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Barbara Kingsolver(1955− )
バーバラ・キングソルヴァー 

 
 ケンタッキーで育ち、1981年にDePauw大学の修士課程(科学)を終了後、更にアリゾナ大学で学んだ。1985年に化学者と結婚、彼らの間に子供が一人いる(その後、離婚)。現在は再婚し、夫と二人の子供と共にアリゾナの山岳地域の近くに住み、音楽、ハイキング、園芸を楽しんでいる。

「The Poisonwood Bible」は、amazon com.のペーパーバック・ベストセラー・リストの5位以内に、'01年の2月現在で、1年近くも入っていた大ベストセラーとなった小説です。

I want my fiction to pull readers into the troubles and joys of people they might not otherwise know, and afterward, I want them to look at life a little differently.
/ Barbara Kingsolver


1.The Poisonwood Bible/ポイズンウッド・バイブル(1998)
難易度:☆☆☆

 My little beast, my eyes, my favorite stolen egg. Listen. To live is to be marked. To live is to change, to acquire the words of a story, and that is the only celebration we mortals really know. In perfect stillness, frankly, I've only found sorrow.
/ 過去を振り返る母の末娘への呼びかけ

 バプティスト派の伝道師であるネーサン・プライスとその妻と4人の娘達は、1959年、後任の伝道師が赴任するまでの1年以内の予定でベルギー領コンゴにある村キランガに向います。夫に従順な妻と長女レイチェル(15歳)、彼女と一つ違いの双子であるリアとアダ、そして末っ子のルース・メイ。各章は、それぞれに個性あるキャラクターである彼女たちの一人称で語られています。都会派で現実家のレイチェルは、長女という自覚はなくてもっぱら自分中心に物事を考え、村での生活を嫌悪しています。リアは伝道に身を捧げる父を尊敬し、まっすぐ前を向いて生きていこうとします。そして双子の姉妹であるアダは、誕生時に脳にダメージをうけ半身の自由がきかず、そのためかシニカルに周囲を観察し、ルース・メイはまだほんのこども。各人のキランガ村に対する反応に個性があらわれています。アダの語りより;

 'It's a place right out of a storybook,' my twin sister, Leah, loves to declare in response, opening her eyes wide and sticking her short hair behind her ears as if to hear and see every little thing oh so much better. 'And yet this is our own family, the Prices, living here!'
 Next comes this observation from my sister Ruth May: 'Nobody here's got very many teeth.' And finally, from Rachel: 'Jeez oh man, wake me up when it's over.' And so the Price family passes its judgements. All but Adah. Adah unpasses her judgments. I am the one who does not speak.

 プライス一家のそれなりに安定した生活は、1960年のコンゴの独立とそれに続く政情不安により大きく変ることになります。ネーサンは後任の伝道師がもはや来ないと知りながら村に留まることを決意し、教会本部からの資金援助もなくなった一家は自活せざるを得なくなります。マラリア、旱魃(かんばつ)、蟻の大群などに脅かされる中で、家族を犠牲にしてまで神に奉仕しようとする父に対し家族の心は離反し、続いて起きた悲劇をきっかけとして家族は離散し、それぞれの道を進むことになり、姉妹が再会するまでには20年以上経過することになります。

夜中に蟻の大群に襲われ、村民と共に川向こうへ避難しようとする場面。リアの語りより;

Ants. We were walking on, surrounded, enclosed, enveloped, being eaten by ants. Every surface was covered and boiling, and the path like black flowing lava in the moonlight. Dark, bulbous tree trunks seethed and bulged. The grass had become a field of dark daggers standing upright, churning and crumpling in on themselves. We walked on ants and ran on them, releasing their vinegary smell to the weird, quiet night. Hardly anyone spoke. We just ran as fast as we could alongside our neighbors. Adults carried babies and goats; children carried pots of food and dogs and younger brothers and sisters, the whole village of Kilanga. Crowded together we moved down the road like a rushing stream, ran till we reached the river, and we stopped.
 (アフリカの地図)

クリックで拡大画像が見られます。

 エンターテイメントに仕立てようと思えばいくらでも可能なシチュエーションの中で、キングソルヴァーはプライス一家の人達の生活と心象風景に的を絞り、家族の絆とは何かを問うています。大戦中にフィリピン戦線から離脱したことがトラウマとなり、どんな状況でも二度と逃げないことを信条とした夫と、夫に愛されていないと感じ、子供たちを狂信的な夫の犠牲にさせないと決意する妻、父母に対して愛憎半ばした感情を持つ姉妹たち。とくに父を偶像視し、その後憎悪するようにもなるリアと、自身を含めた周囲を冷やかに眺めながらも心のなかでは激しく母を希求しているアダの双子の姉妹の対照的な生き方が作品の焦点となっていると思います。
(映画)Mosquito Coast/モスキート・コースト(1986)
(監)ピーター・ウィアー (演)ハリソン・フォード、ヘレン・ミレン

 自分の信念により家族を危地に追い込むという設定が「Poisonwood Bible」と共通している作品で、Paul Therouxの小説の映画化です。
 アリーは天才的な発明家だが、独断的で妥協しない性格のため周囲に合わせることができない。アリーは急に南米への移住を思い立ち、家族(妻と息子二人と小さな娘二人)を連れ旅立つ。奥地にある村を買取り、驚くべきエネルギーと工夫とで廃墟に近い村をつくり変えてしまう。電気のないところに巨大な製氷機(クーラーにもなる)を作ってしまうからすごい。村にあらわれた3人の脱走兵を建物ごと吹き飛ばしてしまうあたりからアリーの偏執的な面が出てきて、家族のアメリカに帰ろうという懇願にも「アメリカは核戦争でなくなった。」と言い耳を貸そうとしない。
 爆発による村の壊滅シーンとか台風で家が流されるシーンなどの見どころもありますが、僕にとって一番印象的なのは、"父が絶対なんだ"と信じていた長男が、徐々に父に対する不信感をつのらせていくところで、これは 「Poisonwood Bible」 でのリアの場合と全く同じです。こんな極端でなくても、どの家庭でも子供にとってカリスマであった父親がただの男に成り下がるということは、程度の差はあるもののいつかは必ず起きることでしょうが(起きないとそれはそれで問題ということでもある)、我々父親属にとって悲しいことに違いはないと思うから。それから黙って夫に忍従する妻を演じるヘレン・ミレンがとても魅力的です。従順な彼女ですが、夫に一度だけ嘘をつくことになります。そしてハリソン・フォードはお気に入りの男優なので言うことはありません。
 

2.The Bean Trees/野菜畑のインディアン(1988)
難易度:☆☆☆
 翻訳本

 主人公のマリエッタ(あとでテイラーと名前を変える)は、ケンタッキーの田舎町で母とふたりで暮していた。高校卒業後、病院で5年ほど勤務した後、新しい生活を求め1955年製のおんぼろのフォルクスワーゲンを運転して西に向かいます。途中で、ある夜インディアンの女性から子供を押しつけられ、そしてそのままその女性は去ってしまい、何とかしなくてはと思いつつ、彼女は子供(3歳くらいのチェロキー・インディアンの女の子だった)にタートルという名をつけて一緒に連れて行くことになります。タートルには虐待を受けた傷があって、その精神的ショックからか口がきけなかった。このふたりが互いの絆を深めていく過程を主軸に、ふたりが出逢った人たち、テイラーが働くタイヤ販売店の女主人マティー、赤ん坊を抱え夫に去られた女性ルー・アンや悲しい記憶を持ちながら南米から亡命してきた夫婦などに助けられ、また逆に助けながらそれぞれの道を切り開いていこうとする姿を描いたヒューマン・ノベルです。

 タートルが最初にしゃべった言葉は、"Bean 豆"だった。マティーの裏庭で庭仕事をしていて、タートルに豆を見せて話しかけていたときにしゃべったのだった。びっくりしてマティーを見た私に、マティーは「ほら黙って坐ってないで。その子が話しかけてるじゃないの」と言った。そのあと私が豆を植えているはしからタートルが掘りかえして豆を容器に戻してしまった。私はタートルと私の生活にまったく新しい時期が訪れたのを感じた。

I scooped a handful of big white beans out of one of Mattie's jars. "These are beans. Remember white bean soup with ketchup? Mmm, you like that."
"Bean," Turtle said. "Humbean."
I looked at Mattie.
"Well, don't just sit there, the child's talking to you," Mattie said.
I picked up Turtle and gave her a hug. "That's right, that's bean. And you're just about the smartest kid alive," I told her. Mattie just smiled.
As I planted the beans, Turtle followed me down the row digging each one up after I planted it and putting it back in thejar."Good girl," I said. I could see a whole new era arriving in Turtle's and my life.

 小説の中で、様々な家庭、家族の形が提示されています。それぞれが少しづつ何かかが欠けているようで、そしてまた様々な困難にも直面するけど、そうした環境の中でも自身が持っている資質に応じて、せいいっぱいがんばって生きている人間群像が描写されています。この辺は「The Poisonwood Bible」とも共通したキングソルヴァ−作品の特質のようです。

3. Pigs in Heaven/天国の豚(1993)
難易度:☆☆☆
翻訳本

 「野菜畑のインディアン」の続編です。
 前作から3年経っています。テイラーはタートルを連れてグランド・キャニオンへの観光に来ていた時、タートルがダムの放水路に男が転落するのを目撃し、テイラーの通報により男が救助され、このことが美談として報道されて、二人は全国ネットのTVショーに出演します。番組を見ていたチェロキー・インディアンの敏腕女性弁護士アナウェイクはテイラーの家を訪れ、部族の承認を得ていないタートルの養子は法的に無効であり、タートルはチェロキー・インディアンのコミュニティに帰属すべきとテイラーに伝えます。これに対しタイラーは、タートルは自分の娘であり、渡さないと突っぱねます。

"Please don't panic. I'm only telling you that your adoption papers may not be valid because you didn't get approval from the tribe. You need that. It might be a good idea to get it."
"And what if they won't give it?"
Annawake can't think of the right answer to that question.
Taylor demands, "How can you possibly think this is in Turtle's best interest?"
"How can you think it's good for a tribe to lose its children!" Annawake is startled by her own anger ― she has shot without aiming first. Taylor is shaking her head back and forth, back and forth.
"I'm sorry, I can't understand you. Turtle is my daughter. If you walked in here and asked me to cut off my hand for a good cause, I might think about it. But you don't get Turtle."

 このままではタートルを奪われてしまうという危機感を抱いたテイラーは、タートルを車に乗せ、逃避行に出ます。ここから先はロード・ノベルとなり、二人の行く先々での人々や事物との出会いが語られます。
 一方で、この小説では61歳になるタイラーの母アリスが重要な役割を果たしていて、彼女が2年前に再婚した夫と別れ、チェロキー・インディアンの男性キャッシュと知り合い、彼らのコミュニティに親しんでいく過程で、現代のインディアン社会の風俗や直面する問題などがアリスの目を通して浮き彫りにされています。
 ストーリーの展開が、ちょっと予定調和すぎるのではないかという気がしますが、最後は四方丸く収まって、まあいいのかな。現代のインディアン社会に興味のある人にとっては、大変参考になるのではないかと思います。
 タイトルの"Pigs in Heaven"とは、チェロキー・インディアンの伝承にあるプレアデス星団(すばる)の6つの星のことです。

参考Webサイト・主要作品リスト
○ 関連出版リスト : amazon. com.(洋書和書
○ 参考資料
 ・バーバラ・キングソルヴァー(Wikipedia)
 ・Barbara Kingsolver(Wikipedia 英語)
○ 主要作品リスト
(Novels) (Poetry)
  • Another America
(Non-fiction, Essays)
  • Holding the Line(1990)
  • High Tide in Tucson(1995)
  • Small Wonder(2002)
  • Last Stand: America's Virgin Lands(with photographer Annie Griffiths Belt) (2002)
  • Animal, Vegetable, Miracle(with Steven L. Hopp and Camille Kingsolver) (2007)
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