PAPERBACK GUIDE/SF・ファンタジー

 Ursula K. Le Guin
( 1929−  )

  
 U.K. ル=グィン 又は ル=グウィン


 米国バークレーの生まれ。ラドクリフ大学とコロンビア大学で、フランスおよびイタリアのルネッサンス期文学を専攻した。「女性の時代」といわれた70年代アメリカSFを代表する作家であり、「闇の左手」および「所有せざる人々」でヒューゴー、ネピュラの両賞を受賞した。


                               

少し前にアーシュラ・K・ル=グィンの「辺境の惑星」というSF小説を読んだ。これはすごく遠くにある惑星の話で、ここでは1年が地球時間になおすと約60年かかる。つまり春が15年、夏が15年、秋が15年、冬が15年かかるのである。これはすごい。
「村上朝日堂」/村上春樹


人間は昼の光のなかで生きていると思いがちなものですが、世界の半分は常に闇の中にあり、そしてファンタジーは詩と同様、夜の言葉を語るものなのです。
/ル=グィン

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1. Planet of Exile/辺境の惑星(1966)
  難易度:☆☆☆    和書

 舞台となる惑星の設定は上に引用した通りです。はるか昔に辺境の惑星に植民した人類は、中央との連絡も途絶えたまま、何世代にも渡って徐々に衰退を続けています。長く厳しい冬を間近にして、北からの蛮族の進攻が知らされ、先住種族との同盟によりこれに対処しようとしますが....。 蛮族との攻防場面の緊迫感、リーダーであるアガトと先住種族の娘ロレリーとの困難な恋の行方、そして未来への希望を感じさせる結末など、ル・グィンの作品の中でも特に好きなものです。アガトとロレリーの逢引(死語か?)の場面から。


"Rolery, I leave for the north two nights from now."
"I know that."
"When I come back ―"
"But when you don't come back!" the girl cried out, under the pressure of the terror that had entered her with Autumn's end, the fear of coldness, of death. He held her against him telling her quietly that he would come back. As he spoke she felt the beating of his heart and the beating of her own. "I want to stay with you," she said, and he was saying, "I want to stay with you."
It was dark around them. When they got up they walked slowly in a grayish darkness. She came with him, towards his city. "Where can we go?" he said with a kind of bitter laugh.




2. Earthsea/ ゲド戦記 4部作

 
私にとって、また魔法使いにとって、真の名を知ることは、そのもの自体を知ることである。この事実は3部作の"意図”と私自身に関して非常に多くのことを語っている。アースシー3部作は、ひとつの観点から見れば、芸術家の物語であると言えよう。魔法使いとしての芸術家。トリックスター。プロスペロ。これは3部作において、私が意識した唯一の真にアレゴリカルな面である。        
「夜の言葉」/ル=グィン

 
 ル=グィンのファンタジーを代表する作品で、当初3部作が発表され、その後約20年後に第4作「Tehanu」が発表されました。多くの島々から成り立ち、魔術やドラゴンが存在するEarthsea世界の物語です。 グィン自ら認めているようにユングの影響を強く受けていて、いろいろな読みとり方ができるテクストとなっています。


(1) A Wizard of Earthsea /影との戦い(1968) 
   難易度:☆☆☆

 この第1作では、主人公であるゲドが一人前の魔術師に成長するまでを描いています。中心となる物語は、ゲドが魔術師養成学校の仲間と果し合いをした際に闇の世界から呼び出してしまった影との戦いです。魔術の師がゲドを含む弟子たちに魔術とはまず対象となるものの真の名を知ることにあると言っている場面から引用してみます。ゲドが最後に影に打ち勝つことができたのも影の真の名前を知ることができたからです。

For magic consists in this, the true naming of a thing. So Kurremkarmerruk had said to them, once, their first night in the Tower; he never repeated it, but Ged did not forget his words. "Many a mage of great power," he had said, "has spent his whole life to find out the name of one single thing- one single lost or hidden name.



(2) The Tombs of Atuan/こわれた腕輪 (1971)
   難易度:☆☆☆

 この巻の主人公はゲドではなく、アチュアンの墓に仕える女神官である少女テナーです。彼女はほんの小さいときに両親からひきはなされ、アチュアンの墓の地下の広大な迷宮の闇の中に潜む邪悪なものに奉仕していましたが、アースシーに平和をもたらす腕輪の片割れを探しに来たゲドにより自らの名前を取り戻し、とらわれから開放されます。アチュアンの墓の描写から引用します。

Inside the loop of the wall several black stones eighteen or twenty feet high stuck up like huge fingers out of the earth. Once the eye saw them it kept returning to them, They stood there full of meaning, and yet there was no saying what they meant. There were nine of them. One stood straight, the others leaned more or less, two had fallen. (途中略) These nine stones were the Tombs of Atuan. They had stood there, it was said, since the time of the first men, since Earthsea was created. They had been planted in the darkness when the lands were raised up from the ocean's depths.
They were the tombs of those who ruled before the world of men came to be, the ones not named, and she who served them had no name.



(3) The Farthest Shore/さいはての島へ (1972)

 
物語の中では、前作から20年近くが経過しています。ゲドはEarthsea世界最高の魔術師として尊敬を得ています。あるとき辺境に位置する国の王より魔術の衰退の兆候がひろがりつつあるとの情報がもたらされます。ゲドは情報の伝達者である王子アレンを伴い、原因の究明に旅立つことになります。アレンがゲドに情報を伝える場面から。

"The sea captain said that on the isle of Narveduen, which is some five hundred miles west of us by the ship lanes, there was no more magic. Spells had no power there, he said, and the words of wizardry were forgotten. My father asked him if it was that all the sorcerers and witches had left that isle, and he answered, No: there were some there who had been sorcerers, but they cast no more spells, not even so much as a charm for kettle-mending or the finding of a lost needle.  ..... "



(4) Tehanu/ 帰還(1990)
   難易度:☆☆☆

 
3部作より18年後に発表された完結編です。タイトルのTehanuとは、夏の夜空に白く輝く星の名前です。本作は、第2作の主人公であるテナーとゲドの再会とアースシー世界の再生の予感の物語です。前作の冒険において、持てるすべての力を使い果たしたゲドは魔術師としての力を失ってしまいました。テナーは農夫だった夫をなくし、子供も独立したのち、今は親に虐待されていた少女を引き取り、ふたりで暮らしていましたがドラゴンに運ばれて来た瀕死のゲドと再会することになります。

His eyes opened. She spoke quietly. He looked at her.
"Tenar," he said without smiling, in pure recognition beyond emotion. And it gave her pure pleasure, like a sweet flavor or a flower, that there was still one man living who knew her name, and that it was this man. She leaned forward and kissed his cheek. "Lie still," she said. "Let me finish this." He obeyed, drifting back into sleep soon, this time with his hands open and relaxed.




3. The Left Hand of Darkness/闇の左手 (1969)
   難易度:☆☆☆

 ヒューゴー、ネピュラの両賞を受賞した彼女の代表作のひとつ。舞台はゲセンと呼ばれる雪と氷に閉ざされた植民地惑星"冬"。 この惑星に住む種族は両性具有で、彼らとの外交を締結する任務を帯びた宇宙連合の使節であるゲンリ―・アイとカルハイド国の首相エストラベーンとの交流と、政治権力・策謀に翻弄される彼らの運命を描いています。後半、国外追放となったエストラベーンと彼(?)により収容所から救出されたアイとの厳寒地での逃避行がハイライトとなっています。この作品を両性具有の社会のシュミレーションとして読むことも可能だと思いますが、たとえば、この惑星では、いまだ戦争というものが存在せず、ル=グィンが戦争を男性原理の産物として考えているらしいことがわかります。
 アイのゲセン人の両性具有性についての困惑ぶりを描写している個所から。

Though I had been nearly two years on Winter I was still far from being able to see the people of the planet through their own eyes. I tried to, but my efforts took the form of self-consciously seeing a Gethenian first as a man, then as a woman, forcing him into those categories so irrelevent to his nature and so essential to my own. I thought that at table Estraven's performance had been womanly, all charm and tact and lack of substance, spacious and adroit. Was it in fact perhaps this soft supple femininity that I disliked and distrusted in him? For it was impossible to think of him as a woman, that dark, ironic, powerful presence near me in the firelit darkness, and yet whennever I thought of him as a man I felt a sense of falseness, of imposture : in him, or in my own attitude towards him?




4. The Lathe of Heaven /天のろくろ(1971)
   難易度:☆☆☆

 オアは自分の見る夢が現実を変えてしまう力を持っていることを知り、精神科医ヘイパーを訪れ、その力を無力化してもらおうとするがヘイパーは、逆に世界の改良のために利用しようと考えます。しかし夢を意識でコントロールすることが出来ないため、現実は思いもしない方向に展開していきます。確固と思われた現実が崩壊していき、夢との境界が定かでなくなるというこの作品は、展開こそF.K.ディックの世界と近いところにあるけどディックのような苦い結末とはならないので安心して(?)読めます。オアがヘイパー博士の診療所を初めて訪れた際、彼の悩みを伝える場面からの引用。

"Well," Orr said, speaking with some determination, "I have had dreams that . . . that affected the . . . non-dream world. The real world." ... "What I mean is, I dreamed something, and it came true."
"That isn't hard to believe, Mr. Orr. I'm quite serious in saying that. It's only since the rise of scientific thought that anybody much has been inclined even to question such a statement, much less disbelieve it. Prophetic―"
"Not prophetic dreams. I can't forsee anything. I simply change things." The hands were clenched tight. No wonder the Med School bigwigs had sent this one here. They always sent the nuts they couldn't crack to Harber.




5. The Beginning Place/始まりの場所(1980)
   難易度:☆☆☆
 和書

 ファンタジー系列の作品。フーは新興住宅地のスーパーマーケットに勤務する青年で、同居している母親との葛藤に疲弊していましたが、あるとき偶然に”始まりの場所”に迷い込みます。ここでは常に、たそがれ時で、しかも時間が外部の世界に比べ非常にゆっくり経過しています。そこで同じような境遇の少女と出会い、この世界に住人がいることを知り、そして彼らの苦難を救うためにふたりで出発することになります。この作品は若いふたりが彼らの居場所を見つける自立の物語であり、共感を持って読むことが出来ます。フーが初めてこの場所に行き着いたときの描写から。

It was not dark yet. His eyes had grown accustomed, and he could see clearly, though the darker colors and all shadowed places were near the verge of night. The sky between the black, distinct branches overhead was colorless and without variation of brightness to show where the sun had set. There were no stars yet. The stream, twenty or thirty feet wide and full of boulders, was like a livelier piece of the sky, flashing and glimmering around its rocks. (中略)
This is a good place, Hugh thought. And I got here. I finally got somewhere. I made it.




(関連資料) 夜の言葉(1989)/ル=グィン (山田和子 他訳)
 岩波書店 '92 

 
ル・グィンのスピーチとエッセイをまとめた評論集です。「闇の左手」に関連して論じた"性は必要か?"、SF・ファンタジーとの出会い、アースシー3部作の成立事情(この時点ではまだ4作目は発表されていない)、ファンタジーの効用、ユング心理学との接点などSF・ファンタジーにからんだ様々な話題について書かれていて作品を読む上での参考になります。印象に残った個所を引用してみます。
 
 
"ファンタジーは旅です。精神分析学とまったく同様の、識域下の世界への旅。精神分析学と同じように、ファンタジーもまた危険をはらんでいます。ファンタジーはあなたを変えてしまうかもしれないのです。"

 "ファンタジーは内なる自己の言葉です。"

 "最良の時代であれ、最悪の時代であれ、いつの時代にも芸術は中心的な重要性をになっています。なぜならそれは嘘をつかないからです。それが与えてくれる希望は、偽りの希望ではありません。またわたしは、小説を重要な芸術だと思いますが、それというのもそれが、わたしたちの生きる拠りどころについて―パンのみではない、もうひとつの拠りどころについて―語っているからです。最後に、SFは―そう、あまり重要なものではないかもしれませんが、それでもやはり、語るに足るものです。なぜならそれは、想像力が今後もなお生きつづけるというひとつのあかしであり、よき道具であり、意識の拡大であり、そして果てしない暗黒の深淵を背景に、ちらりと見えたミセス・ブラウンの、ひどくかよわい、ひどく雄々しい姿でもあるからなのです。"


 ミセス・ブラウン=人間と解釈して良い



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