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Mal Waldron(p)(1926 - 2002)
マル・ウォルドロン


ニューヨークの生まれ。'54年から'56年にかけてチャールス・ミンガスのピアニストして活躍、'57年からでビリー・ホリデイの伴奏者となり、'59年に彼女が他界するまでその役を務めた。'61年から'62年には、エリック・ドルフィー、ブッカー・リトルのコンボに参加し、ファイブ・スポットでの歴史的なライブ録音を残した。その後'65年に渡欧し、ヨーロッパ、日本を中心に演奏活動を行ない、とくに日本での人気が高く、国内制作のアルバムも残している。


レフト・アローンの最後の曲が終った。布を裂くような音でレコードはまだ回っている。
「限りなく透明に近いブルー」/村上龍



1.Left Alone/レフト・アローン(1960)
Bethlehem Mal Waldron(p), Julian Euell(b), Al Dreares(ds), Jackie McLean(as)

 "Billie was a warm, sympathetic human being."
 "I've always heard similar moods and ideas in the ballad concepts of Jackie McLean and Billie Holiday."
 /マル・ウォルドロン

 ビリー・ホリデイ晩年の伴奏者だったマルが、44歳という若さでこの世を去った彼女に捧げたトリビュート・アルバムです。ビリー・ホリデイが好んで歌っていた曲の演奏とともに、最後のトラックにはマルが彼女の思い出を語ったインタビューが収録されています。
 このアルバムは、かつてのジャズ喫茶の超人気盤でした。この人気は、1曲目のアルバム・タイトル曲によるもので、この演奏にだけ参加しているジャッキー・マクリーンのアルトが哀愁のメロディーを切々と歌いあげた名演となっています。この曲はマル自身がビリー・ホリデイの死の直前に彼女の詞に作曲した作品で、ビリー・ホリデイ自身のレコーディングは残されていないとのことですが、彼女の鎮魂の歌としてふさわしい演奏となっています。
 3曲目の「You don't know what love is/恋を知らないあなた」はトリオでの名演。この曲はビリー・ホリデイの愛唱曲で、マルも録音に参加している彼女の死の1年前の最晩年作「Lady in Satin/ レディ・イン・サテン」('58)でも、全盛期の面影はもはやなくなり、声はかすれながらも聴き手の心を揺さぶる絶唱を残しています。彼女の歌で「Left Alone」を聴きたかった。

(参考アルバム)レフト・アローン’86 (1986)/Evidence
Mal Waldron(p), Jackie McLean(as), Herbie Lewis(b), Eddie Moore(ds) '86 東京、簡易保険ホールにてレコーディング

 ジャッキー・マクリーンとの26年振りの「レフト・アローン」再演を含む、やはりビリー・ホリデイの愛唱曲を中心に収録したアルバムで、ここではほとんどの曲にマクリーンが参加しています。「レフト・アローン」でのマクリーンのアルトは少々饒舌で、やはり聴き慣れたオリジナル盤のほうに軍配が上がります(画像クリックで試聴できます)。聴きものは「ラヴァー・マン」でしょうか。
 マルはマクリーンのリーダー・アルバムの多くに参加していて、中では'50年代録音の「A Long Drink of the Blues」('57)や「4, 5, 6」('56)などがいいです(ジャッキー・マクリーンのページで紹介しています)。
 

2.All Alone/オール・アローン(1966)
GTA  Mal Waldron(p solo) ミラノでの録音

Where's the love that's made to fill my heart
Where's the one from whom I'll never part
First they hurt me, then desert me
I'm left alone, all alone
(「Left Alone」/ビリー・ホリデイ作詞より )
 
わたしの心を満たしてくれる愛はどこにあるの
いつもわたしのそばにいてくれる人はどこにいるの
人はわたしを傷つけ、そして見捨ててしまうの
わたしはひとり残され、ひとりぼっち
(試訳)

 
 発表当時はまだ珍しかったピアノ・ソロ・アルバムで、もともとトリオで録音する予定であったのが共演の二人が現れず、やむなくソロ・レコーディングとなったということだけど、マル畢生の傑作を生み出すきっかけを作ってくれた二人に感謝しなくては。
 「孤高のジャズ詩人」と呼ばれたりするマルですが、一方においてここで表現されている"黒い情念"が彼の本質としてあるのだと思います。同じフレーズを執拗に繰り返し、モールス信号奏法と称せられる彼独特のフレージングが全開のアルバムで、このノリには聴けば聴くほどに、はまってしまいます。
 冒頭のアルバム・タイトル曲「All Alone」の曲名は、ビリー・ホリデイが作詞した「Left Alone」の歌詞からとられています。哀愁漂うテーマが印象的なこの曲は映画「マンハッタンの憂愁」のために作曲されたもので、マルの全曲オリジナル作品による本アルバムの中でも傑出した名曲です。その後、彼自身のアルバムで何度かレコーディングされていますが、「レフト・アローン」もそうであったように、この初録音を超えることはできなかったようです。同じく「A View of S.Luca」も哀愁を帯びた旋律を持った曲です。

(参考アルバム)And Alone(1985)/CBS/SONY : 現在は廃盤のようです。
Mal Waldron(p solo) '85 東京、信濃町スタジオにてレコーディング

 「All Alone」と同じくソロ・ピアノ集ですが、「All Alone」が全曲オリジナル構成であったのが、このアルバムでは収録曲10曲のうちマルのオリジナルが「All Alone」, 「Fire Waltz」, 「Left Alone」の3曲で、残りがビリー・ホリデイの愛唱曲を主としたスタンダードの名曲となっています。スタンダード曲主体であることもあってか、"黒い情念"は陰を潜め洗練された随分と聴きやすい演奏となっていて、普段何気なく聴く分にはこちらのほうがいいかもしれません。オリジナルの3曲はマルにとってそれぞれがとても重要な位置付けとなっている曲ですが、「Fire Waltz」は'61年、ファイブ・スポットでのエリック・ドルフィー、ブッカー・リトルらとの奇跡的な名演が残されています。スタンダード曲では、ビリー・ホリデイの愛唱曲だった「You don't know what love is」、「My old flame」、「Yesterdays」、「Lover man」が収録されています。
 

3.Free at Last/フリー・アット・ラスト(1969)
ECM Mal Waldron(p), Isla Eckinger(b), Clarence Becton(ds) 西ドイツでの録音

 キース・ジャレットの諸作などで知られるECMレーベルの記念すべき第1作がマルのこのアルバムとは、ちょっと意外な気がするけど、ヨーロッパのミュージシャンとの共演、あるいは新レーベルの初録音という気負いもあってか、テンションの高い演奏で、マルの個性的かつダイナミックなピアニズムに触れることができるアルバムです。
 コード進行を意識しない"フリー"を念頭に置いていたのだろうけど、決して難解な演奏ではなく、共演のエッキンガー(b)、ベクトン(ds)の斬新なバッキングと相まって、マルの他のアルバムにはない新鮮味が感じられます。とくに冒頭の「Rat now」のドライブ感がすごい。モールス信号奏法も健在です。
 アグレッシブなオリジナル曲の中にあって、スタンダードの名曲「Willow weep for me」のしっとりしたバラード演奏がとてもいいです。この曲もビリー・ホリデイの愛唱曲でした。
 

4.MAl 1/マル1(1956)
Prestige Mal Waldron(p), Idrees Sulieman(tp), Gigi Gryce(as), Julian Euell(b), Arthur Edgehill(ds)

 マルが50年代の後半にプレスティッジに録音したマル・シリーズには「マル1」から「マル4」までの4作があり、それぞれ1作ごとに構成が以下のように異なっています。
 Mal 1('56): tp、asの2管構成のクインテット 
 Mal 2('57): tp、as、tsの3管構成のセクステット
 Mal 3('58): tp、flの2管構成にチェロ、ボーカルを加えたセプテット
 Mal 4('58): ピアノ・トリオ

 マル1はアイドリース・シュリーマンのトランペットとジジ・グライスのアルト・サックスがフロントの典型的なハード・バップ構成となっていますが、リーダーで作編曲者のマルにより各奏者のプレイがコントロールされている為か、ハードバップ特有の熱気はそれほど感じられません。この初リーダー作において既にマルの個性は明確に現れていて、収録されているマルのオリジナル曲などの演奏において、それらを顕著に聴き取ることができます。
 このアルバムの最大の聴きものはスタンダードの名曲「イエスタデイズ」で、マルのベース・ラインを強調した編曲の斬新さが生かされた演奏はこの曲の名演の一つとして数えられるもので、ここでのジジ・グライスのアルト・ソロも印象的です。
 マルが大きな感化を受けたビリー・ホリデイは、この曲の名唱を彼女の代表作「奇妙な果実」('39)に残しています。
 

5.MAl 4/マル4(1958)
Prestige Mal Waldron(p), Addison Farmer(b), Kenny Dennis(ds)
 
 マルにとってピアノ・トリオでの初リーダー作となるアルバムです。彼の特徴的な奏法は聴かれるものの、全体としてとても端正な印象を受ける演奏となっています。そうした印象は「MAL 1」についても同様であって、この人はその哲学的な風貌からも窺えるように、黒い情念と共に知的な面をも併せ持ち、醒めた意識で自らの音楽を構築できる人なんだろう。その辺が他のバップ・ピアニストと一線を画すところではないかなと思います。
 冒頭の「Splidium-dow」から流麗、快調で、続く2曲目のスタンダードの名曲「Like someone in love」の演奏は情感豊かな、このアルバムのハイライトと言うべき演奏です。その他、スロー・バラードの「J.M.'s dream doll」、気持ちのよいノリの「Too close for comfort」などが印象的。
 

参考Webサイト

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