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ハリー・ポッター・シリーズ 作品紹介(映画を含む)

J.K.Rowling TOPページへ戻る

以下を紹介中です。
・第1巻 Harry Potter and the Philosopher's Stone/ ハリー・ポッターと賢者の石(1997)
(映画)ハリー・ポッターと賢者の石Harry Potter and the Philosopher's Stone(米・2001)
・第2巻 Harry Potter and the Chamber of Secrets /ハリー・ポッターと秘密の部屋(1999)
(映画)ハリー・ポッターと秘密の部屋Harry Potter and the Chamber of Secrets(米・2002)
・第3巻 Harry Potter and the Prisoner of Azkaban/ハリーポッターとアズカバンの囚人 (1999)
(映画)ハリー・ポッターとアズカバンの囚人Harry Potter and the Chamber of Secrets(米・2004)
・第4巻 Harry Potter and the Goblet of Fire/ハリー・ポッターと炎のゴブレット (2000)
(映画)ハリー・ポッターと炎のゴブレット/ Harry Potter and the Goblet of Fire(米・2005)
・第5巻 Harry Potter and the Order of the Phoenix/ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 (2003)
・第6巻 Harry Potter and the the Half-Blood Prince /ハリー・ポッターと謎のプリンス(2005)
・第7巻 Harry Potter and the the Deathly Hallows /ハリー・ポッターと死の秘宝(2007)
(映画)ハリー・ポッターと死の秘宝 Part2/Harry Potter and the the Deathly Hallows Part2/(2011)


第1巻 Harry Potter and the Philosopher's Stone/ハリーポッターと賢者の石(1997)
難易度:☆☆
'Hagrid,' he said quietly, 'I think you must have made a mistake. I don't think I can be a wizard.'
「ハグリッド、」ハリーは静かに言った。「きっと君が間違えたんだと思うよ。だって、僕が魔法使いのはずがないよ。」(第4章)

 この第1巻では、11歳の誕生日を迎えたハリーが自分の出生の秘密と魔法界の存在を知り、そして全寮制のホグワーツ魔法魔術学校に新入生として入学し、物語の主要登場人物たちとの出会いと様々な出来事を経験する1年間が描かれています。
 ハリーの両親は優れた魔法使いでしたが、ヴォルデモートとの闘いで命を落とし、奇跡的に生き残った幼いハリーは叔母夫婦に引き取られ、粗雑な扱いを受けながら成長します。両親は交通事故で死んだのだと言われ、ずっと信じていたハリーでしたが、11歳の誕生日に、ホグワーツ魔法魔術学校から大男のハグリッドがハリー宛の入学許可の手紙を持って現れ、ハリーは初めて自分が魔法使いの血筋をひいていることを知ります。

ホグワーツ魔法魔術学校に向かうホグワーツ特急の中で、第1の親友となるロンと初めて会話をかわす場面から(第6章);

'Are you really Harry Potter?' Ron blurted out.
Harry nodded.
'Oh - well, I thought it might be one of Fred and George's jokes,' said Ron. 'And have you really got - you know...'
He pointed at Harry's forehead.
Harry pulled back his fringe to show the lightning scar. Ron stared.
'So that's where You-Know-Who-?' (注)
'Yes,' said Harry, 'but I can't remember it.'
'Nothing?' said Ron eagerly.
'Well - I remember a lot of green light, but nothing else.'
'Wow,' said Ron. He sat and stared Harry for a few moments, then, as though he had suddenly realized what he was doing, he looked quickly out of the window again.
(注)You-Know-Who : ハリーの両親を殺した黒魔術師ヴォルデモートの代名詞

 ホグワーツ校での飛行術の最初の授業で、ハーマイオニーの制止を振り切り、ドラコを追ってハリーがはじめてほうきの柄にまたがって空を飛んだ場面から(第9章);

Harry grabbed his broom. 'No!' shouted Hermione Granger. 'Madam Hooch told us not to move - you'll get us all into trouble.' Harry ignored her. Blood was pounding in his ears. He mounting the broom and kicked hard against the ground and up, up he soared, air rushed through his hair and his robes whipped out behind him - and in a rush of fierce joy he realized he'd found something he could do without being taught - this was easy, this was wonderful. He pulled his broomstick up a little to take it even higher and heard screams and gasps of girls back on the ground and an admiring whoop from Ron.

 この時の見事な飛行がマクゴナガル先生に評価されて、ハリーはグリフィンドールのクィディッチ・チームのシーカーという最重要のポジションに抜擢される事になります。
 タイトルの"賢者の石"とは、金属を黄金に変え、飲んだ者を不死にするという伝説の物質で("The Stone will transform any metal into pure gold. It also produce the Elixir of Life, which will made the drinker immortal.")、この石をめぐるヴォルデモートとハリーの対決が、この巻のクライマックスとなっています。

(映画)ハリーポッターと賢者の石/Harry Potter and the Philosopher's Stone(米・2001)
(監)クリス・コロンバス (演)ダニエル・ラドクリフ(ハリー)、エマ・ワトソン(ハーマイオニー)、ルパート・グリント(ロン)、リチャード・ハリス(ダンブルドア)、マギー・スミス(マクゴナガル)、ロビー・コルトレーン(ハグリット) (音)ジョン・ウィリアムズ 

原作を尊重しつつ、細部に至るまでていねいに作られていて、CGを駆使した特撮も含め、映画化として、これ以上は望めないのではと思います。配役が素晴らしいのも特筆すべきで、ハリー、ハーマイオニー、ロンの仲良し3人組はもちろん、ハグリット、ダンブルドア、マクゴナガルも皆これ以上は望めないくらい適役でした。ただ、唯一ドラコが坊ちゃん風で、原作のイメージからすると、確かにそうなのかもしれないけど、個人的にはハリーの人気を凌駕するくらいの格好いいドラコ像を創造してもらいたかった。
 2作目以降、この作品を超えるのは、なかなか難しいのではないかという気がするけど、がんばって欲しいものです。


第2巻 Harry Potter and the Chamber of Secret/ハリーポッターと秘密の部屋(1999)
 難易度:☆☆
Harry, grinning widely, said, "This is the best house I've ever been in."
Ron's ears went pink.

 ホグワーツ校での2年目の新学期が始まるまでの夏休みを、ダーズリー家で事を起こさないよう、ひたすらおとなしくして忍苦の日々を送るハリ−でしたが、ハウス・エルフのドビーの闖入で、すべてぶち壊しとなってしまいます。ウィーズリー兄弟に救出されたハリーが彼らの家に着いた時、ロンがあまり立派でない自分たちの家を恥じているときにハリーが言ったのが冒頭に挙げた言葉です。もちろん、お世辞なんかではなく本音でしょう。
 ウィーズリー家の描写から(第3章);
 
It looked as though it had once been a large stone pigpen, but extra rooms had been added here and there until it was several stories high and so crooked it looked as though it were held up by magic (which, Harry reminded himself, it probably was). Four or five chimneys were perched on top of the red roof. A lopsided sign stuck in the ground near the entrance read, THE BURROW. Around the front door lay a jumble of rubber boots and a very rusty cauldron. Several fat brown chickens were pecking their way around the yard.
"It's not much," said Ron.
"It's wonderful," said Harry Potter happily, thinking of Privet Drive.
( pigpen:豚小屋、cauldron:大なべ )

 今回、新たに登場するキャラクターの中で注目されるのは、黒魔法防御法の新任教授ロックハート先生でしょう。自己顕示大の、ええ格好しいで、何となく胡散臭いけれど魔法界の女性(とくに中年の女性)にはアイドル的な存在で、ハーマイオニーもファンなのでした。魔法界の商店街ダイアゴン通りでの彼の自伝"Magical Me"のサイン会に登場したときの様子(第4章);

 Gilderoy Lockhart came slowly into view, seated at a table surrounded by large pictures of his own face, all winking and flashing dazzlingly white teeth at the crowd. The real Lockhart was wearing robes of forget-me-not blue that exactly matched his eyes; his pointed wizard's hat was set at a jaunty angle on his wavy hair.

この巻でも、ハリーたちの前にはいくつかの謎が立ちはだかりますが、それらは;
・ハリーがホグワーツに行くことを妨害し、またクィディッチの試合でボールを操って、ハリーを傷つけようとした者は誰か、その目的は?
・ハリーだけに聞こえる壁からの邪悪なささやきの主は? マグル(人間)の血をひく者だけを襲う敵の正体は?
・秘密の部屋はどこに、そしてそこでは何が待ち受けているのか?
・ハリーは、本来はグリフィンドールではなく、ドラコやかつてのヴォルモートの出身であるスリザリンに入るべきだったのか?
 
 こうした謎をめぐっての物語の展開となりますが、へび語を解するなどスリザリンの後継者しか持ち得ない資質ゆえに悩むハリーに対してダンブルドア校長先生が、資質よりもハリー自身の意志が大切なんだ、と語る場面がとても印象的でした。
 この巻ではホグワーツ校の設立前後の状況も述べられています。約千年前に4人の偉大な魔法使い達(現在の4つの寮は彼らの名を冠している)により創立されたホグワーツ校ですが、設立後しばらくして、創立者の一人であるサラザール・スリザリンは、入学は魔法界の子弟に限るべきという純血主義を強く主張して、ゴドリック・グリフォンドールらと対立し、学校を去っています。
 このシリーズの設定で興味深いところは、こうした過去の事情や、ヴォルデモートを輩出しているという負の要素を持つスリザリンを否定することなく許容し、平等に扱っている点で、このあたりの懐の深いところも何となく英国的な気がしていて、米国製のファンタジーだったら、きっと "正義のホグワーツ校 vs. 悪の巣窟スリザリン校" の構図となっていたんではないかな(偏見です)。
 
 (映画)ハリーポッターと秘密の部屋/Harry Potter and the Chamber of Secret(米・2002)

1年ぶりということで、成長期のハリー、ロン、ハーマイオニーの3人組もだいぶ面変わりしてしまうのかなと思ったけれど、それほどでもなくて、ハリーとロンの声変わりもとくに違和感なく、1作目同様に楽しめました。とくにロンがいい味を出していたと思います。原作の彼らも毎年成長していくのだから、今後も同じ配役で続けていって欲しいと思います。これが最後の映画出演となってしまったダンブルドア校長先生役のリチャード・ハリスは、ちょっと辛そうでした。
 原作を忠実に映画化しているので、本を読んでいると、スリル感は減るけれど、安心して原作と映像化された場面の対比をしつつ、CGの見事さを堪能しながら見ることができます。ハウスエルフのドビー、温室で栽培していたマンドレイク、ハウラー(吠えメール)、ロックハート教授の授業で飛び回ったピクシー、クィディッチの試合などの映像化が楽しめました。でも最高だったのは、ロンの家のよぼよぼフクロウのエロールでした。新しく登場したキャラクターの寸評をしてみました。
 ・ハウスエルフのドビー:もうちょっと可愛くてもいいんじゃないかな
 ・新任のロックハート教授:イメージ通りでした
 ・ロンの妹ジニー:あまりハリーを慕っている風には見えなかった。ちょっと期待外れ
 ・ドラコの親父:なかなか格好いいじゃないか。息子より数段期待できそう
 ・謎のトム・リドル:まあイメージ通りか


第3巻 Harry Potter and the Prisoner of Azkaban/ハリーポッターとアズカバンの囚人 (1999)
 難易度:☆☆  
"You think the dead we loved ever truly leave us? ...  
Your father is alive in you, Harry, and shows himself most plainly when you have need of him."

「お前は、かつて私たちが愛し、今はもう死んでしまった人たちが本当に私たちから離れてしまっていると思うかね? ハリーよ、お前の亡き父上はお前の心の中に生きているのだよ、そしてハリーが必要とするときに、はっきりとその姿を現してくれるのだよ」
(ダンブルドア校長がハリーに語った言葉)

 13歳となったハリーの精神的成長のめざましさが感じられる作品です。まだ同年令の男の子に比べると小さくてやせてはいるけど、身長の方もこの1年で "a few inches(数インチ:5-8cm位かな)"伸びたそうです。
 いつものようにホグワーツ校の夏休みをダーズリー家で過ごすハリーでしたが、恐怖のマージおばさんのおかげで、家では禁止されている魔法を使って騒動を起こしてしまい、家を飛び出す羽目になってしまいます。そのあと 騎士のバス(Knight Bus)に拾われロンドンの市街を走る場面は、映画化されたときの特撮が見ものでしょう。何せ、疾走するバスが何かにぶつかりそうになると、ゴミ箱や街灯や家のほうで避けてくれるというのだから。バスの運転手と車掌さんの言葉は、かなりなまっているけど、これは生粋のロンドン子の話し言葉"cockney"のようです。だとすると、これは江戸っ子のべらんめえ調で訳すと雰囲気が出るかもしれません。
 たとえば、"Woss that on your 'ead? (What's that on your head?)" はハリーに額の傷のことを尋ねている場面ですが、「おめえの頭のそいつは一体なんでぇ?」てな具合い。
 バスの中で、ハリーはこの巻の最重要人物であるシリウス・ブラックについての新聞記事を読みます。12年前、呪文で13人もの人を殺し、魔法界の監獄アズカバンに収監されていたシリウスが脱獄したとのニュースは魔法界を震撼させていました。やがてハリーは、ヴォルデモートの側近であったシリウスが、かつてヴォルデモートを破滅させたハリーを憎み、復讐を企んでいるらしいと知らされます。
 一方、ハリーの親友ロンとハーマイオニーの間には、ハーマイオニーの新しいペットのオス猫クルックシャンクスをめぐり、険悪な空気が流れていました。まあロンのペットがネズミのスキャバーズなので、これはハーマイオニーの無神経さが責められるべきだと思いますね。それにクルックシャンクスはただ者(猫)ではなくて、ハリーの言葉によれば、"It was either a very big cat or quite a small tiger."ということになります。
 魔法ペット・ショップからハーマイオニーがクルックシャンクスを抱いて出てきた場面;
 
Her arms were clamped tightly around the enormous ginger cat.
"You bought that monster?" said Ron, his mouth hanging open.
"He's gorgeous, isn't he?" said Heroine, glowing.
That was a matter of opinion, thought Harry. The cat's ginger fur was thick and fluffy, but it was definitely a bit bowlegged and its face looked grumpy and oddly squashed, as though it had run headlong into a brick wall.

 赤毛はいいとしても、がにまた気味で、不機嫌そうな上に、つぶれたような顔の猫というのは..... ハーマイオニーの美的センスも疑われるところだけど、これも何かの因縁なのかな。この巻では彼女持ち前の"がり勉精神"も俄然エスカレートし、同時間に開講する科目も含めて全科目を受講しようと企てたりします。ハリーとロンも彼女の行動を不審がっていますが、果してそんなことが可能なんだろうか。

 新たに登場する人物たちは、まず黒魔法防御法の新任教授ルーピン、格好はみすぼらしいけど、中身は前任者のロックハート教授よりずっと信頼できそう。でも何か秘密を隠しているようだけど..... 占い学のトレローニー先生も初登場で、やせていて昆虫みたいな感じの魔女で、不吉な予言をしてハリーたちには敬遠されているようです。もう一人、大男の新任の先生がいて、こちらも色々と騒動を巻き起こします。それから、シリウスからハリーを守るためアズカバンから派遣されてきた看守ディメンターたちも不気味な存在。
 それと、今年はグリフィンドール・チームが悲願のクィディッチ優勝カップを手にすることができるのか、という興味もあるのでした。そういえば、スリザリン・チームのシーカーでもあるハリーの天敵ドラコは相変わらずろくでもないことを企んでいるし、ハリーはハリーでレイブンクロー・チームのシーカーの可愛い東洋系の女の子を意識し始めているようで..... ジニーのライバルとなるのかな。
 そんなこんなの縦横のストーリーがシリウスとの対決のクライマックスに向かって収斂していく様は、実に見事と言うしかなく、ドラマの盛り上がりの点でも、読後の爽やかな感動においても、今までの3作の中では一番大きかった作品でした。大展開となる4年目を控えて、ハリーにとっても今度の夏休みは、初めて穏かに過ごせるみたいで、よかったね。

(映画)リーポッターとアズカバンの囚人/Harry Potter and the Prisoner of Azkaban (米・2004)

前2作の監督クリス・コロンバスから、アルファンソ・キュアロンへバトンタッチされた第3作ですが、やはり映画全体のタッチが前2作とは随分違います。
画面はずっと暗くなって、ゴシックホラーの雰囲気が色濃くなり、原作のエピソードを極力切り詰め(本がだんだん厚くなるのだから、これは仕方がないか)、画面転換のテンポも速くなって、全体的に今までのお子様を主たる対象とした作りから、成人の観客も満足させることを意識した作りとなっていました。そうした変化により、観客を飽きさせないという点で成功していたと思いますが、一方では原作の忠実な再現を期待した人には不満が残るだろうし、原作を読んでいない人にとっては、ストーリーの流れをうまくつかめないのではないかと思いました。
 主軸のストーリー重視の展開ということで、ハリー、ロン、ハーマイオニーそれぞれの内面的成長ぶりや、友情を描くという点においても物足りなさが残りました。3人の友情物語としての側面が希薄になると、普通のアドベンチャー・ファンタジーと何ら変わりなくなってしまうような気がします。
 ハーマイオニーの活躍が目立った本作でしたが、ハリーはともかく、ロンやドラコの影がやたら薄かった。大の男たちが、ハーマイオニーに活を入れられっぱなしでどうする。
 次作の「炎のゴブレット」は原作自体、ずっと暗くなって、怖くなるので、同じ監督で撮ると、これは相当覚悟して観に行かなくてはならないかな。


第4巻Harry Potter and the Goblet of Fire/ハリー・ポッターと炎のゴブレット (2000)
 難易度:☆☆
巻が進むごとに厚くなっていく本シリーズですが、第4巻は前の巻の2倍近くにもなって、作者の並々ならぬ意気込みが感じられます。確かに内容、表現において前3作とは一線を画すとともに、今後の物語の展開において節目となる重要な作品となっています。
 ハリーは14歳になりました。いつもなら、ホグワーツ校の新学期前のダーズリー家での騒動から幕が開くところですが、それが今回はヴォルデモートの隠れ家の場面で、しかも彼が侵入者を抹殺するというショッキングな場面に読者は立ち会うことになります。ヴォルデモートは13年前に、ポッター一家を襲った際、ハリーのために肉体を失い、他人の身体を乗り替えながら再復活の機会を窺(うかが)っていましたが、いよいよその機が熟したことを思わせる冒頭であり、今までにない緊張感が漂っています。
 ハリーは、今年は新学期前の休みにウィーズリー一家とクィディッチのワールドカップの観戦に出かけます。10万人を収容できるスタジアムでのブルガリア対アイルランドのゲーム後、テント村の上空にヴォルデモートの印であるダークマークが浮かび上がります。ヴォルデモートのサポーターであるデス・イーター達"Death Eaters" の不穏な動きもあって、平和だった魔法界にも暗雲が立ち込めてきたようです。
 今年ホグワーツ校での寮対抗のクィディッチ大会は中止され、ヨーロッパ地域の他の2校(ダームストラング校とボーバトン校)との対抗試合"Triwizard Tournament" が開催されることになります。それもクィディッチではなく、各校から1名ずつ選抜された計3名の代表選手達が、3つの試練にチャレンジするもので、過去には行なわれていましたが危険が伴い、死者が続出したため長い間中止されていたものです。今回は絶対の安全を確保しての開催ということでしたが・・・・・
 タイトルの"炎のゴブレット Goblet of Fire"とは、各校からの代表選手を選ぶ木製のカップのことで、代表選手希望者が自らの名を記入した紙を投入し、ゴブレットがその中から最適者を選ぶというもの。17歳未満の者は参加資格はなく、当然ハリーが選ばれるはずがないのですが、3名の代表選手を選んだ後、なおももう一人の選手の名を記した羊皮紙を炎とともに噴き出したゴブレット、ダンブルドア校長がつかみ取った紙に書かれていた名は、"ハリー・ポッター" でした。

The fire in the Goblet had just turned red again. Sparks were flying out of it. A long flame shot suddenly into the air, and borne upon it was another piece of parchment.
Automatically, it seemed, Dumbledore reached out a long hand and seized the parchment. He held it out and stared at the name written upon it. There was a long pause, during which Dumbledore stared at the slip in his hands, and everyone in the room stared at Dumbledore. And then Dumbledore cleared his throat, and read out ―
'Harry Potter.'

 これは試合の中でハリーを殺そうというデス・イーターによる陰謀と思われましたが、ともかく選ばれた4人で、課せられた3つの試練を競うことになり、これがこの巻のメインストーリーとなっています。
 ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人の関係にもずいぶんと変化がありました。ハリーが代表選手に選ばれたことで、ハリーとロンの間に気まずい空気が流れますが、ドラゴンが守る金の卵を取ってくるという最初の危険な試練の後で仲直りすることになります。ロンが謝ろうとするのを、ハリーが「もういいよ、気にするなよ」と言うのを聞き、二人の間にはさまれ、やきもきしていたハーマイオニーが安堵のあまり泣き出してしまう場面 ;

Harry knew Ron was about to apologise and, suddenly, he found he didn't need to hear it.
'It's OK,' he said, before Ron could get the words out, 'Forget it.'
'No,' said Ron,'I shouldn't've ―'
'Forget it,' Harry said.
Ron grinned nervously at him, and Harry grinned back.
Hermione burst into tears.
'There's nothing to cry about!' Harry told her, bewildered.
'You two are so stupid!' she shouted, stamping her foot on the ground, tears splashing down her front. Then, before either of them could stop her, she had given both them a hug, and dashed away, now positively howling.
'Barking,' said Ron, shaking his head.

 対抗試合恒例のクリスマスの舞踏会、「ダンスなんかしない」とマクゴナガル先生に駄々をこねるハリーですが、代表選手は舞踏会のオープニングで踊らなくてはならず、ハリーは勇気をふりしぼって、あこがれていた東洋系のレイブンクロー生、チョウにパートナーになってと誘います。'Wangoballwime?' と言われ、ポカンとするチョウ。 'D'you want to go to the ball with me?' とハリーは言いたかったのが緊張の余り、舌が回らなかったんでした。ロンもパートナーを決めかねていましたが、ハーマイオニーも女の子であることに気づき(!)、彼女を誘いますが、すでに相手の決まっていたハーマイオニーに手厳しく断られます。3人の少年・少女時代からの訣別の時期が迫っていることを感じさせる出来事でした。
 とにかく大部なので他にもいろんなことが起こり(なんという手抜き!)、そして最後の試練を経て、ヴォルデモートとの対決というクライマックスに至ります。最後の100ページくらいは結構怖くて、小学生にはちょっと刺激が強すぎないかなという気がします。こんなことからも、作者ローリングさんは、ハリーたちが子どもから思春期へと成長するのに伴い、これからのシリーズを"子供向けファンタジー"という枠から脱却させ、5巻以降ハリーたちが15歳、16歳、17歳と成長していく過程と、熾烈になっていく悪との戦いをより深く踏み込んで描こうとしているのではないかと思います。5巻以降では、それまでとは別の読み取りかたを期待されているのかもしれません。

(映画)ハリー・ポッターと炎のゴブレット/Harry Potter and the Goblet of Fire(米・英 2005)

まずは、ぶ厚い原作本の多くのエピソードのエッセンスを2時間半余りのスペクタクル作品に手際よくまとめ上げた監督の手腕はすごいと思いました。監督のマイク・ニューウェルは英国人で、このシリーズはこの作品が初監督だそうです。個々のエピソードのシーンが短いせいもあるのか、疾走感が際立っていて、観ていて小気味よく、毎回感心するCG技術もすばらしかった。
 まあ、クィディッチ・ワールド・カップの試合のシーンは、いくらなんでも短すぎたとか、今回のハイライトである三大魔法学校対抗試合はもっとじっくり観たかったのにとか、いろいろとないものねだりはあるけれど、これはしょうがないですね。でも物語の背景を知らないまま観ると、 面白いけどあれよあれよで、よくわからないまま終わってしまう感じを受けるかもしれません。
 それと、原作では、ラストのヴォルデモートとの対決場面が、お子様にはちょっと怖すぎるのではないかと心配したほどダークで、あれをそのまま映像でやられてはかなわないなと観る前には心配していたけど、映画のほうがずっとソフトな演出でほっとしました。
 このシリーズは、ハリーたちがホグワーツ魔法学校で経験する冒険を通して、年毎に段々と成長していく姿が描かれているファンタジーですが、映画では、それとともに演じている俳優さんたちの成長ぶりも同時に楽しめるという特典があります。毎回、期待と不安とが入り混じった気持ちで、彼らが最初に登場するシーンを観ているわけですが、当初感じる驚きや戸惑いや感慨なりは、すぐにストーリーに没入する中で消えてしまいます。
 ハーマイオニーのパーティーでのドレス姿がすごく美しく、ようやく彼女の魅力に気づいてあせるロンや、チョウに片想いするハリーのエピソードが微笑ましく、いよいよこのシリーズも次回は青春ストーリー全開に向かうのかなと予感させる風でした。そのほかでは、前回までそれほど目立たなかったロンの双子の兄たち(フレッドとジョージ)にスポットが当てられていたのが特筆事項かな。


第5巻Harry Potter and the Order of the Phoenix/ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 (2003)
 難易度:☆☆

**以下では全体の1/3位までのストーリーについて触れていますのでご注意下さい**
 
'It is time for me to tell you what I should have told you five years ago, Harry. Please sit down. I am going to tell you everything.'
ハリーよ、5年前にお前に話しておくべきだったことを明かすときが来た。さあ座って。これからお前にすべてを話そう。
(ダンブルドア校長先生の言葉)

 長らくお待たせの第5巻だけど、前作に比べずっと地味な印象を受けるのは、前作でのクィディッチのワールドカップやら三大魔法学校の対抗試合のような胸躍るビッグ・イベントがないからだと思う。じゃあその代わりに何があるのかというと今回の最大のイベントは、5年生の学期末に行なわれるOWLs(Ordinary Wizarding levels:普通魔法使いレベル試験)という学科毎の魔法力テストで、この成績により卒業後の進路が左右されるらしい。この試験のために先生も生徒も右往左往するわけだけど、最大のイベントが学期末試験では思いきり盛り上がるという風にはならないのはもっともな話だろうな。

 今年の夏休み、ロンやハーマイオニー、それにシリウスやダンブルドア校長からも何の連絡もなくて、相変わらずのダーズリー一家のもとで忍耐の日々を送っていたハリーはいらいらしてた。ダドリー(ダイエットと筋トレの成果なのか、なんと地区の高校のボクシング・チャンピオンとなり、ついでに不良のリーダーにと、意外に立派な成長ぶりにびっくり)とハリーが、家の近所の路上で一触即発の状況にあったとき二体のディメンター(吸魂鬼)が現れ、やむを得ず使った魔法でまたまたハリーはトラブルに...
 前作でダンブルドアによりヴォルデモートの復活が宣言され、第5巻では一気に両陣営の全面対決になるかと思われたのが、ヴォルデモートはなりを潜めたままで、一方では魔法省の大臣ファッジは復活を認めず、逆にダンブルドアが魔法省と対抗する私設の軍隊を作ろうとしているのではないかと警戒を強めていたのだった。
 タイトルの"The Order of the Phoenix フェニックス騎士団"とは、前回のヴォルデモートとの闘い(14年前に終結)の際にダンブルドアが創設した秘密結社で、今回も当時のメンバーを中心に再結成されたもので、ロンとハーマイオニーが知るかぎりでは少なくとも20名以上はいるみたいだ。

'It's a secret society,' said Hermione quickly. 'Dumbledore's in charge, he founded it. It's the people who fought against You-Know-Who last time.'
'Who's in it?' said Harry, coming to a halt with hands in his pocket.
'Quite a few people ―'
'We've met about twenty of them,' said Ron, 'but we think there are more.'

 中心メンバーには、シリウス、ルーピン、ムーディー、スネイプ、ウィーズリー夫妻などがいた。そういえば、今回ウィーズリー一家は、皆活躍してくれました。とくに目立ったのはフレッドとジョージの双子兄弟で、OWLsを控えてただでさえ暗くなりがちのムードを明るく盛り上げてくれてました。ジニーの成長も著しく、内面・外面ともに魅力的な少女になっていて、やはりハリーの究極の彼女はジニーが本命なのかな(期待してます)。もちろんロンも負けずにがんばってました。ハーマイオニーと一緒に監督生(prefect)に任命されるし、なんとクィディッチでも奮闘とは....
 ハリーはというと、開巻早々ろくでもないことばかりで、今回はじっと我慢を通り越して怒り爆発といった感じでちょっと気の毒だったけど、確実に頼りがいのある青年へと成長しているのはうれしい。恋愛運も上昇中。そういえば、今回はライバル、ドラコの見せ場が少なかったけど、次作ではハリーと拮抗できるくらいに負けずに成長して、なにかどえらいことをしでかしてもらいたいものです。おっと、ハグリッドの姿が見えないけどどうしたんだろう。

 新しく登場した人物では、まずはなんだかんだで毎年担当教授が変わる闇の魔術防衛術の新任教授、ドロレス・アンブリッジ(Dolores Umbridge)。彼女は魔法省のファッジの忠臣で、小柄でヒキガエルのような顔をしていて、ハリーは最初から彼女を嫌悪していた。たしかに性格の陰湿なことでは随一のようで.... いやはや。
 もうひとりは、ジニーと同学年のレイブンクロー生のルナ・ラブグッド(Luna Lovegood)。名前からしてひけてしまう感じがするけど、実際とてもヘンな女の子で、父親はゴシップ紙の編集長をしているそうだ。でもジニーとは気が合うようで、特異な才能も持っているようだし、今後どういう活躍をするのかとても楽しみ。
 どのくらいヘンかというと.... ざんばらの腰まで長いくすんだブロンドの髪で、薄いまゆ毛と飛び出た目のためにいつもびっくりしたような表情をしていて、バタービールのコルクのネックレスをしてるとか、雑誌を逆さにして読んでいるとか、まばたきしないとか...

She had straggly, waist-length, dirty blonde hair, very pale eyebrows and protuberant eyes that gave her a permanently surprised look. The girl gave off an aura of distinct dottiness. Perhaps it was the fact that she had stuck her wand behind her left ear for safekeeping, or that she had chosen to wear a necklace of Butterbeer corks, or that she was reading a magazine upside-down. (中略)
She did not seem to need to blink as much as normal humans. She stared and stared at Harry, who had taken the seat opposite her and now wished he hadn't.

 ということで、今回は読後のカタルシスにはちょっと欠けるものの、第6巻、7巻へのクライマックスに向かうステップとして重要な位置付けを持った物語として評価できると思います。まあ何はともあれ次作を早いところ出して欲しいものです。


第6巻Harry Potter and the the Half-Blood Prince/ハリー・ポッターと謎のプリンス(2005)

(内容紹介)amazonより
 ヴォルデモートの復活のせいで、夏だというのに国中に冷たい霧が立ち込めていた。そんな中を、ダーズリーの家にダンブルドアがやって来るという。いったい何のために? そして、ダンブルドアの右手に異変が……。
 ホグワーツ校では、思いもかけない人物が「闇の魔術に対する防衛術」の新しい先生となり、授業を受け持つことになった。一方ハリーは、突然「魔法薬」の才能を発揮する。授業はますます難しくなるが、ホグワーツの6年生は青春真っ只中。 ハリーには新しい恋人が現われ、ロンとハーマイオニーは仲たがいする。しかし、ドラコ・マルフォイだけは不可解な行動をとる。最後に起こる衝撃のどんでん返し。そして悲しい別れ。
 17年前の予言は、ハリーとヴォルデモートとの対決を避けられないものにした。過酷な運命に立ち向かう16歳のハリー、物語は第七巻の最終章へともつれこむ。


第7巻Harry Potter and the the Deathly Hallows/ハリー・ポッターと死の秘宝(2007)
 難易度:☆☆
シリーズ最終巻の本作は、大団円に向かっての冒険や死闘と共に、ベールに包まれていた謎が解き明かされていく展開で、息もつかせぬ面白さでした。
 ハリーは17歳になると、彼を保護していた母の魔法の効果が消えるため、仲間の協力によってダーズリー家から安全な場所に移動することになります。魔術学校最終年度となるハリー、ロン、ハーマイオニーの3人ですが、今年度はホグワーツに戻らず、ダンブルドアの遺志を継いで、ヴォルデモートを倒すため、残された分霊箱(Horcrux)を探し出して破壊するための旅へ出発します。しかし、分霊箱の所在の手がかりがつかめず、あせりのための仲間割れでロンが一人抜けてしまいますが、数週間後に戻ってきた時に、凍った池で溺れかけたハリーを助けることになります。
 このシリーズでは、毎回、冒険とともにミステリーが大きな要素になっていますが、最終巻の本作では、シリーズ全体を通じて最大の謎、ハリーとヴォルデモートとのつながりの秘密がついに解き明かされます。そしてこの秘密が二人の最後の対決の行方に大きく関ってきます。そのほか、3人が継いだダンブルドアの遺産の意図、3つの「死の秘宝」の秘密、ダンブルドアとスネイプの哀しい過去の秘密も明らかにされます。
 読後の感想として、母性愛が物語の大きなテーマになっていると感じました。もちろん、ハリーの母リリーが、死を賭して息子に注いだ愛がメインですが、ロン兄妹のママやドラコの母に現された愛も印象的でした。ハーマイオニーのロンやハリーに対する愛も母性的な面が大きいのではないかと思いました。
 作者は物語全体の構成をきっちりと構築してこのシリーズを書き始めたということですが、シリーズ全体のストーリーの整合性と完成度の高さに改めて驚かされました。残念ながら続きの巻はもうありませんが、今度読むときには、ハリー達の活躍とともに、純愛を貫いてハリーをずっと見守った"彼"に焦点を当てながら魔法世界を楽しみたいと思います。

 本シリーズの翻訳について、問題点が色々と指摘されていますが、児童から成年までの幅広い層を対象としたファンタジーという特殊性があり、翻訳者に同情すべき点が多々あるように感じます。また、日本語への翻訳では人称代名詞の訳しかたによっても、印象が全く変わってしまいます。原作ではハリーもヴォルデモートも "I" ですが、翻訳では、ヴォルデモートは "俺様"となっているようです。訳の是非はともかくとして、翻訳で読む限り、"文化の壁"は厳然としてあるのではないかと思います。ということで、がんばって原書で読んでみることをおすすめします。難しい英語ではないので、最初の50ページを何とかクリアーできれば、あとは物語の面白さにつられて、勢いで読めてしまうのではないかと思います。わからない個所があっても極力辞書を使わず、想像で補うくらいの"いい加減さ"で読むのがコツだと思います。

(映画)Harry Potter and the the Deathly Hallows Part2/ハリー・ポッターと死の秘宝 Part2(2011)

昨年公開されたPart1(原作の第23章までを映画化)と合わせると約4時間半の長さで、若干の相違点はありますが、原作のほぼすべてのエピソードを網羅しているようでした。ただ、原作では前作までの未解決だった様々な疑問点や、複雑な背景も明かされていますが、映画だけでそれらを理解できるのかという点では疑問です。映画は、原作をすでに読んでいる人を対象にしている、という前提で臨んだほうが間違いないと思います。まあ、細かいことを抜きにしても充分楽しめると思いますが・・・。冒頭にPart1のダイジェスト上映がなかったので、事前にPart1の内容を再確認しておいた方がいいでしょう。
 映像的には、グリンゴッツ魔法銀行へのコースターでの侵入と竜に乗っての脱出、ホグワーツでのハリーの仲間たちとデス・イーターとの死闘、ハリーとヴォルデモートとの最終対決などがハイライトシーンでした。
 映画第1作目の「ハリー・ポッターと賢者の石」(2001)から10年が経ったわけですが、毎回、主人公の3人の魔術学校の生徒としての成長とともに、役を離れた彼等の成長を映画の中で見られることも楽しみでした。本当に魅力的な女性になったエマ・ワトソン(ハーマイオニー)をはじめ、彼等のこれからの活躍に期待したい。


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