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1. Neuromancer/ニューロマンサー(1984) |
難易度:☆☆☆☆
"I'm the matrix, Case. Nowhere.
Everywhere.
I'm the sum total of the works,
the whole
show."
「おれはマトリックスだよ、ケイス。どうでもなく、すべてでもある。おれはもろもろの総合計。全体なんだ」
(ハヤカワ文庫/黒丸 尚訳 以下同じ)
電脳空間(サイバースペース)とは何か。
それは人間の脳とコンピュータ・ネットワークを直結することによって現前する仮想空間。
主人公ケイスがたまたま見ていた子供向けTV番組では以下のように説明されていた。
Cyberspace. A consensual hallucination
experienced
daily by billions of legitimate
operators,
in every nation, by children
being taught
mathematical concepts . . . A
graphic representation
of data abstracted from the banks
of every
computer in the human system.
Unthinkable
complexity. Lines of light ranged
in the
nonspace of the mind, clusters
and constellations
of data. Like city lights, receding
. . ."
「電脳空間。日々さまざまな国の、何十億という正規の技師や、数学概念を学ぶ子供たちが経験している共感覚幻想 ― 人間のコンピュータ・システムの全バンクから引き出したデータの視覚的再現。考えられない複雑さ。光箭(こうせん)が精神の、データの星群や星団の、非空間をさまよう。遠ざかる街の灯に似て ― 」
ケイスは24歳。かつて彼はサイバースペース(電脳空間)にジャック・イン(没入)し、政府や企業のコンピュータに進入して、データを盗んだり改ざんしたりする一流のハッカー(サイバー・カウボーイと呼ばれている)だった。サイバースペースへのジャックインは、額に電極をつけ、自らパソコンのキーボードを叩いて行う。サイバースペースでは進入防御プログラム(ICE)は建造物として視覚化される。
Cyberspace, as the deck presented it, had no particular relationship with
the deck's physical whereabouts. When Case jacked in, he opened his eyes
to the familiar configuration of the Eastern Seaboard Fission Authority's
Aztec pyramid of data.
デッキの見せてくれる電脳空間(サイバースペース)は、デッキがどこにあろうと、たいして関係がない。ケイスが没入(ジャック・イン)して眼を開けば、おなじみ東部沿岸原子力機構のアステカ風なデータのピラミッド。
彼は2年前に雇い主からデータを盗もうとして失敗し、神経系に損傷を与えられ、サイバー・カウボーイとして再起不能となった。治療法を模索して神経外科医学の最先端の街、そしてヤクザがはびこる無法の街、千葉シティにやって来た彼は、戦闘用に体を改造した女モリイの手引きで、アーミテジという男に会った。アーミテジはケイスがハッカーの仕事を引き受けることを条件に、彼の神経を直してやると言った。ケイスはモリイと共に千葉からイスタンブール、そして植民群島の自由界(Freeside)、ザイオン集合体へと飛んだ。ケイスは久々に復帰したサイバースペースで、かつてジャック・イン中にブレイン・ダメージを受け脳死したが、構造物としてサイバースペースで存在しているフラットラインの助けを借り、中国製超強力ウィルス・プログラム(ICEブレーカ)を使って、巨大AI(人工知能)である冬寂(wintermute)に侵入を図ろうとした。
サイバーパンクの代表作として知られている作品ですが、ギブスン自身夢中になって読んだというバラード、バロウズに少なからぬ影響を受けていると思います。
サイバーパンクSFとは何か。
- ラディカルなハードSF、あるいはハードSFとニューウェーヴSFの融合したポスト・ヒューマニズム小説 /ブルース・スターリング
- 既成のSFを打破する、よりハードで、より速く、より優れて、より騒がしいタイプのSF /ルーディ・ラッカー
- アウトロー・テクノロジストの出てくるSFすべて /パット・キャディガン
- パンク音楽における怒りのエネルギーと幻視力の強さを合わせもったグローバルな世界観を提示するサブジャンル /ジョン・シャーリイ
- 映画「ブレード・ランナー」をその原型にして典型とするもの /グレッグ・ベア
(1985年、北米SF大会パネル「サイバーパンク」での発言から)/ユリイカ特集「P.K.ディック以降」('87年発行)
体の各部を改造し武器を埋め込んだ人間たちや、手裏剣や弓矢を操る殺し屋忍者などによるハードボイルド、映画「ブレードランナー」でのロサンゼルスを思い起こさせる猥雑でハイテクで、さらりまんやヤクザが闊歩する未来都市千葉シティ、様々なドラッグ、人工冬眠により何百年も生きている財閥一族、日本趣味、現実空間とサイバースペースの描写とが頻繁に切り替わり、AIの意図は何なんだ....ウーン一体どうなってんだというパンクぶりがなじむと妙に気持ちいい。ニ回は読みたい。
そしてニューロマンサーとは何か。
"Neuromancer. The lane to the land of the dead. Neuro from the nerves,
the silver paths. Romancer. Necromancer."
「ニューロマンサー、この細道が死者への地とつながる。ニューロは神経、銀色の径。夢想家(ロマンサー)。魔道師(ネクロマンサー)」
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(参考映画)マトリックス/The Matrix('99・米) |
(監)アンディ・ウォシャウスキー、 ラリー・ウォシャウスキー (演)キアヌ・リーブス、 ローレンス・フィッシュバーン、キャリー・アン・モス
「現実としか思えない夢を見たことはあるか。夢から目覚められなくなったらどうする。それが夢なのか現実なのか区別できるか」
「現実とはなにか。現実は脳が解釈するただの電気信号だ」
ネオは、大手ソフトウェア・メーカーに勤務するプログラマーだが、裏世界では凄腕のハッカーとして知られていた。漠然とマトリックス(仮想現実)の存在を感じていたネオは、パソコンに浮かび上がったメッセージに導かれ、謎の女性トリニティと接触する。彼女もかつては著名なハッカーだったが、現在はテロリストとして指名手配されているモーフィアスのもと、AI(人工知能)に支配された世界から人類を解放するため戦っていた。モーフィアスに真実の世界を示されたネオは、彼らと行動を共にすることになる。モーフィアスは、ネオを人類の救世主の再来と信じていた。
とにかくすべてがクールでかっこいいの一言。登場人物たちも、CGを駆使したカンフー・アクションも、哲学風味で味付けされた一見難解なストーリーも。何度見ても飽きないのは「ブレードランナー」並み。とくに3部作の序章と位置づけられるこの映画では、ネオが現実を認識し、人間として戦士として成長していく姿が描かれているという青春映画的な要素も含まれているのも魅力となっています。
次作では、地の底にあるという人類の最後の砦、ザイオンの全貌が示されるのが楽しみ。ネオに語った予言者の言葉「あなたはいつか、モーフィアスの命をとるか、それとも自分の命をとるかの選択を強いられる。二人のうちどちらかが死ぬ。それを選ぶのはあなた」が気になります。
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(参考映画)マトリックス・リローデッド/The Matrix Reloaded('03・米) |
(監)アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー (演)キアヌ・リーブス、ローレンス・フィッシュバーン
前作で存在が暗示されたザイオンにモーフィアスらの乗ったホバークラフトが向かうことになり、マトリックスから独立して存在している人類最後の都市の実体が明らかにされます。しかし、ザイオンの所在を知ったマトリックスが送り込んだ戦闘マシーン軍団がザイオンに迫り、人類に残された時間は限られていた。
前作に比べて今回はずっとホットな展開です。ネオとトリニティの愛が熱い、熱い。パワーアップしたアクション、とくに高速道路でのカーチェイスが熱い。
ストーリー的には、ネオの存在を含め(もしかしてザイオンもか)、すべてがマトリックスにあらかじめプログラミングされたものなのではないかということ、そして前作のラストでネオに敗れた際に、マトリックスから独立した存在となったエージェント・スミスが不気味です。彼の存在は何を意味するのだろう。さらにはネオがマトリックスの外で超能力を発揮できたことの意味は? もしかして...は...なのではなどと考えてしまうと頭が痛くなります。完結作「マトリックス・リボルーション」が楽しみ。
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(参考映画)マトリックス・レボルーション/The Matrix Revolution('03・米) |
(監)アンディ・ウォシャウスキー、 ラリー・ウォシャウスキー (演)キアヌ・リーブス
マトリックスとマシン世界の間にある無人地帯(地下鉄のプラットフォーム)にネオは取り残されてしまった。マトリックスからの働きかけがなければ、ネオは永久にそこから出られない。ネオを救い出す為、モーフィアスとトリニティーらは、命を賭して情報屋のアジトに乗り込む。一方、ザイオンにはセンチネルズの大軍団が刻一刻と近づき、人類に残された時間はわずかしか残されていなかった。果たして人類を救う術(すべ)はあるのか?
マトリックス3部作の完結篇。前作の「リローデッド」が、ネオとトリニティの"ラブ・ストーリー"という側面が大きかったのに対し、完結篇はバリバリのアクションが主体となっています。そのハイライトは、戦闘マシーン軍団とザイオンの守備隊との攻防戦で、雲霞(うんか)のごとくザイオンを襲うセンティネルズの大軍が凄い。自らの艦をネオに託し、残された艦を操縦して、危険ルートを通ってザイオンの救出に向かう女性艦長や、自らの危険を顧みずザイオンの戦闘員として戦った女性たちの活躍が印象的でした。
もう一つのハイライトは、人類の存亡を賭けた、ネオと超人化したエージェント・スミスとのマトリックスでの決闘ということになります。もっとも、こちらの描写はちょっとマンネリ化していたような気がします。どちらに勝利の女神が微笑んだかは観てのお楽しみ。
前2作で提示された謎の全てに対して、答えが与えられたかというと、必ずしもそうとはいえないようです(僕が理解できなかっただけかも知れませんが…)。アーキテクトが予言者に、「ずいぶん危ない橋を渡ったな」などと話す場面があり、意味深な言葉だなと思いつつ、自分で考察する能力も気力もないので、深く考えず聞き流しておきました。模範回答集を待ってます。
しかし、ほんとに続編は作られないのかな。
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(紹介予定)Count Zero/カウント・ゼロ(1986) |
翻訳本
内容(「BOOK」データベースより)
新米ハッカーのボビイ、別名カウント・ゼロは、新しく手に入れた侵入ソフトの助けを借りて電脳空間に没入していた。だが、ふとしたミスから“黒い氷”と呼ばれる防禦プログラムの顎にとらえられ、意識を破壊されかけてしまった。そのとき、思いがけないことが起こった―。きらめくデータの虚空のかなたから、神秘的な少女の声がきこえてきたのだ!ボビイは必死で電脳空間から離脱しようとするが…?SF界の話題をさらった『ニューロマンサー』と同じ世界を舞台にして、前作をはるかに上まわる衝撃的なヴィジョンを展開した、ファン待望のギブスンの長篇第2作登場!
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