。チャーリー・パーカー(as)、ディジー・ガレスピー(tp)、チャーリー・ミンガス(b)、マックス・ローチ(ds)にパウエル(p)という、これ以上は望めないというスター・プレイヤー達によるカナダのトロントでのライブ録音で、歴史的名盤の誉れが高いけど、必ずしも名演とはなっていないところが、ジャズに限らず音楽の微妙なところなんでしょう。パーカーにしても、パウエルにしてもあまりコンディションが良くないみたいで、好調時の生気が感じられない。とはいえライブということもあって、「Salt Peanuts」や「A Night in Tunisia」などの演奏を通じて、この時代の雰囲気に触れることが出来るのは貴重だと思います。


4.Bud Powell in Paris/バド・パウエル・イン・パリ(1963)
Bud Powell(p), Gilbert Rovere(b), Kansas Fields(ds)

1959年から1964年までのパウエル晩年のパリ滞在時代の代表作。ここでの演奏を聴いていると、やはり聴く人に感動を与えるのは、テクニックや迫力だけではない"何か"なんだなという実感を持たざるを得ません。この"何か"というのは"人生経験による滋味とか風格"みたいな分析不可能なものかも知れない。冒頭のスタンダード曲『How High the Moon』から好調ですが、聴きものは『懐かしのストックホルム/ Dear Old Stockholm』でしょう。原曲は古いスウェーデン民謡らしいけど、哀愁を帯びた曲調がパウエルの心境を象徴しているようで切ない。続くバラード『Body and Soul』も名演だと思います。
パリ時代には他に以下のようなアルバムがあります。
「At the Golden Circle Vol.2」(1962) 

ライブ録音ですが、音質がとても良くて臨場感があります。1曲目のパウエルのソロによるイントロで始まるスタンダード「Like Someone in Love」を筆頭に、自然体で弾いているようで皆とても良い。天才パウエルよりも、ここで聴かれるような、よりヒューマンなパウエルのほうが好きです。近年のパウエルの愛聴盤となっています。
「Our Man in Paris」(1963)

映画「ラウンド・ミッドナイト」で主演したテナー奏者デクスター・ゴードンのリーダー・アルバムで、旧友バド・パウエル(p)やケニー・クラーク(ds)らとパリで録音したもので、この映画がバド・パウエルをモデルにしていることを考えると、面白い因縁と言うほかない。ここでのデクスターは彼の魅力である豪快なテナー・プレイを存分に発揮していて、パウエル・トリオとのバランスも良く、彼の代表作として文句のないアルバムです。


参考Webサイト



(映画)ラウンド・ミッドナイト/ 'Round Midnight(1986)
(監)Bertrand Tavernier, (演)Dexter Gordon, Herbie Hancock, Bobby Hutcherson

 ニューヨークからパリに来た破滅型のテナー奏者デイル(デクスター・ゴードンが演じている)を描いたこの映画の実際のモデルはバド・パウエルで、彼を保護してパリでの生活を支えたフランス人で、彼の熱烈なファンであったフランシス・ポードラスという人の書いた『異教徒の踊り』という回想録に基づいています。
 デイルは、飲酒に問題があり、酒を飲ませると演奏が出来なくなる為、クラブの出演料も彼には渡さず、演奏後はホテルから出られないように、外から鍵をかけてしまう状況だった。彼のファンであるまだ若いデザイナーのフランシスはそんなデイルを見かねて、妻と別れて一緒に暮らしているまだ小さい娘のいる自分のアパートに引き取って面倒を見るようになる。映画は、このようにデイルとフランシスのジャズを媒介にした友情を描いていますが、クラブでの演奏などジャズが聴ける場面が結構あり、そちらの面でも楽しめます。この映画の音楽監督を務め、自らも出演しているハービー・ハンコックを始め、ボビー・ハッチャーソンやウェイン・ショーターなどトップ・ジャズプレイヤーがサイドとして参加し、デックスををサポートしています。このときのデクスター・ゴードンは、もう60歳を越えていて、往年の豪快なブロウは、うかがえませんが、年輪を感じさせる味のあるプレイをしています。この映画により本業も復活し、しばらく演奏活動をしますが、'90年に亡くなっています。
 

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