ニューエイジ・ミュージック

 加古 隆(1947−  ) 

 東京芸術大学大学院終了後、'71年にフランス政府給費留学生として渡仏。パリ国立音楽院にてメシアンに師事、'76年に作曲賞を得て卒業。在学中の'73年にパリで即興ピアニストとしてデビュー。自作品によるコンサートは、現在までに26カ国200都市に及ぶ。帰国後は映画、舞台、オーケストラなどの委嘱作を含め、作曲及び演奏に、クラシック、現代音楽、ジャズの要素を包含した独自の音楽スタイルを確立した。 (『パリは燃えているか』ピアノ・ピースより)





心に触れるさまざまな印象を映した一曲一曲から、ある予兆に近い香りが醸し出される。音楽は夢や感情移入のきっかけをつくるが、その先は導かない。人々がそれぞれの体験や記憶の中で次なるものを感じてゆく。
アルバム「水の前奏曲」より/ 加古隆


全画面表示

 1. 風の画集(1992)
 (ピアノ・ソロ)

 加古さんについては、ヨーロッパを根拠にして前衛サックス奏者のスティーブ・レイシーなどと現代音楽風のジャズを演っている頃から知っていたけど、僕の当時のジャズの嗜好に合わない感じだったので、この時期の演奏は、ほとんど聴いていません。
 「風の画集」は最初に購入したアルバムで、この中の『ジブラルタルの風』や『未来の思い出』といった曲に感動してファンになりました。このアルバムでは、上に挙げたきれいな曲のほかに、『アンツ』や『チトン通り』などの現代音楽風の曲も含まれていて、加古さんにとっても過去の集大成と未来への方向性を示したアルバムだと思います。 '98年のピアノ発表会(レッスン2年目)の曲として、この『ジブラルタルの風』を取り上げました。練習中に中間部の音符の細かいところで、指がつったことがありました。『未来の思い出』も、いつか弾きたい。


 2. いにしえの響き ーパウル・クレーの絵のようにー (1986)
 (ピアノ・ソロ)

 クレーの絵の印象をもとに作曲された12曲が収録されています。クレーの絵画には、その詩的な故になのか、諧調を主体にした構成のためか、音楽をイメージさせるところがあるようです(クレー自身ヴァイオリンの腕はプロ級であった)。冒頭の『秋を告げる使者』は、上の「風の画集」にも収録されている加古さんの代表作の一つ。アルバム・タイトルである『いにしえの響き』は、アルバム・ジャケットの絵に触発された静溢な曲。その他、現代音楽風の曲、印象派風の曲やリズム主体の曲など多彩な構成となっています。




 3. ノルウェーの森(1994)
 (ピアノ・ソロ、一部混声合唱、パーカッション他)

 加古さんの音楽を、他のニューエイジ系のミュージシャンと識別する大きな特徴として、僕は加古さんの音楽の持つ強い求心性があげられるのではと思っています。ニューエイジは、時に"ヒーリング・ミュージック"とか"癒しの音楽"と呼ばれて、誘眠音楽とイコールみたいな受け取られかたをされているようだけれど(そういう面もあると思いますが)、加古さんの音楽を聴いていると、逆に精神が冴えてくるような気がします。特に、このアルバムの『永遠の流れ』に僕が加古さんに求める全てがあると言っていいと思います(コピー譜が欲しい!)。
 その他の曲では、冒頭の『ノルウェイの森』の編曲はすばらしいものであるし、またこのアルバムでも多彩な音楽が鳴っていて、『ドラゴン・ライジング』ではジャズに接近、『氷河の歌』はメシアンの『世の終りの四重奏曲』に似た曲調といった風です。




 4. 水の前奏曲(1993)
 (ピアノ・ソロ)

 ピアノのための前奏曲集としてまとめられています。アルバム解説の中で、加古さんは"僕にとっての前奏曲とは、ロマンティシズムに支えられた、ある予感そのもの"と言っているように、聴き手に様々なイメージを喚起させる曲集です。曲調から、おそらくは師であったメシアンと、それからドビュッシーの前奏曲集が念頭にあったものと考えられます。

 北海道のトマムにあるらしい『水の教会』をイメージした冒頭曲は、さざなみを思わせる左手のアルペジオに乗って加古さん独特の旋律が奏でられ、この曲集の基調であるロマンティックなリリシズムみたいなものを代表している美しい曲です。

 この曲を始めとして、加古さんのピアノ・ソロの代表作品を収録したベストアルバムが出ていて、これから聴いてみようという人にはお奨めできます。タイトル名が『ジブラルタルの風』となっているのは、やはり加古さんにとっても、この曲は特別な思いがあるんでしょうか。その他、僕がいちばん弾けるようになりたい『永遠の流れ』や、すごい迫力の『湖沼の伝説』、美しいソロ・バージョンの『パリは燃えているか』などの作品が網羅されています。一刻も早いコピー譜の発売を望むところです。





 5. NHK「映像の世紀」オリジナル・サウンドトラック(1995)
(ピアノ、ストリングス、パーカッション他)

 映像により、激動の20世紀の事件や風俗などを振り返るNHKの特別番組のサウンド・トラックで、今年('00)再放送されましたが、近年まれにみる良質の番組でした。
 ここでの加古さんの音楽は、バックグラウンド・ミュージックという枠を越え、映像と不即不離、一体となっているようでした。中でも、主題曲である『パリは燃えているか』は、番組の毎回のテーマに合わせて、アレンジされた形で現れ、その劇的でかつ優しいテーマは、強い印象を残しました。
 アルバム「パリは燃えているか」(サウンド・トラック完全版)には、この曲のオープニング・テーマを始め、ピアノ・トリオ版、ブラス版やピアノ・ソロ版など8通りの演奏ヴァージョンと、その他の曲が収録されています。
 「パリは燃えているか」も是非弾きたい曲なので、ソロ・バージョン(ベスト・アルバムに収録されているのと同じ)の楽譜の発売が待たれます。




 6. 予感 〜アンジェリック・グリーンの光の中で〜 (1998)
 (ピアノ・ソロ、メール・ソプラノ、ソプラノ、混声合唱)

 加古さんは、このアルバムで声をテーマにしようとひらめいた時、"人の声ってもしかしたら響きの中では最も光に近い存在なのかもしれない。" という想いが浮かんだとのことです。冒頭の「一つの予感」は、ピアノ・ソロによる曲であり、いかにも加古さんらしいリリックで、勢いのあるとても好きな曲で、加古さんの曲としては2年前の『ジブラルタルの風』に続き、今度レッスンで取り上げようと思っています。もっとも、最後のほうの最高に盛り上がる個所については、譜面通りにはたぶん弾けないだろうという"予感"(確信?)はあるんですが......。 他にもピアノ・ソロの曲が2曲あって(『ビューティフル・ハーモニー』と『湖沼の伝説』でいずれもベスト・アルバムに収録されている)、どちらも繊細さとダイナミックさを兼ね備えた近年の代表作だと思います。
 2曲目以降が、ヴォーカルとの共演となっていて、歌詞はなく、声を器楽的に扱っているようだけど、声というのは、やはり情緒的なぬくもりを持っているようで、聴いていると安らぎを覚えます。『ジブラルタルの風』のソプラノと合唱によるバック・ヴォーカル付きバージョンが収録されていて聴き所のひとつ。

 


 7. 静かな時間(1999)
 (ピアノ・ソロ、ニ胡:姜 建華、バンドネオン:ファン・ホセ・モサリーニ、チェロ:ジャキス・モレレンバウム)

 上に挙げた奏者とのデュエットを基調にしたアルバムで、タイトル通り全体として落ち着いた感じのアルバムとなっています。各曲の印象を記してみます。
・ピアノ・ソロ:『白梅抄−亡き母の』(ロマンティックな曲)、『雨のソネット』(雨だれのイメージ)、『Ayako』
・ニ胡とのデュエット:『アダイ・アダイ〜ブルネイの古謡による〜』、『悲しみ』(ニ胡は、弦を弓で弾く中国古来の楽器で、かそけき音で、すすり泣くような響きが曲調に合っている。)
・バンドネオンとのデュエット:『光と影とのバラード』、『ひとりぼっちの二重奏』(バンドネオンは、タンゴで使用される楽器で、ピアソラによる演奏が有名。哀愁の響き。)
・チェロとのデュエット:『美しき日々』、『永訣の朝〜宮沢賢治の詩に〜』(ピアノによるみぞれの降るイメージとチェロの悲しみの表現の調和)
・全員合奏:『それぞれの海』(拡がりを感じさせる曲で、各奏者が、自身の海をイメージしながら演奏していることが伝わってくる。)



 (参考Web) 本サイト掲載の画像クリックで、Amazonの該当サイトにリンクします。

  • 検索
        



ページTOPへ           POPS TOPへ          HOMEへ