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 映画特集
 

日本ではとっくに絶滅し、化石化したかにみえる純愛路線をひた走る韓国の恋愛映画を紹介します。
"純愛映画"の定義にはいろいろな見解がありそうですが、ここで取りあげるのは、大人の恋を描いていて、ラブシーンは淡いキスくらいまで、ちゃんと泣かせてくれて、そして1990年代以降の映画に限定とします。

この世界を孤独の状態から外に迸(ほう)り出させるもの、この世界をより豊かならしめる動機、それが愛である。愛がなければこの世界は非活動的な、死んだ孤独にすぎない。
「愛の試み」/福永武彦


重すぎる愛 といふ
ひとりひとりの十字架もなしに 何ができよう
「翔ぶ」より/吉原幸子


ほとんどなんの予告もなく、涙が一筋流れる。その温かい感触を頬の上に感じる。それは僕の目から溢れ、頬をつたい、口もとにとどまり、そしてそこで時間をかけて乾いていく。
「海辺のカフカ」/村上春樹

 以下の作品を紹介しています。純愛映画の評価のバロメーターとなる涙腺刺激度を、三段階(☆〜☆☆☆)で表示しています。

 (映画)
ラスト・プレゼント(2001)
猟奇的な彼女(2001)
八月のクリスマス(1998)
イルマーレ(2000)
シュリ(1999)
接続 ザ・コンタクト(1997)
美術館の隣の動物園(1998)
  
(TVドラマ)
冬のソナタ

1.ラスト・プレゼント(2001)涙腺刺激度:☆☆☆
(監)オ・ギファン (演)イ・ヨンエ、イ・ジョンジェ  
 
どうか 苦しんでいる人たちの心にも温かい笑いを届けてあげて。それには涙を知らなければ。一人で残すのは胸が痛むけど、その痛みもあなたへの贈り物になれば..... あなたが私への最高のプレゼントだったように....

 親の反対を押し切ってコメディアンになったもののいつまでたっても売れず、あせりを感じている夫ヨンギ(イ・ジョンジェ)と、彼の才能を信じ、志を陰ながら支える気丈な妻ジョンヨン(イ・ヨンエ)の夫婦愛の物語です。
 ジョンヨンは難病を患っていて、自分が長くは生きられないことを意識し、死ぬ前になんとかヨンギにコメディアンとして独り立ちしてもらおうと、あえてヨンギにきつい言葉を投げかけます。そんなジョンヨンの真意を知らず、ヨンギは妻を避けるようになります。しかしある日、妻の病気を知ったヨンギは、ジョンヨンにプレゼントをしようと思い立ちます。そうだ、彼女の小さい頃を知る友達や恩師や初恋の人に会わせてあげよう。

 ジョンヨンは母親も自分と同じ難病で亡くしたようで、彼女が母の墓の前で涙を抑えられなくなる場面や、ラストの公開番組の場面では涙で画面がかすみます。はかなげながら強い心を持ったジョンヨンを演じたイ・ヨンエがなんともすてきです。愛情表現に不器用なヨンギを演じたイ・ジョンジェもいいけど、特筆すべきは、ヨンギに請われて(脅されて?)ジョンヨンの幼友達を捜すことになる詐欺師のコンビのとぼけぶりで、そんなこんなで、ただ悲しいだけでなく、観終わった後に爽やかさを感じさせてくれる映画でした。そして、長い間忘れていた初恋の味を思い出させてくれた映画でもありました。
 韓国映画を観ていて、日本と随分違うなと思うことの筆頭は、父親の権威がとても強いということ。韓国には家父長的な儒教思想が色濃く残っているからだろうけど、この映画でも父親に勘当されたヨンギが父親の前に跪く場面がありました。"猟奇的な彼女"でさえ、父親には逆らえないようだったから父親の強さは本物なんでしょう。別にうらやましいとは思いませんが。

2.猟奇的な彼女(2001)涙腺刺激度:☆☆
(監)クァク・ジョエン (演)チョン・ジヒョン、 チャ・テヒョン 

キョヌ ごめんね。自分でもどうしたらいいか分らないの。私、立ち直れないの。人とは違うと思っていたのに。私も普通の女の子みたい。

 もし日本の映画だったら、タイトルから「ナイン・ハーフ」の男女逆転版あたりを想像するのだろうけど、これはれっきとした純愛映画です。
 ちょっと気弱な大学生キョヌ(チャ・テヒョン)は地下鉄の中で、ぐでんぐでんに酔っ払った女の子(チョン・ジヒョン)に出くわし、彼女を介抱する羽目になります。彼女は強烈な個性の持ち主で、キョヌは圧倒されてしまいますが、一方でそんな彼女の純粋さに触れ、惹かれていきます。キョヌは彼女と付き合ううちに、彼女が恋人と死別し、心に傷を抱えていることを知り、その痛みを和らげてあげたいと思うようになります。

 二人の恋模様は「前半戦」、「後半戦」、「延長戦」の三部に分れ、最初のうちは、何だこの女の子は、という感じで、やたらどたばた調なのが、延長戦あたりではしみじみ調となり、彼女もだんだんと可愛くなっていくのが印象的でした。そうしたこととか、彼女がシナリオ作家志望ということで、彼女のシナリオ(ターミネーター風とか時代劇風など)が劇中劇で演じられたり、軍隊がからんだ大騒ぎや、手紙を入れたタイムカプセルのエピソードなど、コミカルなところと泣かせどころをしっかり押さえた演出も心憎いものがあります。ポール・オースターばりのちょっとありえない偶然というのもあり、「ラスト・プレゼント」でもそうだったので、もしかするとこれは韓国映画の常套手段なのだろうか。
 思い出の木の下で出会ったおじさんの残した言葉がきっと正しいにちがいない。

運命というのは努力した人に偶然という橋を架けてくれる
 
(挿入曲)
○ カノン/パッヘルベル
 彼女の命令で、キョヌが一本のバラの花を、彼女が通っている女子大に届けることになり、そば屋の出前に変装したキョヌが講堂に入ると、ステージでは彼女がピアノでこの曲を弾いていました。キョヌが差し出すバラを彼女が受け取ると、講堂を埋めた女子学生から一斉の拍手。
 彼女が弾いていたのは、ジョージ・ウィンストンのアルバムからのバージョンらしい。このあともサブテーマ曲扱いで何度か登場します。この曲の演奏で僕が一番気に入っているのは、パイヤール室内合奏団によるストリングス・バージョンです。

3.八月のクリスマス(1998)涙腺刺激度:☆☆
(監)ホ・ジノ  (演)ハン・ソッキュ、シム・ウナ

僕の記憶にある写真のように、愛もいつかは思い出に変わると思っていました。でも君だけは思い出ではありません。愛を胸に秘めたまま旅立たせてくれた君に"ありがとう"の言葉を残します。

 小さな写真館を営むジョンウォン(ハン・ソッキュ)は、30代前半の青年ですが、不治の病のため自分に残された日々の短いことを悟っていました。そんな彼は、夏の暑い日盛りに現像を頼みにきた駐車違反取締員の若い女性タリム(シム・ウナ)と親しくなります。タリムはちょっと生意気な女の子といった感じで、ジョンウォンに、30代でしょ、だったら完全におじさんね、結婚していないでしょ、どうして結婚しないの、一人息子でしょ、生きてるの楽しい? などと遠慮なく問い詰めたりします。そんなタリムも穏やかなジョンウォンに惹かれるようになり、やがて二人の間には恋の感情が芽ばえていきます。
 夏から秋にかけての淡い恋物語ですが、題名の"八月のクリスマス"は、8月にジョンウォンが撮り、後に店のウィンドウに飾られたタリムの肖像写真が、彼女へのクリスマス・プレゼントとなったことによるのだと思います。

 観終わってしばらくたってからも、じわ〜と効いてくる映画です。きっとタリムと同じように、ジョンウォンのあの爽やかな笑顔が忘れられなくなるからでしょう。残していく父を思いやり、迫る死を達観しているかのようなジョンウォンだけど、友人を誘って飲めない酒を飲んで、「俺は死ぬんだ」と冗談めかして告白しなくてはいられない心の鬱屈も抱えていたのでした。タリムとの交流と並行して、淡々と日常のエピソードを積み上げることにより、つまりはジョンウォンを気遣う家族(父と姉)や友人たち、それに初恋の女性や自分の葬式用の肖像写真を撮りに来たおばあさんとのふれあいなどを描くことによって、ジョンウォンの心象風景を浮き彫りにしています。
 恋に不器用な二人が、それでも遊園地で遊んだり、相合傘で歩いたりするほのぼのとしたシーンが胸に迫ってきます。

4.イルマーレ(2000)涙腺刺激度:☆
(監)イ・ヒョンスン  (演)チョン・ジヒョン、イ・ジョンジェ

 声優の卵のウンジュは、海辺にひっそりと立つ家”イルマーレ(Il Mare)”に住んでいた。彼女が街中のアパートに引っ越す際、家の前の郵便ポストに、自分宛の書簡の転送依頼の手紙を置いてきた。その手紙を郵便ポストに見出したのは、大学の建築科に籍を置きながら工事現場で働く青年ソンヒョンだったが、彼はイルマーレの最初の住民であり、ウンジュの手紙は2年の時を遡ってソンヒョンの手に渡ったのだった。これをきっかけに、不思議な郵便ポストを介した2年の時を越える二人の手紙のやり取りが始まり、当初は信じられなかった二人も不可思議な現象を事実として受け入れるようになった。
 手紙を通じて互いに好意を感じるようになった二人は、浜辺で会う約束をした。二人で決めた初めてのデートは、ウンジュにとっては1週間後だったが、2年の時差(?)がある世界に暮らすソンヒョンは、2年という月日を待たなくてはならなかった。

 ウンジュは、留学先で心変わりした恋人に振られ、一方のソンヒョンは、幼いときに著名な建築家である父に捨てられたという意識に苦しんでいました。共に心に傷を持った二人が、徐々に相手に心を開いていく過程が暖かく描写されています。「誰かを愛してその愛を失った人は、何も失わない人より美しい」というソンヒョンの言葉は、ウンジュだけでなく自分自身へ向けた言葉でもありました。
 霧の立ち込める海岸の風景から始まる映像の美しさは特筆すべきものです。二人の落ち着いた演技もあいまって、全体的に繊細で洗練された印象を受けます。冒頭の部分が、ちょっとジャズの名曲「レフト・アローン」に似ている挿入曲もよかった。
 レトロな赤い郵便ポストと、モダンで非現実的な雰囲気さえ感じられるイルマーレとの対比が面白い。SFファンとしては、タイム・パラドックスの処理がどうか気になるところでしたが、この映画に関する限り本質的なことではないということもあるけど、まあまあといったところではないかと思います。
 いつの日にか、ソンヒョンがウンジュを想って設計した美しい家に、二人で暮らせるときが来ることを願わずにいられません。

5.シュリ(1999)涙腺刺激度:☆☆
(監)カン・ジェギュ  (演)ハン・ソッキュ、キム・ユンジン


殺したくない
死にたい
でも殺したい
溶けるために
「兇器」より/吉原幸子


 ユ・ジュンウォンは、恋人イ・ミュンヒョンとの結婚を1ヶ月後に控えていたが、未来の妻には自分が韓国情報部員であることを告げていなかった。そんな時、侵入した北朝鮮の特殊軍団により、研究所で開発されたばかりの超高性能液体爆弾CTXが強奪され、ジュンウォンがずっと追ってきた北朝鮮の天才的女性スナイパー、イ・バンヒもこの事件に関わっているようだった。南北両首脳が臨席する南北親善サッカー試合開催を目前にして、ジュンウォンら情報部員達のあせりと緊張が高まっていった。

 タイトルの"シュリ"は、朝鮮半島に生息する淡水魚の名であるとのこと。ミュンヒョンが開いているアクア・ショップの店内が度々画面に登場し、熱帯魚が遊泳し水草が繁茂するライトアップされた水槽は、ド派手なアクションの合間に一時の清涼感を与えてくれます。もちろん二人の愛の背景にもぴったりでした。ミュンヒョンは、ジュンウォンに雌雄一対のキッシング・グラミーをプレゼントしますが、キッシング・グラミーは片方が死ぬと、もう一方も後を追うように死んでしまうとのこと。なにやら二人の未来を暗示しているようで、こわい......
 この映画は迫真性のある銃撃戦が大きな見どころとなっているアクション大作で、兵役制度があり成人男性のほとんどが実際に銃を扱った経験がある韓国だからこそだと思いますが、銃を構える姿勢など日本のアクション映画とは段違いにかっこよく、きまっていました。
 アクションと並び、この映画のもう一つのポイントである二人の愛の行方も気になりますが、「愛とは決して後悔しないこと」というラブ・ストーリーの王道を全(まっと)うすることは確かなことです。

6.接続 ザ・コンタクト(1997)涙腺刺激度:☆☆
(監)チャン・ユンヒョン  (演)ハン・ソッキュ、チョン・ドヨン

会うべき人には必ず会えると信じてる。

 明らかに森田芳光監督作品「ハル」(日本的純愛映画のコーナーで紹介中)を意識して作られた映画で、リメイクではありませんが、全体的なストーリー構成は、「ハル」と共通しています。端正な演出と、主演の二人の好演とで、「ハル」同様、お気に入りの映画となりました。

 映画館から出てくる女、そして男。おりからの雨で傘を持っていない二人は、雨の中をそれぞれの方向に走っていった。この時点では、二人は互いに赤の他人だった。
 男はラジオの放送番組のディレクターのクォン、彼は所在のわからない別れた恋人のことを忘れられずにいた。
 女は通販会社の電話オペレーターのスヒョン、彼女は同居している友人ヒジンの恋人ギチョルをひそかに愛していた。
 クォンのもとに別れた恋人から1枚のLPレコードが届いた。アルバムのバラード・ナンバー「Pale Blue Eyes」を放送した後、eメールでこの曲のリクエストが届いた。恋人の所在を知る手がかりになるかもしれないと、クォンはリクエストした女性にメールを出した。クォンからのメールを受信したスヒョンは、クォンの恋人を知っていると嘘のメールを返した。

 嘘から始まった二人のメール交換ですが、互いの恋愛問題の相談相手となるうちに、スヒョンの心は次第に、まだ会ったことのないクォンに傾いていきます。二人はソウルに住んでいて、何度か街ですれ違うけど、互いに気がつきません。愛を失った二人にとって、再生の道はお互いしか残されていないのだけれど、果して二人が会えるのかどうか。映画のエンディングに「ラヴァーズ・コンチェルト」が使われているからといって安心はできません。
(関連音楽)
 音楽の使い方も、なかなかおしゃれなセンスを持った映画で、ストーリーの要(かなめ)に、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのレコードが使われていますが、この他全体を通して流れる曲にメヌエット/バッハ(原曲と、ポップ・カバー曲「ラヴァーズ・コンチェルト」)があります。その他、「The Look of Love」/ダスティー・スプリングフィールド、「Yesterday is Here」/トム・ウェイツや、ソニークラーク・トリオによる名演「朝日のようにさわやかに」他のジャズ・ナンバーなどが使われています。
 
・「Pale Blue Eyes」/ヴェルヴェット・アンダーグラウンド

 この曲は、彼らの3枚目のアルバム「The Velvet Underground」(1969)に収録されています。
 ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは、ルー・リードを中心に結成されたニューヨーク・パンクの草分け的バンドで、シンプルながらノイジーで攻撃的なサウンドや退廃的な歌詞で、ロックシーンに大きな影響を与えました。彼らのアルバムの中では、彼らのデビュー・アルバムで、ポップ・アートの旗手アンディ・ウォーホルがジャケット・デザインをした"バナナ・アルバム"「The Velvet Underground & Nico」(1966)が最もポピュラーであり、内容面でも彼らの代表作との評価が高い作品です。
 この3rdアルバムは、よりリラックスした雰囲気で親しみやすく好きなアルバムです。中でも「Pale Blue Eyes」はメロディ、歌詞の優しさで彼らの曲の中でも傑出したものであると思います。女性ドラマー、モーリンの「After Hours」でのボーカルも妙に和(なご)めます。
 
・「メヌエット」/バッハ 〜 ラヴァーズ・コンチェルト(「メヌエット」のポップス・カバー・バージョン)
 スヒョンが、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのレコードを探しに行ったレコード店で、チェンバロの演奏によるバッハの原曲が流れていました。その後、何度かBGMとして登場する度に変奏され(編曲によるピアノ独奏、ギター+ピアノの演奏)、ラスト・シーンでは、ジャズ・ボーカルの女王、サラ・ヴォーンによる「ラヴァーズ・コンチェルト」が、高らかに響き渡るという、実に心憎い演出が、ばっちりきまっています。
 原曲のト長調のメヌエットは、バッハが2番目の妻で歌手だったアンナに贈った教育用のクラヴィア小曲集「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィア小曲集」に納められていて、曲集の中では、このト長調のメヌエットはとくにポピュラーな曲で、バッハ入門曲として、子供のピアノ発表会などでよく弾かれる曲です。「ラヴァーズ・コンチェルト」は、1960年代に黒人女性グループ、トイズによって歌われヒットしました。サラ・ヴォーンによるカバー・バージョンもポピュラーです。

7.美術館の隣の動物園(1998)涙腺刺激度:☆☆
(監)イ・ジャンヒャン  (演)シム・ウナ、イ・ソンジェ

恋なんて一瞬で落ちるものだと思ってた。でも少しづつ染まる恋もあるのね。

 アパートで一人住まいのチュニは25歳、結婚式のビデオカメラマンをしながらシナリオライターになることを夢みていた。チュニは議員秘書のインゴンに恋心を抱いているが、恋に臆病な彼女は想いを伝えることができないでいた。兵役の休暇を恋人タヘのアパートで過ごそうとやって来たチョルスは26歳、アパートの部屋にはタヘの代わりに、見ず知らずのチュニが住んでいた。タヘは他の男と婚約していることがわかり、他に行くあてもない傷心のチョルスは、10日間の休暇中、チュニのアパートに居候することになる。
 
 最初反発しあっていた二人の間にやがて愛が芽生えて....というロマンティック・コメディでは、おきまりパターンのストーリー展開ですが、チュニのキャラクターの面白さと、彼女が目下取り組んでいる公募シナリオ(チュニのタイピングの遅さを見かねたチョルスも手伝うことになる)「美術館の隣の動物園」のストーリーが劇中劇として挿入され、こちらの純愛物語も微笑ましく、全体としてなごめる映画となっています。
 シム・ウナ扮するチュニは、恋には臆病なくせに万事がさつで、掃除はしない、料理は苦手、コップは皆割ってしまいペットボトルをラッパ飲み。ところがチョルスのほうは、結構マメな男で、きれい好き、料理も得意だったりします。チュニのために割れないコップを買ってきたりして、心配りもなかなかのもの。このあたりの日常描写のうまさは、脚本・監督のイ・ジャンヒャンが女性であることと無縁ではないと思います。
 二人の共同執筆となっていくシナリオの主人公たちが、なんとチュニの片想いの相手インゴンと、チョルスの元恋人タヘとなっていて、しかもこの二人がシナリオの中では、チュニとチョルスの想いを投影させて、現実とは正反対のキャラクターで登場して純愛物語を全(まっと)うするというアイデアが秀逸でした。でもこんなメルヘンチックなシナリオでは、受賞は期待できないだろうな。

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