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「でも信じてほしいんだけど、これはとても大事なことなんだ。人間の新しい進化にかかわることなんだ」 「『2001年宇宙の旅』みたいに?」 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」/ 村上春樹 ツァラトゥストラは群集にむかってこう語った。 「わたしはあながたに超人を教える。人間とは乗り越えられるべきあるものである。... 人間は、動物と超人とのあいだに張りわたされた一本の綱である ― 深淵の上にかかる綱である。人間において偉大な点は、かれがひとつの橋であって、目的ではないことだ。人間において愛しえる点は、かれが過渡であり、没落であるということである。」 『ツァラトゥストラ』/ ニーチェ |
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1.2001:A Space Odyssey/2001年宇宙の旅(1968) | |
難易度:☆☆ 今回読んだペーパ−バックは、"Millennial Edition" ということで、クラ−クによるイントロダクションがついていて、その中でこの作品の成立について述べています。それによると、この作品は彼の短篇「前哨」がベースになっているとよく言われるけど、そんな単純なことではなくて、ほとんどがキューブリックとの何ヶ月間ものブレイン・ストーミングの結果生み出されたものだということで、最後のほうでは小説と映画とが同時進行ということになってしまったとのこと。また、映画との大きな違いである宇宙船ディスカヴァリーの最終目的地(小説では土星だが、映画では木星となっている)について、映画では特殊効果により土星のリングを再現させるのが困難で、時間がかかり公開の日程が遅れてしまう恐れがあったためと書いています。 およそ300万年前、1000万年続いた旱魃(かんばつ)により、とうに恐竜の天下は終わっていて、小型か敏捷あるいは獰猛な種だけが生き残ることが出来た。そしてこれらのいずれの特性をもたない猿人たちは、絶滅への途上にあった。小説の冒頭の部分から; The drought had lasted now for ten million years, and the reign of the terrible lizards had long since ended. Here on the Equator, in the continent which would one day be known as Africa, the battle for existence had reached a new climax of ferocity, and the victor was not yet in sight. In this barren and desiccated land, only the small or the swift or the fierce could flourish, or even hope to survive. The man-apes of the veldt were none of these things, and they were not flourishing; indeed, they were already far down the road to racial extinction. ある日、石板(モノリス)が出現し猿人たちの意識を探り、彼らに進化の可能性を見出した"それ"は、モノリスを通して猿人たちの意識改革を行ない、その結果猿人は人類(ホモ・サピエンス)への階梯を歩み始めます。そして、300万年後、宇宙へ進出した人類は月面に埋められていたモノリス(TMA−1と命名)を発見、そしてこれを契機にモノリスが発信し始めた強力な電波の方向が土星であることが判明し、それから2年後の2001年、宇宙船ディスカヴァリーが土星へ探索に向かうことになります。宇宙船には人工頭脳HAL9000が搭載されていましたが、"彼"の異常により、最後にひとり残されたボーマンは、人類の進化を担ってさらに光年を超えたはるかな旅に出ることになります。 ボーマンが土星の衛星の表面に巨大なモノリスを発見し、地球の管制に報告する場面から; "... Yes, there's something ahead, just where I calculated. It's coming up over the horizon ― and so is Saturn, in almost the same quarter of the sky ― I'll move to the telescope... "Hello! It looks like some kind of building ― completely black ― quite hard to see. No windows or any other features. Just a big, vertical slab ― it must be at least a mile high to be visible from this distance. It reminds me ― of course! It's just like the thing you found on the Moon! This is TMA-1's big brother!" この小説も傑作ですが、個人的には、それ以上に映画作品を評価しています。クラークは、もともとレーダー関係の優秀な技術者であり、技術屋として物事をあいまいにしたくないところがあるのだろうけど、この作品に限っては説明(謎解き)しすぎているような気がしています。それによりモノリスの超越性、象徴性みたいなものが希薄になっているような気がするからなんですが、このあたりは読む人の好みの問題だと思います。続編の『2010年宇宙の旅』と『2061年宇宙の旅』も読みましたが、この作品ほどのインパクトは受けませんでした(近作で最終作の『3001年 終局への旅』も発表されています)。 |
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(映画)2001年宇宙の旅(1968) | |
(監)スタンリー・キューブリック (脚)スタンリー・キューブリック、A.C.クラーク (演)ケア・デュリア、ゲイリー・ロックウッド、ウィリアム・シルヴェスター この映画は観客がそこに何を見るかで、いろいろな意味を持つようになる。もしこの映画が感覚を揺さぶり、観客の潜在意識に浸透したなら、そして、たとえ不完全にであっても、この映画がその人の神話的・宗教的な熱望と衝動を刺激したなら、この映画は成功したのだ。 / スタンリー・キューブリック(映画の最後のシーンの意味についての問いに対して) 言うまでもなく映画史上の金字塔的な作品ですが、キューブリックだけが作り得た壮大な実験映画とも言えます。'68年の公開時ではないけれど、僕は高校生の時に、当時東銀座にあった"テアトル東京"のシネラマ大画面で、この映画を見ることができました(ささやかな僕の人生における幸運の一つに数えられる)。これはもう圧倒的な衝撃で、この"体験"はその後の生き方になんらかの影響を与え続けているのでは、という気さえします。クラークの小説を読んだのは映画のずっと後になってからですが、小説による"解説"を読んだ後でも、映画の衝撃度はいまなお新鮮です。印象的なシーンをピック・アップしてみました。
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(次回紹介予定)Childhood's End/幼年期の終わり(1953) | |
これも人類の進化がテーマの作品で、SF史上に残る傑作です。個人的には『2001年宇宙の旅』よりも評価している作品です。 20世紀末、高度の文明をもった異星人の巨大宇宙船の大編隊が飛来し、世界の主要都市の上空を覆った。それは人類の幼年期の終わりに至る出来事の幕開けだった。 |
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■参考Webサイト・主要作品リスト | |
○ 関連出版リスト : 洋書、和書 ○ 参考資料 ・アーサー.C.クラーク(Wikipedia) ・Arthur C.Clarke(Wikipedia 英語) ・楽園の日々―アーサー・C・クラークの回想 ○ 主要小説作品(共著を除く)
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